表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/103

魅せるのはっ!

 いろいろありました。


 ええ、ほんとにいろいろありました。


 思い返せば、なんだかとんでもないことばかりだったけれど……ついに、ついにですよ。


 ついに、決闘の最終日ですよ!


 最終日、残されたカードは両クラス一枚ずつ!


 あっちは、代表のゼファー=ローゼンベルク君。


 舞台に出たローゼンベルク君の顔色は、なんだろ、こころなしちょっと悪い?


 どうしたんだろうね?


 まあ、それは置いておいて。


 じゃじゃーん!


 はいこちらのカードです!


 ついにあの人の登場です。


 いまだに能力的には未知数なところが多い。


 いつも笑顔で動じない。


 そんな可愛いあやつ。


 そう……ナァアアアアユゥウウウウタァアアアア、ひゃはぁあああああああ!


 どんどんぱふぱふー。


 ナユタ選手、入場です。


 なんともリラックスした様子。


 ローゼンベルク選手を前に欠伸すらこぼしそうな雰囲気だ!


 ほんと余裕だなあの子!


 さすが特別クラスの皆が勝利を確信しているだけはある。


 ところで、そんな特別クラスの皆だけれど。



「古今東西ゲーム! はい、じゃあお題は『怖いもの』で! はい!」

「……母様」

「……母さん」

「……笑顔で怒ってるお母さん」

「……戦いに飢えた状態の母様達」

「……某姉妹の喧嘩」

「……お父様の鈍さにキレたお母様」



 ゲームして遊んでます。


 ちなみにアイリス、スイ、エレナ、茉莉、ソウ、小夜の順番。


 ナユタが余裕ならこっちも余裕っすわ。


 ていうかあの、怖いものの偏りがひどいんだけど。皆どんだけ母親怖いの?


 あとソウ、某姉妹って誰?


 なんだか一気に皆の顔が沈痛なものに変わっちゃったんだけど。


 ……そこまで母親怖いのか。


 そういえばイリアさんとかとんでもなかったしなあ。


 アイリス以外の母親も皆あんな感じだとしたら……そりゃ怖いか。



「じゃ、じゃあ好きなものは!?」



 雰囲気を変えようと逆のものを聞いてみる。



「母様達に給料をかつあげされながらも笑顔の父様」

「母さん達にぼこぼこにされながらも笑顔の父さん」

「お母さん達に怒られながらも笑顔のお父さん」

「戦いに満足した後の母様」

「……担い手」

「お母様ののろけ話をしている時以外のお父様」



 これまだ順番はアイリス、スイ、エレナ、茉莉、ソウ、小夜である。


 ほんとに偏るなこの人達。


 そしてそこの三姉妹、あんたらの父親はどんな人物だ。


 あとソウ、担い手ってなにさ、担い手って。


 不思議がいっぱいだけど、さっきの重たい空気は払拭されたからいいとしよう。


 ……さて、そろそろ試合開始の時間だろうか。


 そう私が舞台に視線を向けた瞬間。


 試合開始のブザーが鳴り響いた。



 ゼファーは双剣を手にしている。


 その双剣の色は、それぞれ純白と漆黒。神聖と邪悪の気配がそれぞれの刃から放たれている。


 ……また、面白いものだ。


 あれはただの双剣ではない。


 緋色の不完全な《顕現》と良く似ている。


 あの双剣は《顕現》の力で作りだされていた。


 とはいえ、緋色のように不完全だから武器という形でしか使えない、というわけではないだろう。


 あるいはあれは、小夜の《顕現》にも近いかもしれない。


 小夜の《顕現》は《顕現》をせずとも《顕現》をした力を振るうという矛盾を許容する《顕現》だ。


 いうなれば、ゼファーは緋色と小夜の《顕現》を掛け合わせたような《顕現》の使い方をしていた。


 そんなことをするのは、小手調べ、といったところか。


 ……小手調べをされるほど弱くないつもりなんだけれどね。


 とはいえ一瞬で終わらせたりはしない。


 しっかりと魅せなくてはならない。


 あと、ほんの少しだけれど、彼らがどうして特別クラスに挑んだのかも気になる。


 まさか本当に特別クラスが気に入らないから、なんて理由ではないだろう。


 そんな理由で、彼らほどの《顕現》が出来るわけがない。


 ……一部、例外はいたけれど。


 悠長に考え事をしていると、ゼファーの姿が消えた……かと思うと、私の目の前にその姿が現れる。


 距離や時を超越する。


 まあ、《顕現》としては初歩の初歩もいいところだ。驚くまでもない。


 黒と白の双剣が認識外の速度で振るわれる。


 認識の超越。


 その超越を《顕現》ならざる《顕現》で打ち破り、私はゼファーの動きに反応する。


 振るわれた二色の斬撃を、右手人差し指の爪で全て逸らす。


 別に馬鹿にするわけでも卑下するわけでもないけれど、小夜に出来て私に出来ない道理はない。


 《顕現》をしない《顕現》くらいは余裕だ。


 最後に左右から振り下ろされる双剣を人差し指と中指、薬指と小指で挟んで受け止める。



「なるほど……これが、特別クラスの中で尚特別とされる人間の実力か」

「特別クラスの中の特別……って、どこでそんなこと聞いたの?」

「見ていれば分かる。明らかにお前だけは、他と纏っている雰囲気が違う。他からお前に向けられる視線も、やはり普通のものではない。信頼……とも少し違うように思えるがな」

「……よく見てる、って言うべきなのかな。正直、そのあたりはあまり自覚がないんだけれど」

「己のことには誰しも鈍くなる。俺とて……今、自分のしていることがよく分からなくなってきている」

「へえ?」



 興味深い言葉が飛び出した。



「なにが分からないっていうの?」



 ゼファーの目が細まる。



「……お前らはなんなのだ」

「なに、って?」

「そのままの意味だ。特別クラスが存在する意味が、俺には分からん。意味もなく、ただ特別として扱われているようにしか見えん……見えなかった」

「過去形なんだ?」

「《顕現》の異常な暴走といい、昨日の意味不明な現象といい……細かいところから言えば違和感は山ほどあった。ああ、なるほど、確かにお前らはなにかが特別なのかもしれない。そう思うようにも、なっている」

「だったら――」



 戦う意味なんてない、そう続けようとした。



「だが!」



 ゼファーの双剣から白と黒の輝きがあふれ出す。



「それでもやはり同じ生徒として、特別などという枠組みは不要だと俺は信じている! ここまで来てしまったのだ……もう後には退けん! 終わりは、我らの信念が折れるか、特別クラスが消えるかの二つに一つだ!」

「……そっ、か」



 なるほど。


 なかなかの信念だ……と思う。


 けれど私には、よく分からない。


 ゼファーが語った言葉の中には、どことなく義務感だとか責務だとか、そんなものが感じ取れた。


 けれどそれは、なんというか……あくまで公的な気持ちであって、私的ではない。


 主観でなく、客観なのだ。


 ゼファーにとって、今回の行動に己というものはあるのだろうか?


 漠然と、一生徒として、学園のために……そんなものしかない気がする。


 私にはそれが分からない。


 私は己のない信念なんて、理解できない。


 それは一体、どういうものなのだろう。


 自分のしたいようにすればいいのに。


 自分のためになることをすればいいのに。


 それがいやなら投げ出してもいいのに。


 そう思ってしまう。


 退けない?


 退かないだけじゃないの?


 分からない?


 じゃあ逃げ出しちゃえばいいのに。


 そんなふうに考えてしまう。


 私は、誰かの為の信念なんて持てない。


 それほど私は余裕を持てない。


 自分のことで、手一杯なのだ。


 それを考えると、もしかしたらゼファーは私よりも凄いのかもしれない。


 いや、凄いのだろう。


 尊敬する。


 だが――それが強さに直結するかといえば、悲しいことに、そんなことはない。


 《顕現》とは己を信じる力。


 ならば、自己陶酔こそ《顕現》の力の源とすら言えるだろう。


 そうなればきっと強いのは、他の誰よりも自分を優先する、この私なのだろう。



「答えが二つに一つっていうなら、それはもう決まっているよ」



 小さく笑う。


 ゼファーの言い分は分かった。


 間違ってない。


 ああ、きっとなにも間違えていないのだ。


 けれど、負けはしない。


 何故なら特別クラスが存在することを、私は間違いだと思わないから。


 私がいまいる場所を間違いだなんて、とてもじゃないけれど思えないから。


 どっちも間違いじゃないなら、最後にまかり通った方こそより正しい。


 そうでしょ?



「答えは、貴方達の信念の敗北だよ」

「っ、舐めるな!」



 ゼファーが私から距離をとる。



「俺は、ここまで力を貸してくれた皆のためにも負けられんのだ!」



 双剣の輝きがさらに強まる。


 白と黒の輝きは、そのままゼファーの身体を侵食していく、


 ゼファーの身体が輝きに溶けて、再構築されていく。


 純白の右手甲。漆黒の左手甲。


 両の手首からは、鋭い三本の爪が伸びている。肘や肩から鋭い角のようなものが伸びていた。


 白と黒は混じり合うことなく、螺旋を描くようにゼファーの胴を包み鎧となる。


 純白は兜に。漆黒は腰から下を覆う布に姿を変えた。


 それは、清濁を象徴したような歪な騎士だった。


 両手首から生えた爪が大きく開く。



「……貴方に敬意を表して、選ばせてあげる。万能、守護、創造、疾走、破壊、追求……さ、どれがいい?」

「なにを言っている?」

「いいから、選びなよ」

「……」

「なら、全てだ」

「全て?」



 思わず苦笑する。



「そう。全て見せろ」

「なるほど……そういえば、数は指定していなかったっけ」



 でも、本当にいいのだろうか?


 ……まあいいか。



「なら、約束通り、全部魅せてあげるよ。私の《顕現》を……まずは、そうだね。追求からにしようか」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ