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女神の名前はっ!

 自分の家に戻ってきて、畳の上に寝転がる。


 もう帰っていいという言葉を、さっきツクハさんにもらったのだ。


 ……うへえ。


 身体がだるい。


 ずっと寝ていたせいだろうか?


 それとも、別の理由?


 そうなら、理由ってなんだろう。


 意識がないときの私の行動、とか?


 まあ《顕現》してる人三人もぶっ飛ばしてたらそりゃだるくもなるかもしれないけど。


 ……ていうかスイとかアイリスとかいつのまに《顕現》出来るようになってたんだ。


 あれ、もしかして特別クラスで《顕現》出来ないのって、もう私だけ?


 うわぁ。やべー。


 どうしよ。


 私よ、どうやって《顕現》してる三人をぶっ飛ばしたのですか?


 是非とも教えていただきたい。


 ……とか、冗談言ってる場合なのかな。


 いやぶっちゃけ、率直な話……怖くない?


 自分で知らないうちに、自分が暴れまわってたんだよ。


 マジでホラーだって。


 サイコか、私は。


 そんな馬鹿な――と否定できないのが、本当にヤバい証拠だろう。


 もしかしていきなり変化した環境にストレスを感じていた、とか。


 それが気付かないうちに溜まって爆発、みたいな。


 ないな。


 思わず断定する。


 だってほら、この緋色ちゃんですぜ。


 そんななよっちい精神してませんって。


 でも、ならなにが原因なのかな。



「……わかんね」



 こういうときは、あれだな。


 畳の上を這って、冷蔵庫の前まで移動する。


 そして冷蔵庫の中から、飲むヨーグルトを取り出した。



「たらららん!」



 飲むヨーグルトを横になったままの状態で煽る。


 おっと口の端から白濁がこぼれちゃうぜ。


 てへっ。


 口の端からこぼれそうになる白い液体を舌でなめとる。


 おいおいなんだか邪な思念を感じるぜ?


 どこの誰だい井戸の中に乳、尻、ふとももとか今にも叫び出しそうな不届きな輩は。



「ぷはっ」



 飲み終わって、空になった容器をゴミ箱にシュートする。


 別に投げる方向ちょっとミスったから途中で魔術で軌道を調節するとかそういう無駄な力の使い方なんてしてないし、本当だし。


 空中で容器が六十度くらいのカーブをしたのはなにか運命で決められていた事象だったんですよ、ええ。



「……はぁ」

「憂鬱そうね」

「……」



 出たよ。


 気付けば、背後に気配があった。



「……あの」



 振り返る。


 そこで思わず目を見張った。


 銀色の髪に、純白の翼。黒いドレス。そして蒼い瞳。


 あの人が、私の部屋の窓枠に腰をおろし、私のことをみていた。


 ……実はこうしてこの人と顔を見合わせるのは、二度目なんだよね。



「とりあえず……不法侵入なんですけど」

「そう」



 あ、気にしない?


 なるほどサーセン。


 いやいやそんな馬鹿な私は気にしますよ?


 へっへっへっ、お姉さん、このことを問題にされたくなかったら身体で支払ってもらおうか?


 なんちゃってね!



「あら、なんちゃって、なの?」

「あんたが私の心を読んでることなんて百も承知ですわ!」



 もう諦めたよ、その辺り。



「拗ねないで」



 くすりと彼女が笑う。


 ええい、いちいち行動一つ一つが絵になるなぁ。


 脳内メモリに永久保存ですよ!



「あなたのその戸惑い顔、私も忘れないわ」

「……反則っす」



 嬉しいこと言ってくれるじゃないですかこのお方は。


 なんだよもう、しかたないなあ、今から手料理作ればいいんですか?


 実は料理とか出来るかもしれない人なんですよ、緋色ちゃんは!



「それは楽しみね……けど残念。今の私に、食事をする機能はないから」

「はい?」



 食事をする機能が、ない?



「それって……?」

「今の私は影法師。影に食事なんて必要ないでしょう?」

「はあ……」



 意味が分からない。



「気にしなくていいわ。それよりも、心配事があるのよね?」

「……」



 心配事、といえばいましがた考えていたことだろう。



「分かってて出てきたんですよね?」

「まあね」

「ならわざわざ聞くことないんじゃ……」



 彼女がにっこり笑う。


 あ、はい。もうなんでもいいです。


 その笑顔で許しちゃう。



「ええと、それで? あなたが心配事を解消してくれたりするんですか?」

「それは自分でやらないと、意味がないわ。私は、ただ謝りに来ただけ。迷惑をかけてしまっているからね」

「迷惑? 迷惑といいますと?」

「そのうち分かるわ」



 迷惑かけてるとか想ってるならその辺り説明しようよ……。



「そう言わないで。今は、あまり説明出来ることが多くないの。今教えてしまったら、私の予定が狂ってしまうかもしれないから」

「……予定って、なんですか?」

「さあ」



 ですよねー。


 まあ、答えてくれないだろうなあ、とは思ってたけど。



「悪いけれど、今はあなたを私の計画に利用している、としか言えないわ」

「……それだけでも気分としては、あまりいいもんじゃないですけどね」

「だから、ごめんなさい、なのよ」



 そんな微笑みながら謝られても……許しちゃうけどね!



「そうね……多くを語れない代わりと言ってはなんだけれど、一つ、私に答えられる質問なら、なんでも答えてあげるわ」

「え、マジで?」



 ここで来たぜサービスタイムが!



「じゃああなたのスリーサイズを!」

「本当にそれでいの?」

「……」



 そう改めて返されると答えに困るけどさ。


 いや、真面目な話、なに聞くよ?



「ええと、じゃあやっぱり質問を変えて……」



 彼女に言えることなら、ってことは、彼女の言えないこと――つまり不都合なことは教えてくれないってことだよね。


 そうなると、今回の件について質問はアウトだろうし……ううむ。


 なに聞こう。



「……じゃ、あなたの名前を教えてください」

「あら」



 意外そうな顔をされた。



「そんなのでいいの?」

「まあ」



 本当になにも思いつかなかったんだもん。


 それに名前を知ってるって、大切なことだと思うし。



「あなたがいいのなら、いいのだけれど……」



 彼女が肩を竦める。



「エリス、よ」

「エリス、さん?」

「ええ。改めて、よろしくね、緋色」



 エリスさんが片手を差し出してくる。



「あ、はい」



 その手を握り返す。


 あれ?


 掴んで手は……なんだか、存在感というか、なにか、根本の部分にあるなにかが薄いような気がした。


 と、ぐいと手を引かれる。



「おまけで、もう一つ、教えてあげる」



 エリスさんが私の耳元に口を寄せる。


 そして囁かれたのは……。



「それじゃあね」



 白い羽が視界を舞った――かと思った次の瞬間にはエリスさんの姿は消えていた。



「……ないすばでー」



 囁かれたのは、エリスさんのスリーサイズだった。


 ぱねぇっす。



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