寝起きはっ!
どうも、緋色です。
緋色です。
さっき、目が覚めました。
なんでか知らないけれど、最後に記憶に残っているのはクロウウッド君と戦闘しているとこまでで、気付いたらそこから一日以上時間が経っていました。
意味がわからんとです。
緋色です。
緋色です。
……ところで一つ聞いてもよろしいてしょうか。
起きたのが保健室のベッドなのですが、どうして私を特別クラスの皆が囲んで、うち半数近くが怖い目つきをしているのでしょうか?
ちなみにその中でもアイリスは横のベッドで上半身だけ起こしている状態だ。
あと、保健室の壁が一面ぶっとんでるのですが、一体なにがあったというのでしょう。
なんていうか、大量の火薬でも使って吹き飛ばしたみたいになってるんですけど。
いつからこの学校では爆発ビフォーアフターなんていうローカル番組が始まったんだろう。
「……緋色、あなた、いつもの緋色?」
スイが鋭い声を投げかけてきた。
「はい?」
首をひねる。
「いつもの、って……いや、私は私でしょうが」
「……」
何故疑いの眼差しだし。
「あんなことをされた後ではやはり信じきれませんね」
エレナまでどうしたっていうんだ。
「あんなことってなにさ?」
「殺されかけました」
「……誰に?」
「あなたに」
「はあ?」
私?
え?
いやいやいや。
「なにを言ってるの?」
「覚えていないんですね。まあ、明らかに正気ではなかったですし……」
「だから、なにを……」
「緋色が暴走してスイとかエレナとかをボコボコにしたって話」
横からナユタが口を挟む。
「……え、マジ?」
皆の顔を見回す。
一斉に頷かれた。
訂正、アイリスだけは苦笑を浮かべているだけだった。
「私もその時の記憶がなくてなあ……」
「そう、なの? えっと……んん? ごめん、やっぱりよく分からないんだけど、どゆこと?」
「つまり――」
スイが、起きた出来事を順序立てて教えてくれた。
私がクロウウッド君との戦いで変なふうになって、そのままクロウウッド君にぼこられて昏睡状態に陥ったこと。
アイリスが《顕現》で暴走してしまったこと。
そこにこれまた意味の分からない状態の私が登場して、暴れまわって《顕現》してたスイとエレナ、暴走中アイリスまでをもぶっ飛ばしたこと。
……いや《顕現》してた三人をぶっ飛ばすとか私なにしたんですか!?
「……」
「あれ?」
ふと、ナユタの様子に少し違和感を覚えた。
一瞬だけ、いつも飄々としているナユタの横顔が歪んだように見えたのだ。
しかし、改めて見直すとそんなことはなくて……見間違いだったのだろうか。
「ん、どうかした、緋色?」
ナユタが私に微笑みかける。
「あ、うん。なんでもない」
「そう?」
やっぱり、いつものナユタ、だよね。
「それにしても、あの緋色はなんだったのかしらね……」
「ツクハさんにでも聞けば分かるでしょうか?」
スイとエレナが不思議そうな顔をしながら私のことについて話し合う。
「……」
しかし、そんなことをしていたのか、私は。
……ちょっと、怖いな。
自覚のないうちに、皆を傷つけてたなんて。
「……あの、ごめんね」
頭を下げる。
「え?」
皆の目が点になった。
「迷惑、かけちゃって」
「……いいですよ」
小夜がため息混じりに言う。
「うん。いいよ……このくらい、仲間なら別に迷惑じゃない」
茉莉も小夜に同調してくれた。
「そうだな。それに、迷惑という点で言うなら暴走した私はなにも言えん」
「そうですね」
「全くよ」
アイリスの言葉にエレナとスイが何度も頷く。
「ま、そういうことみたいだよ、緋色。もちろん、私もソウも、気にしてないから」
ナユタが笑い、その横でソウは無言の肯定をする。
聞く限りじゃ、私がやったことは結構とんでもないことだ。
なのに、こんなにあっさり許してくれるなんて。
皆、優しいなあ。
惚れるぞこの野郎。
野郎じゃないけど。
「……ありがと、皆」
べ、別にちょっと声とか震えてねえし!
うるっときてねーから!
ほんとだかんな!
ちょっ、おいなんだよう! そんな生温かい目をするなよう!
「あ」
そこではたと、もう一つ謝らなくちゃいけないことに思い当った。
「あの……それで、負けちゃって、ごめんね」
変な状態に陥ってまでクロウウッド君に負けちゃうとか……そこは普通勝ちフラグだろ。
誰だ私の勝ちフラグへし折ったやつ。
クロウウッド君か。
あのスイートなスマイルで私のフラグへし折ったんか。
アイリスはちゃっかり暴走で勝ちフラグきっちり回収してるのに……理不尽だ。
「ああ、それこそ気にしないでいいって」
ナユタが私の謝罪を笑い飛ばす。
他の面々も……あの小夜や茉莉ですら、若干の笑みを浮かべていた。
え?
私なにかおかしなこと言った?
「緋色が負けて、私が勝って……そうなれば、勝敗は次の一戦にかかっている。そして私達の中で最後の一人は――」
アイリスがちろりとナユタを見つめる。
「……負けないだろ、ナユタは」
「まあね」
あっさりと、ナユタは肯定した。
自分の勝利を。
……すげえ。
そこまで堂々と勝利宣言するとか、どんだけですかナユタさん。
「ま、安心しなよ緋色。きっちり次の試合、私が勝ってくるから」
「……うん」
ナユタの言葉には、妙な説得感があった。
「じゃあ、圧勝してきちゃって、ナユタ」
「ん、圧勝?」
にやりとナユタが笑う。
これまでとはちがう、鋭い笑みだ。
「違うよ。圧勝じゃない」
ナユタが肩を竦める。
「だって勝負をする気なんて、ないからね」
「え?」
勝負をする気なんてない、って……。
「私もいろいろあって、今ちょっとだけ気が立ってるから……優しく同レベルでいい戦いをしてあげるわけないでしょ?」
少し、背筋に寒気が奔った。
「じゃあ……どうするの?」
「もちろん、瞬殺」
ナユタがかわいらしいウィンクをする。
……なんかカッケー。
って、おいおいおい。
「瞬殺って殺したら駄目だよ?」
「言葉のあやだよ。まさか本当に殺すわけ……ねえ?」
「ねえ、って……」
聞かれても困るんですけど。
「ていうか、瞬殺は勘弁してあげようよ。なんか最後の最後で凄いかわいそうだし、あっちだって真剣なんだよ? もうちょっと、ほら、気遣いとか!」
「えー」
あ、その表情マジかわいい。
ナユタが唇とかとがらせちゃうなんてマジぱねぇっす。
――じゃなくて!
「私、ナユタの活躍が見たいなー!」
てへ!
みたいな?
「……んー」
あれ?
ちょっと考えてくれてる?
「緋色がそう言うなら、まあ……」
ナユタが苦笑して頬を掻く。
「ちょっとくらい演出に気を遣ってもいいかも?」
「まじっすか」
ちょっと気まぐれでっただけなのに。
ナユタってばやさしい!
「それじゃ、是非!」
「……ん、了解。じゃあまあ、明日を楽しみにしててよ」
「うん!」
とりあえず瞬殺は回避。
最後なんだし、こう、ぱーっとした戦いを期待したい。