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出来るのはっ!

みょーめー様にナユタのイラストを描いて頂きました!

ぱねぇっす。

最後に挿絵入れておきますね!



 私の部屋に、来客があった。



「――あれの心は、少しばかり強すぎる」



 紅茶を飲みながら、イリアさんが苦笑する。



「なあ、メル。別に我が子自慢をする気じゃないんだがな。あの子は、姉妹の中でも特に強いんだ」

「……そうですね」



 ちなみに、もちろんエレナやスイが弱いと言っているわけではない。



「しかし、強いというのは、抑えにくいという意味でもある。果たして、あの子にそれだけの力を使いこなせるものかな?」

「そこは、母親が育てるところではないでしょうか?」

「難しいことを言うな」



 イリアさんが肩をすくめる。



「子を持って理解した。育てるということが、どれほど難しいか。世界の危機など、今思えばまだマシだったな。まったく……あの子に……アイリスに、早く心の支えを見つけてもらいたいものだな。そうすれば、少しはいい方向にいくだろうに」

「心の支え、ですか? 私達にとってのあの人のように?」

「――む」



 突如、イリアさんが眉間にしわを寄せた。



「そうなると、嫁にやらんといけないわけか……まあ、あの子が選ぶ相手なら私も納得が……いや、しかし……むぅ」



 ぶつぶつとイリアさんがなにかを呟いている。


 思わず、笑ってしまう。


 親だなあ、って。


 窓の外に視線をやる。



「……幸せになってくれればいい。私は、そう思いますよ」

「それは違いないがな……しかしなあ」



 なに、あれは……。


 私は目を疑った。


 今、闘技場では姉さんとシューレという生徒が戦っている。


 シューレの発言に許し難いものが多々あったが、今はそんなことはどうでもいい。


 そう。


 どうでもいいと思えるほどの問題が、起きていた。



「エレナ姉さん……あれって」



 スイも、横で茫然としていた。


 スイだけでなく、他の皆もだ。



「どういう、こと……?」

「わかりませんよ、そんなの……」



 姉さんが地面に叩きつけられた、直後。


 シューレの哄笑が響くなか。


 ――姉さんの身体を、黒が覆い包んだ。


 常闇ではない。


 それは……間違いない。



「《顕現》……?」



 そう思うが、確信が得られない。


 だって、あんな《顕現》……あんな、恐ろしい《顕現》が姉さんの?


 そんなの、信じられない。


 《顕現》は、その人間の本質を示す。


 ならば……ならば、だ。




 この巨大な、闇で作られた漆黒の獣こそが姉さんの本質だと、そう言うのか?




 そんなのは、信じられなかった。



「なんだぁ、出来るんじゃないですか!」



 シューレが嬉しそうな声をあげた。



「最初からちゃーんとそれを使ってくださいよ。まったく……それにしても醜い《顕現》ですねえ」



 けらけらとシューレが笑う。



「まあいいでしょう。では私も――」



 黒が、空を裂いた。


 次の瞬間、シューレの身体が消えた……かと思うと闘技場の外縁の一部が砕け、観客席の決壊を打ち砕いた。


 ――吹き飛ばしたのだ。


 ただ、純粋な行動。


 殴って、飛ばした。


 それだけでシューレの身体は結界や壁という障害を貫通し、闘技場の外、どことも知れぬところまで吹き飛ばされたのである。


 ……ちょっと、すかっとしましたね。


 これで、三勝三敗。


 よかった……などとは思えない。


 なぜなら、そんなことどうでもいいと思えるくらいの問題が起きてしまったから。


 目の前では、漆黒の獣が天に向かって咆哮を上げている。


 その咆哮が、観客席の一部に襲いかかった。


 いくつもの悲鳴が上がる。



「――」



 瞬時に片腕を《顕現》して、黒の矢で咆哮を相殺する。


 すると、すばやく生徒達の避難が始まった。


 避難の開始が、いくらなんでも早すぎる気がする。


 ……もしかして、こうなることを予想していたんでしょうか。どこかの誰かさんは。


 ここにきて、ようやく私は姉さんの状況を把握した。


 聞いたことだけはあった。


 心が強すぎる《顕現》が起こしてしまうかもしれない可能性。



「……暴走、だね」



 ナユタが呟く。


 そう、暴走。


 心の強さが、精神を大きく上回ってしまうせいで起こる状態。


 なんの抑えも効かない。


 ただ、心のおもむくがままに事を行うもの。


 そしておそらく、姉さんの今の心は――破壊だ。


 シューレへ抱いた怒りで、シューレを倒したいという想いで、姉さんは《顕現》した。


 まず間違いなく、それは破壊という衝動に傾けられている。


 今、観客席を攻撃したのがその証拠だ。



「まったく……」



 勝てたのはいいとしても、これは……。



「世話をかける姉さんですね」



 《顕現》する。



「エレナ姉さん?」



 スイが私を見る。



「止めないといけないでしょう。あの馬鹿姉を」

「……」



 少し、スイが悔しそうな顔をする。


 ……うん。大丈夫。分かってる。



「今回は、スイの分も私が姉さんを殴ってくるから」



 なにもできないのが、もどかしいんだよね。



「……ん、よろしく」

「よろしくされました」



 笑って、私は観客席を飛び出した。


 と、隣に並ぶ影があった。


 《顕現》した茉莉だ。



「……生徒の面倒をみるのも、仕事」

「そうですか」



 笑みがこぼれた。


 視線の先では、私達とは正反対の位置から一歩先に出ていたクリストフさんやレンファートさんをはじめとした四人が姉さんに攻撃を加えようとしていた。あちらのリーダーであるローゼンベルクさんの姿はない。どうやら、次の試合のことを考え、控えているようだ。


 向こうも、もちろん全員《顕現》をしている。


 が――姉さんの咆哮一つで、人のいなくなった観客席まで吹き飛ばされ、そのまま動かなくなる。


 《顕現》四人をあっさりと、ですか……。


 これは少しばかり、油断できませんね。


 まったく我が姉ながら、心の強さは一流ですか。


 厄介な……馬鹿姉め。


 思わず心の中で毒を吐きながら、私は茉莉と共に姉さんと戦い始めた。



「ちょっと」 



 私は観客席に残った面子を見回す。



「あなたたちは、いかないの?」



 すでにエレナ姉さんと茉莉は、アイリス姉さんとの戦いを始めている。


 力は、拮抗している……のだろうか。


 私にはそんなことも分からない。


 ただ、いちおう三人が三人とも戦い続けているということだけが分かった。


 とはいえ、すでにその戦いの様子は私の目では追えない域にあるけれど。



「……貴方の姉のことでしょう。私が関わる義理はありませんよ」



 小夜が、そんなことを言いだした。



「そんなこと言ってる場合!?」



 アイリス姉さんがあんな風になっているのに……!



「……」



 小夜は、それきり口をつぐんだ。



「あんたは……!」

「まあまあ、スイ。落ち着きなよ」



 ナユタがそう声をかけてくる。



「落ち着けって……そんなの無理に決まってるでしょ! っていうか、あんたもどうして残ってるのよ! 行きなさいよ!」

「んー、でも一応、次の試合もあるしさ、ここで下手打って私が戦えなくなったら、多分一番悲しむのはアイリスだよ?」

「う……」



 その言葉には、なんの反論も出来なかった。



「だ、だったら、ソウは……!」

「申し訳ありません」



 ソウが無表情ながら、どことなく申し訳そうな顔をする。



「私は……こういう場面では力を振るえないのです。そういうものなので」

「……」



 意味は分からないが、ソウの言葉が嘘でないというのは伝わってきた。


 だから、なにも言えなくなってしまう。



「……っ」



 視線をアイリス姉さん達に戻す。


 戦いは、激化しているようだった。


 もどかしい。


 もどかしいよ……。


 どうして私はなにも出来ないのだろう。



「この間抜け」

「――っ!?」



 すると、頭の後ろを思い切り叩かれた。


 いや、叩かれた、なんて生やさしいものじゃない。


 もはやそれは、こちらを殺しにきているのではと疑うほおの威力だった。



「なにを……!」



 後ろに振り返って……私は硬直した。


 私の後頭部を叩いたものの正体は、水で出来た、爪翼のとがっていないところだった。


 ……というか、爪翼なんて生やしている人を、私は一人しか知らない。


 蒼銀の髪が、見えた。



「か、母さん……」



 間違いなくそれは、母さんだった。



「この馬鹿娘」



 半眼で、母さんが私のことを見下してくる。



「どうしてこんなところでのうのうとしているわけ?」

「だ、だって私、《顕現》出来ないし……」



 と言った瞬間、爪翼のとがっているところが首にあてられた。


 母さんの動きなんて、少しも見えなかった。



「《顕現》出来ないから、なに?」



 にっこりと母さんが笑う。


 これは、いけない笑顔だ。


 直観する。



「力がないから、こうして止まってるわけ? へえ、なるほどねえ」



 母さんが爪翼を引く。


 ほっ、と安心したのもつかの間。


 母さんの拳が私の顔を思い切り殴り付けた。



「っ……!」

「甘ったれてるんじゃないわよ、スイ。貴方、力がないからなにも出来ないなんて……そんな言葉、私やあいつの娘として吐くわけ?」



 母さんは無表情だった。


 けれど知っている。


 これは、母さんがこの上なく怒っている時の顔だ。



「本当に……ふざけるんじゃないわよ。あんたの姉があんな風になっているのに、なにもしないなんて……ああ、それはとんだ下種じゃない」

「で、でも……っ」



 さらに母さんが私のことを殴る。



「言い訳はいらない……そもそも、貴方はなにを勘違いしているの?」

「勘、違い……?」

「《顕現》は想いの力よ。ただ、純粋に己を信じる者だけが得られる。それなのに……そうやって言い訳していて、貴方は自分を信じられるの?」



 母さんの視線が、私の目……その奥底を覗きこんでくるような錯覚。



「それに、もう貴方はそこに手をかけてる。あとは、少しの決意があればいいのに……貴方はね、《顕現》が出来ないんじゃない。していないのよ」



 して、いない……。


 私が、《顕現》を?



「そんなこと……」

「自分で自分のことに気付かない、というのはね、世の中よくあることよ。私が言うのだから間違いはない」



 自信満々に母さんが言い放つ。



「スイ……あなたはどうしたいわけ?」

「そんなの……アイリス姉さんを、助けたいに決まってる……」

「ならいきなさいよ」

「でも……」

「自分の姉の為に《顕現》一つできないようで、私の娘を名乗る気?」

「……」



 にやりと母さんが笑う。


 それは……自意識過剰だろうか。


 私にならば出来ると、そう言ってくれているように、感じた。


 私のことを娘として、誇っていてくれると、そう感じたのだ。


 ……嫌だな。


 このまま、母さんの期待を、裏切りたくない。


 なにより自分の姉の為に《顕現》一つ出来ないなんて……それは、うん。


 みっともないし、かっこわるい気がする。



「本当に、出来ると思う?」

「……」



 くるりと母さんが私に背中を向ける。


 もう言葉はいらないだろう、と。


 出来ないならもう知らない、と。


 そして……出来るでしょう、と。


 ……うん。


 そうだよね。


 出来る。


 出来るよ。


 このくらい、やって見せるから……!


 私は、私を信じる。


 私はアイリス姉さんを助けたい。


 ううん。


 助けるんだ。


 その為の力が欲しい。


 ううん。


 もう手にしてる。


 だからあとは、踏み出すだけ。


 行くわよ……アイリス姉さん……!


 この馬鹿姉、一発ぶんなぐってやるんだから。




 ――――《顕現》――――。












挿絵(By みてみん)


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