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混沌はっ!

「どういうつもりだったんだ、クロウウッド」



 控室。


 椅子に座り、顔を覆うクロウウッドに問う。



「……分からない」



 しかし、クロウウッドは弱々しい声え、そういう。



「分からないんです、僕には、なにも」

「分からない、って……それは、どういう」

「分からない。分からない」



 クロウウッドは、ただそれだけを繰り返した。


 身体を丸めて、まるで闇を恐れる子供のように。



「分かりませんよ。なんですか、あれは……あれは……」



 保健室のベッドに横たわる緋色には、怪我ひとつない。



「とりあえず、身体の方は全快かな」



 そうツクハさんが言う。


 しかし緋色は一向に目を覚まさない。


 ツクハの横になるベッドの周りには、特別クラス全員とソウが集まっていた。


 ……その光景に、こんな状況ながら内心驚く。


 自分で言うのもなんだが、特別クラスの面々というのは独特だ。


 私達三姉妹しかり、ナユタしかり、小夜も茉莉もそうだ。


 私達はそれぞれが強い個性を持っているが故に……相容れることはなかなか出来なかった。


 そもそも小夜なんて最初から周囲に拒絶の意思を示していたし、茉莉は考えていることがよく分からない。ナユタは表向き笑顔で接してきたりするけれど得体が知れないところがある。エレナは腹黒だし、スイは気が強くて人と合わせるということが苦手だ。


 私は……まあ、自分でもそこそこ高慢な性格をしているのは知っている。


 そんな状況で仲良くやるのは、簡単ではない。


 というか、実際ほぼ交流なんてないようなものだった。


 だが、緋色は違う。


 緋色は、特別クラスの全員に関わっていた。


 関わって、繋がってきた。


 不思議だと思う。


 どうしてこんなにも、緋色は誰とでも仲良くなれるのか。


 答えは、自然と湧いてきた。


 ……緋色だから、か。


 他でもない、緋色だから私達はこうして繋がっているのだろう。


 答えとも言えない答えだが、それ以外の解はなかった。


 現にこうして全員が集まっている以上、その解は間違っていない。



「緋色……」



 思わず、口から名前が出た。



「ツクハさん。緋色は大丈夫なんですか?」

「……さあ」



 私の問いに、ツクハさんが肩をすくめる。



「それは緋色次第ね。可能性で言えば、緋色がこのまま目覚めない可能性がある、とは言っておくけれど」

「そんな……!」



 目覚めない、だと?


 そんな馬鹿な!


 どうしてそんなことになるんだ。



「緋色は今、心を圧迫されている」

「心を、圧迫? それって、どういうこと?」



 ナユタが横から質問を投げかけた。



「そう。制御も出来ない無茶な力を使おうとした代償としてね」

「力……《顕現》のこと?」

「……」



 ツクハさんが薄く笑う。


 その笑みが示すのは、肯定か、否定か。



「そんなことより、なんとか出来ないんですか!」

「無茶を言わないでよ、アイリス。私にだって出来ないことはある。私の妹のセリフを借り受けるなら、私は万能であっても、全能ではないの」



 ツクハさんが緋色の顔を見る。


 眠り続ける緋色は、時折苦しそうに顔を歪めていた。



「私としても、不出来な妹が関わることだし、なんとかしてあげたいとは思うのだけれどね」

「――っ」



 その時、ナユタの肩が僅かに揺れた……気がした。



「あの人が……」



 なんだ?


 そういえば、私は今まで何度かツクハさんに妹がいるらしいという話は聞いたことがあったが、それが誰なのかは知らない。


 もしかしてナユタは、その人を知っているのか?


 だが、だからといってどうしてそんな……苦々しげな顔をするのだろう。



「とにかく、緋色の心の強さ次第ね……私としては緋色の心の強さを信じたいところだけれど、今回ばかりはどうだろうね」



 ツクハさんが目を細める。



「ほんと……どうだろう」



 ……くそ。


 なんだ、これは。


 どうしてこんなことになっているんだ。



 夜が明けても、緋色は目を覚まさない。


 朝になって、もうすぐ試合の時間だった。


 だが、特別クラスの人間全員が、まだ保健室にいる。


 誰一人動く気配はなかった。


 私含め。


 しかし……いつまでもこうしてはいられない。


 私は、行かなくては。


 どうせ向こうが今日、試合に指定してくるのは私だろう。


 なら、このまま不戦敗など、そんなのはありえない。


 なぜなら、それは昨日あれだけ戦った緋色の行為を無駄にすることに他ならないから。


 ……行くか。


 ゆっくりと一歩を踏み出す。



「私も行くわ」

「私もです」



 スイとエレナが私についてくる。



「別に、残って緋色の側にいてもいいぞ?」

「やめとく。緋色ならこういう場面ね、私に構ってる暇があればお姉さんの応援に行け、って言うと思うし」



 スイが、笑みを浮かべながら言った。


 ……確かに、言いそうだな。



「そうだね」



 同意したのは、ナユタだった。



「そういうこと言うのが緋色だし」

「……ええ」



 ナユタとソウが動き出す。



「緋色に、怒られる」

「別に今彼女の側にいて、何ができるというわけでもありませんしね」



 茉莉と小夜が動き出す。


 ……ちょっと待て。



「これじゃあ、緋色が一人になるぞ」



 ツクハさんも姿が見えないし。



「いいんじゃない? そうすれば、どうして私を一人にするのさー、って起きるかもよ?」



 ナユタがふざけるような口調で告げる。


 確かに、それはありそうな話だった。


 皆の間に小さな笑い声が生まれる。



「……そうだな。なら、私の応援を頼む」



 緋色は、不思議なやつだ。


 私達全員と繋がって……私達全員を、繋げてしまった。


 緋色……早く、目を覚ませ。



 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ――!


 その意思は、狂気そのもの。


 理性というものが感じられない。


 ただ殺すためだけの機械。


 お前たちは不要だ。だから死ね。死んでくれ。


 そう祈り、力を振るう。


 何故だ。何故殺されなくてはならない。


 反意があった。


 ただ生まれおちただけ。生きようとしているだけ。完全を目指しているだけ。それでどうして疎まれなければならない。ならばどうして己は生まれたのだ。


 その意思は、叫んでいた。


 憤怒と悲嘆を孕みながら。


 ならば産まなければよかったのに。


 どうして?


 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!?


 頭が割れそうだ。


 なに、これ。


 おかしくなりそうだ。


 意思が、流れこんでくる。


 一つ二つじゃない。


 数えきれない意思が。


 情報が整理できない。


 それはもう、濁流。


 汚濁も清浄も混沌としている。


 やめろ。


 潰される。


 私が潰される。


 消えて。


 嫌だ。


 なんでこんなことに。


 私は望んでない。


 私は醜い。


 私は歪だ。


 もう一人の私。


 勝ちたい。


 負けられない。


 お前の想いに応えたい。


 勝利を捧げよう。


 早く起きて。


 貴方の事はそこまで嫌いじゃない。


 緋色。


 なに。


 混ざる。


 どれが、どれ。


 なにが、なんなの?


 彼で彼女でそれでこれで――。


 あ、ぁあ……!


 嫌あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!



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