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私の番はっ!


 現在、互いに二勝二敗。


 第五試合。


 マクシミリアン=クロウウッド。


 それが私の試合相手の名前だった。



 既に私は、闘技場の中央近くに立っていた。


 相手の入場を待っている形だ。



「――まあ、そりゃそうだ」



 どちらかが二勝を先取すれば、それで今回の騒動は終わる。


 特別クラスの残りの面子は私の他には、アイリスとナユタ。


 ナユタは《顕現》が出来るから、論外。


 あちらとしても、最後に回して出来るだけ戦う機会がないようにしたいはずだ。


 ならばもう一人はどうだろう。


 アイリス。


 彼女は三姉妹の長女。


 次女が勝利し、三女は敗北した。


 しかも三女に関しては、《顕現》が使えないかと思いきや、僅かにその片鱗を見せた。


 ならば長女はどうだろう、と思うのは当然のこと。


 これもやはり、後回しにしたいだろう。


 となれば、うん。


 ほらねえ。


 残るは私なわけだよ。


 私なんて、特別クラスに入ったばかりの新入りで、知らないことばっかりで。


 そうなるとこの選択は道理だ。


 どこの馬の骨とも知れない私を倒し、それで勢いをつけて次でアイリスを倒してしまう。


 それが向こうの理想だろう。


 ……はぁ。


 思わず溜息がこぼれる。



「負けるわけにはいかないよなあ……」



 相手に勢いをつけさせるわけにはいかない。


 そしてこちらは、ここで勢いをつけたい。


 ほら、負けられないでしょ?



「というわけで……」



 手の中に、《顕現》もどきの大鎌を具現する。


 くるくると手の中で回し、その握り心地を確かめる。


 いい感じだ。


 と、そこで相手のクロウウッド君が入場してきた。


 黒いサラサラの髪に、釣り上がり気味の目には四角い眼鏡をかけている。服装は学ランっぽい感じで、めちゃくちゃぴしっとしていた。


 ……おいおい、なんかちょっと不良と優等生を足したら奇跡のバランスが出来上がりました、みたいな感じじゃん。



「あなたが棘ヶ峰さんですが」



 なんとも言えない、耳に心地のいい声が響く。


 うわあ、やべえこいつ、確実にスペック高いな。


 きっと将来は美女を何人もはべらせるに違いない。それも無自覚で。


 え、私?


 ん……私の好みじゃあないかな。


 私はもっと、ほら。私がそこにいる余地があるくらいに完璧すぎない人がタイプだし。


 支えたい女なのよ。


 ま、支えてくれても全然オッケーだけどさ。



「棘ヶ峰さん?」

「あ……っと、イエスイエス、私が棘ヶ峰緋色ちゃんで間違いないよ」



 いけない、ぼうっとしてた。



「そうですか。それはよかった。つい、第三者が紛れ込んだのかと」



 いや流石にそりゃねえだろ。



「僕はマクシミリアン=クロウウッド。よろしくお願いします」



 言って、クロウウッド君が笑う。


 キラースマイル、だと……!?


 なんだこのイケメン、完璧だぞ。

 今不覚にもちょっとどきってなったし!


 やめろ私を誘惑するな私にはもうソウという奥さんが……!



「――っ!?」



 何故か背筋に恐ろしいほどの寒気が走った。


 あ、あれ?


 なんか後ろ――特別クラスの観客席の辺りから殺気じみたものを感じたんだけれど……。


 ちらりと振り向くと、皆はこちらを見て妙ににこにこしていた。


 妙ににこにこしていた。



「……」



 え、私殺されるの?


 そんなわけはないだろうけれど、思わずそんなことを考えてしまった。


 だってほんと、皆様いい笑顔すぎるんですもん。


 人間怒ってる時より笑顔のほうが怖い時ってあるよね。



「え、ええっと、こちらこそよろしく」



 クロウウッド君に向き直り、どもりつつ挨拶する。



「はい」



 クロウウッド君のキラースマイル!


 ぐぅっ、やりやがるぜこいつ。


 きっち他に撫でポとか持ってるに違いねえ!


 恐ろしい子……!


 そうして私が勝手に戦慄していると――試合開始のブザーが鳴り響いた。



「――!」



 同時、目の前にクロウウッド君がいた。


 早い……!


 しかもこれは、《顕現》とか、そういうのじゃない。


 純粋な実力だ。


 腹部にとんでもない衝撃。



「か……!」



 身体が吹き飛ばされる。


 そのまま、闘技場の端まで一直線に飛び、壁にめり込んだ。


 内臓の八割がつぶれ、全身の骨が粉微塵になる。


 口からおびただしい量の血が出た。


 ちょっ、これは冗談じゃない……。



「う、ぐ……」



 激痛の余り、視界が白濁した。


 身体の方は既に再生が終了している。


 一刻も早く動かなくちゃ……。


 壁にめり込んだ身体を引きずりだして、立ち上がる。



「すみません。痛かったですか?」



 目の前には、申し訳なさそうな顔をするクロウウッド君。



「……そんな顔するなら、手加減してよ」

「いや。それは失礼でしょう。一度戦場に出た相手に加減などするほど僕は傲慢ではありません」

「……」



 主張までイケてやがるぜ。



「出来ればこのまま、棄権していただければいいのですが」

「それは無理」



 吹き飛ばされながらも手放さなかった大鎌を握りなおす。



「こっちも、後がなくてね」



 微かに笑う。



「これでも、まだまだ過ごした時間は少ないけれど、特別クラスには愛着があるんだ。クラスって形にこだわりすぎるのもどうかと思うけれどさ……私は、今のままの形が好きなの」



 大鎌を構え、呼吸を整える。


 真っすぐ、見据えた。


 倒すべき敵を。



「だから私は、勝ちたい……勝つの」

「……なるほど」



 クロウウッド君が笑う。



「素晴らしい女性ですね、棘ヶ峰さん」

「照れるね」



 イケメンにそんなこと言われちゃうとは、私も捨てたもんじゃない。



「いきなり言うのもなんですけれど、どうでしょう? お付き合いしませんか?」

「はは、冗談やめてよ」

「これでも本気のつもりなんですけれど」



 クロウウッド君が肩をすくめた。



「だったら、もうちょい情熱的な告白の方が好みかな」

「なるほど……では次は、もっと情熱的な告白の方法を考えてきますね」



 子供みたいに純粋な笑顔をクロウウッド君が浮かべた。


 見てて癒されるくらいの笑顔だ。


 ……一応言っておくけど、別に私、惚れてないからね?


 何度も言うけど、タイプじゃないし。



「しかし、困りましたね。棘ヶ峰さん、本当に棄権はしてくれないんですか?」

「くどいね。しないよ。そういうこと言ってないで、さっさと全力で私を潰しにきなって。そういう男のほうが私の中じゃポイント高いよ?」

「……僕は、被虐趣味も受け入れの方向ですが」

「違うわこのおバカさん」



 いきなりなにを言いだすかと思えば。


 かといって加虐でもないぞ。


 まあプレイの一環としてはアリかなとは思っているけれどゲフンゲフン。



「全力で突っ走る人間が嫌いなやつはいないでしょうが、ってこと」

「……ああ、なるほど」



 クロウウッド君が大きくうなずく。



「それは納得できる理由です。では」



 その姿が消えた。


 直後、私の左腕が跡形もなく消しとぶ。



「全身全霊でいかせてもらいます」



 声は頭の後ろから聞こえた。


 後ろから首を掴まれる。


 そのまま、抵抗する間もなく地面に叩きつけられた。



「が……!」



 身体が肉塊に変わるほどの衝撃。


 地面が砕け、隆起する。


 それでも、耐えた。



「ぁ、あああああああああああああ!」



 大鎌を腕一本で振りぬく。


 私の首を掴んでいたクロウウッド君が後ろに跳んで距離をとる。


 私は再生しきらない身体を起こす。


 全身から血が噴き出す。



「っ……はぁあああああ!」



 力を振り絞り、大鎌を振るう。


 切り裂く。


 意思をこめた一振りが、距離という概念を超越し、クロウウッド君の胸を断った。



「……」



 胸を裂かれ、鮮血が吹き出す……ことはなかった。


 開いたクロウウッド君の胸元から、光の粒子が吹き出す。



「なるほど未完の《顕現》でこれとは……いずれ完成したら、ぜひ見せてくださいね」



 来る。


 それは、クロウウッド君の《顕現》。


 天と地を、光が結ぶ。


 その光の中、クロウウッド君が分解され、再構築されていく。


 それは白銀の法衣を纏っていた。


 背中からは、青い尾のようなものが生えて、その先端には赤い宝石で作られたような刃がついていた。


 神聖、と。


 そんな単語が思い浮かぶ。



「……はは」




 思わず、苦笑がこぼれた。



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