勝敗はっ!
てってれー。
皆さま、ごらんくださいこの観客の数を。
誰もが今日の戦いを一目見ようと、会場に押しかけて来ています。
そんな多くの観客の視線の先、選手が入場してきました。
さて、今回の組み合わせですが、まずゼファー氏サイド。
曰く、皆の女王様!
ユリア=コーキュロス嬢だぁあああああああああああああああああああ!
どんどんぱふぱふ。
その口元に浮かぶ妖艶な笑み!
鋭い目つき!
ぞくぞくしちゃう!
……踏まれてー。
はっ。
べ、別に私マゾじゃねえし!
むしろサドだし!
でもやってもらえるならマゾでもげふんげふん。
さて、気を取り直して。
次は、特別クラスサイドの選手ですが……。
来ました!
風紀委員会外特別支援殲滅執行部こと、学園の断罪者!
違反行為者は悪☆即☆斬!
そのミステリアスなところに痺れる!
さあ皆さん、ご一緒に!
――小夜ちゅわぁあああああああああああああああああああああん!
わぁああああああああああああああああああ!
「……ふぅ」
疲れた。
もうこれやめよ。
さてさて。
というわけで……今日はどんな感じになるかなあ。
†
「さて……それじゃあ、始めようかねえ」
ユリアさんが、軽く首を回す。
「《顕現》」
と、ユリアさんの姿が変化する。
その身体が光の粒子に変わったかと思うと、再構築。
大きく胸元など肌の露出した、赤い服装。ところどころに赤い羽根の装飾がされている。
そして、肩からは、これまた赤いマントが靡く。
手には、一本の鞭。
……鞭かぁ。
…………おっと、妄想が暴走して鼻血が。
いけないいけない……あ、ティッシュ? ありがとソウ。
「いきなりですか」
呆れたように小夜が言う。
「いきなり、さ。もう別にこれは観客に魅せる戦いじゃないんだ。わざわざ連中の理解出来る範囲の戦いをするこたぁ、ないだろう?」
「……それはそうですけれどね」
「あんたは《顕現》しないのかい?」
「……」
そうだ。
小夜って、確か《顕現》出来るって話じゃなかったっけ?
なのに、どうして……普通のままでいるの?
「あまり、力を見せつけるのは趣味じゃないので」
「へえ……つまり、私相手には《顕現》なんていらないってかい?」
「さて」
小夜は、静かに肩を竦める。
「……なら、確かめさせてもらおうかねえ。あんたがそれだけの言葉を吐くに値するか、どうか!」
ユリアさんが小夜に向かって飛び出す。
――飛び出して、小夜の身体が吹き飛んだ。
と、思った。
けれど……。
「言ったでしょう?」
小夜は、ユリアさんが振るった鞭を、素手で受けとめていた。
「な……!?」
ユリアさんが目を見張る。
「見せつけるのは……と。別にひけらかすのではないレベルでならば、ちゃんと相手をしてあげますよ」
言いながら、小夜は鞭を引っ張り、ユリアさんの身体を自分に寄せる。
「運が悪いですね、私に当たるなんて」
ユリアさんの身体が、舞台の端まで吹き飛んだ。
巨大な土煙が立ち上る。
ど、どうして……。
《顕現》しないで、そんなこと、できるものなの?
「っ……!」
土煙の中から出たユリアさんも、理解し難そうな顔をしていた。
「教えてあげましょうか」
「――!」
気付けは。、ユリアさんの背後に小夜はいた。
「《顕現》は、ただ《顕現》することが全てではないのですよ」
小夜の手がゆっくり持ちあがる。
「そもそも、その考えが違う。《顕現》しなければ勝てないとか、《顕現》すれば勝てるとか……《顕現》とは想いの力。既に、《顕現》という枠を作っている時点で、あなたでは、私には勝てない」
再び、ユリアさんの身体が吹き飛ばされる。
飛んでいくユリアさんを小夜が歩きながら、けれど目にも留まらぬ速度で、追う。
「《顕現》しなくても、《顕現》と同様の効果を得られるように《顕現》する。《顕現》せずに《顕現》している。その矛盾を通すこともまた、《顕現》の形の一つなんですよ」
……ええっと?
どゆこと?
「つまり、《顕現》というものは、《顕現》という変化ではない。変化などより自分らしい自分を表現した結果であり、別に自分らしさなど出さずとも《顕現》は完了させることが出来るのですよ」
……むう。
とりあえず、《顕現》はしなくても《顕現》の効果は得られる、みたいな解釈でオーケー?
「……なんだい、そりゃあ」
ユリアさんから、極大の紅蓮の閃光が放たれる。
閃光が小夜に喰らいつく。
だが、小夜に触れた瞬間に閃光は弾け飛ぶ。
「意味が分からんねえ……」
「理解力が低いのでしょうね」
小夜が辛辣なことを言いながら、お返しとばかりに青い閃光を放つ。
ユリアさんも再び赤い閃光を放ち、青と赤の閃光が幾重にも空中でぶつかり合う。
おー、幻想的な光景ですなあ。
「これじゃ、埒が明かないね……仕方ない。少しばかり、本気を出すよ!」
ユリアさんが地面を蹴る。
すると、ユリアさんが小夜の背後に現れる。
「つまりは、《顕現》してる相手と戦っていると思ってやれば、なんの違いもないってことだろう」
恐らくは最大の力を込めて、ユリアさんが鞭を振り下ろす。
「その通りです……が、あまり私を舐めないように」
振り返りざま、小夜がどこからか取り出した銀色の剣で鞭を弾く。
そして、もう銀の剣を持つ方とは逆の手から、一条の光を放った。
光はユリアさんの身体を消し飛ばす。
が、ユリアさんはすぐに再生する。
「……なかなか重いね」
「それはどうも。今のをくらって挫けないあなたも、まあ、なかなかではないですか?」
小夜が、さらに閃光を放つ。
幾条もの閃光は様々な軌道を描いて、ユリアさんに襲い掛かる。
それらを回避しながら、ユリアさんは鞭を小夜に振るう。
鞭の長さは、自由自在に変化する。
小夜は的確に鞭を剣で弾く。
んー、拮抗してるなあ。
……あれ。
そこで、とあることに気付く。
小夜の腕から、僅かに光の粒子が零れていた。
あれは……。
「っ……!」
小夜自身もそのことに今気付いたようで、僅かに動揺を見せる。
「そこっ!」
その隙をついて、ユリアさんが鞭を振るう。
これで決める気なのだろう。
見ているだけで背筋が凍るほどのものを感じさせる一撃。
けれど――。
「……時間」
小夜は、それを簡単に受けとめた。
否。
受けとめたのではない。
鞭が、消滅したのだ。
「は?」
ユリアさんの口から奇妙な声が漏れる。
「時間、切れ、ですね」
小夜の手から剣が消える。
「今……なにをしたんだい?」
「さあ」
理解できなかった。
私だけではない。
ユリアさんもまた、私と同じのようだった。
《顕現》しているユリアさんが、だ。
つまり、だ。
小夜がなにをしたのか理解できないということは、ユリアさんの《顕現》を、想いを上回る行動を小夜がしたということ。
それはすなわち、小夜がユリアさんよりも強い、ということに他ならない。
ユリアさんの顔に冷や汗が浮かぶ。
これは、勝った。
そう確信した。
――のに。
「棄権します」
小夜が、そう告げる。
……へ?