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理事長はっ!

「ここは学園世界の中心にある建物で、通称は校舎」

「そのままの名前ですな」

「まあ分かりやすいのが一番だからね」



 ただ、校舎と言ってもその内装は私の考える校舎とはかけ離れていた。


 いかにも高級そうな石材で組まれた建物。地面には赤い絨毯が敷かれ、あちこちに高そうな花瓶だとか鎧だとか絵だとかが飾られている。



「ちなみに今いるのが職員区画。教師の人達の私室とかがあるところ。他にも学生が勉強する教室区画とか、部活区画、運動区画、研究区画……いろんな区画があるんだ」

「へー」



 ナユタの説明を聞きながら歩いていると、行く先に大きな扉を見つける。


 なお、ソウは私達の後ろを音もなくついてきている。なんか黙する女って感じでかっこいい。


 求婚しちゃおうかなあ。



「ソウはあげないよ」

「私の主は決まっていますので」



 二人に同時に言われた。


 ……また心を読まれたんだ。



「ここにプライベートはないのか」

「欲しいなら心を読まれないスキルを身につけないとね」

「……了解しました」



 っていってもどうすればそのスキルは手に入るのだろう。


 あれか。滝に打たれてみたりすればいいんか。



「そういう手段もあるけど――」

「あるんだ!」



 でも私そんなの絶対やだよ!


 あれ冷たそうだし痛そうだし!


 ああでも女の子が白い装束来て滝に打たれて濡れた布が透けてウフフアハハみたいな展開はいいなあ。



「思考が飛躍しすぎじゃない?」

「自分でもそう思う」



 冷静になれ私。


 とりあえず液体窒素ぶっかけられたってくらいクールになれ。


 ぶっかけって、エロくない?


 どうでもいいか。



「まあエロいよね」

「まさかの反応!?」



 そして同意された。


 きゃーっ、同志!



「抱きっ」



 抱きついてみる。



「えい」



 むしろ逆に抱きしめられた。



「おおう!?」



 思いもしなかった反応にとびずさる。



「あれ、そっちから抱きついてきたのに。なんかズルくない?」

「ズルいってなにが?」

「そうやって思わせぶりな態度とってると、食べちゃうぞー?」



 にこりとナユタが笑う。


 どきん!


 って感じで心臓が高鳴る。


 ズルいってナユタの方が百倍ズルいと思うんだよ。


 だってそんな笑顔向けられたら、ねえ?



「じゃあ食べられちゃおうかな?」

「え、いいの?」



 きょとんとした顔をした次の瞬間、ナユタが目を細める。



「じゃあ、あとで私の部屋に来る?」



 うぐ。


 流し目……だと……?


 反則。


 チートですかあなたは!


 きっと魅力EXとかいうステータスを持っているに違いない。うん。この胸のどきどきはそのせいだ。



「……そろそろギブです」



 なんかこのままじゃ冗談じゃなくヤバい雰囲気に持ちこまれそうなので話題をカットしておく。


 チキンな私を許して皆!


 皆って誰だ?


 いけないな。最近変な電波を拾う回数が増えてきた気がする。



「で、なんの話だっけ……あ、心を読まれないようにするには、って話か」



 思い出して、ナユタが仮想モニターを出す。



「そういえばそれ、どうやったら使えるの?」

「緋色ももう使えると思うよ? この世界に来た時に自動的に配られるから」

「え?」



 まじで?



「現れろ、みたいなことを念じてみて?」

「おおう?」



 現れろ……次元の扉!




 扉サイズの仮想モニターが現れた。




 思わず硬直する。



「えっと、なにやってるの緋色?」

「悪ふざけがすぎました」



 小さくなれ、と念じるとモニターが手のりサイズになる。


 これこれいくらなんでも小さくなりすぎでしょう。携帯電話ですか。


 もうちょい大きく……で、ようやくノートパソコンサイズくらいになる。


 ううむ。



「便利だ!」

「でしょ? どうせならそっちで検索してみようか」

「検索?」

「うん。検索エンジン起動してみて? ここのボタン」



 ナユタが横から指で差してくれたボタンを押すと、モニターの中に細長い枠が現れる。その左端にはバーが点滅している。



「検索方法は思考直結にしておいたほうがいいよ?」

「思考直結?」

「うん。考えただけで検索してくれる機能。時々間違った検索とかするけど、便利は便利だよ」



 再びナユタの指示通り操作して、思考直結機能とやらをオンにする。


 すると、モニターにびっしりと検索結果が表示された。


 ヒット数十万越えですか……どこまで調べてるんだろ。


 とりあえず結果の中から一番それっぽい『心を読まれないスキルを習得する』のページを開いてみようかな、と考えただけでページが開いた。


 すげえこれ。どんだけ便利?


 表示されたページには、でかでかとした文字が。



『試練ナンバー三〇二九をクリアしやがれ、この豚野郎!』



 ……。



「え、なにこれ。いじめ?」



 泣いちゃうよ。私泣いちゃうよ?



「違うよ。乱暴な言い方だけど、正確な情報」



 ナユタが苦笑する。



「この学園世界には試練システムってのがあってね。ゲートって呼ばれる機器を使って特殊な空間に入ることが出来るんだ。その空間が全八千万種類で、それぞれクリアするとスキルや技能が手に入るようになってるんだ」

「八千万って……つまりそれだけスキルとか技能とかがあるってこと?」

「だね」

「……コンプは諦めた方がよさそうだ」

「諦めちゃうの? 案外簡単だったけど」

「へ?」



 あれ、今の物言いって……。



「ま、まさかとは思いますが、ナユタさん?」

「うん。なに?」

「コンプ済みですか?」

「さあ?」



 ナユタが微笑む。


 その意味深な微笑みに、背筋がちょっとだけ冷えた。


 八千万種類コンプって……出来るものなのだろうか。



「まあ試練システムで覚えられるスキルなんて大したものじゃないけどね。せいぜい大陸一つ消し飛ばしたり出来るようになるだけだよ」

「すみません大したことあるんですけど」



 さらっととんでもないこと言わんで下さい。



「ようは数より質だよ。うん……で、着いたよ」



 気付けば、さっき見つけた大きい扉の前に辿りついていた。


 近くで見るとさらにでかく感じる。



「ここが理事長室?」

「ううん、この扉はね、校舎のいろんなところに移動できるんだ。行き先を想像しながら開けるとね、そこに繋がる仕組み」



 もうなんなんだこの校舎って。便利すぎて素敵。



「ま、普通に歩いて行ったら到着は夕方だし、当然の仕組みだよ」



 いいながらナユタが扉に手を駆ける。


 扉はその大きさを感じさせない軽い動きで開いた。


 その向こうにあったのは……廊下。



「え、また廊下?」

「ここからすぐだよ」



 ナユタが歩き出したので、その後に続く。


 すぐに、ナユタが一つのドアの前で足を止めた。



「ここが理事長室」



 確かにすぐだった。


 ナユタがドアをノックする――直前。



「入っていいよ」



 声が、聞こえた。


 なんだろう。


 例えが見つからないくらいに綺麗で、透き通った声だった。



「……お見通しか。流石」



 ナユタが肩を竦めて、ドアを開ける。


 その先に合ったのは、それほど大きくはない部屋だった。大きくはないって言っても十分な広さはあるんだけどさ。


 でも、神様兼校長なくそじじ――御老体の部屋と比べるとこじんまりとしている。


 その女の人は、部屋の私から見て奥にある窓を開け放ち、その向こうに広がる学園世界を眺めていた。


 どうやらここは校舎の中でも特に高い所にあるらしい。


 その人のポニーテールにした黒い髪が風になびいた。


 ……ポニーテール?


 見れば、その後ろ姿にはなんとなく見覚えがある気がした。



「こんにちは、棘ヶ峰緋色さん?」

「え、なんで私の名前――」

「彼女に先に教えてもらっていたから。楽しみにしていたのよ?」



 その人が振り返る。


 刹那、確かに時間が止まった。


 あの人と……私をこの世界に連れてきた人と同じ顔をした人だった。


 違うのは、瞳の色が赤いことと、髪が黒いことくらい。


 驚いた。


 驚いたのは、顔が同じだからではない。


 同じなのに、なんだか違う。


 なんだろ、この気持ち。



「驚いてる?」



 どこか無邪気な声で、その人が首を少しだけ傾けた。


 動作一つに、なんだかどきりとした。



「私はツクハ。ここの理事長をしてるの。よろしくね」

「あ……よろしく、おねがいします」



 ぺこりと頭を下げる。


 おおう、この私にあるまじき礼儀正しい態度だぜ。



「あの……あなたは、どうしてあの人と同じ顔を……」

「彼女の姉だもの。顔が似ているのは当然でしょ」



 いや、似てるってレベルじゃねえですぜ。


 双子かなにかなのだろうか?



「彼女からは将来有望な子、って聞いてるよ。特別クラスへ入れるようにも言われてる」

「特別クラス?」



 聞き憶えのない単語が出た。



「この学園にはいくつかクラスがあるの。その中でも能力が突出した人を集めたのが特別クラス。今はたった五人しかいないの。六人目になれること、誇っていいんじゃないかな」

「へえ……って、いやいや私がそんなところは行っちゃっていいんですか!?」

「いいんだよ。彼女が言うんだからね」



 どうやらあの人は法らしい。


 とんでもねえ。



「でも、編入試験をするように言われてる」

「試験?」

「そんなのするの?」



 横から不思議そうにナユタが尋ねる。



「今までそんなことした人、いなかったでしょ?」

「特例だね。まあ、それだけ気に入られたじゃないかな。もしくは、それ相応のスペックを持っているか」

「……緋色って凄いんだねえ」

「えっと……そう、なの?」



 私としてはその編入試験とやらの内容が気になるのですが。



「試験はこのあとすぐに行うから」

「すぐ、ですか」

「ええ。試練システムを使ってね。とある試練をクリアしてもらうよ」



 笑顔でツクハさんが言う。



「いきなり試練システムって、結構鬼畜じゃない?」



 心配そうにナユタが言う。


 ナユタがそうまで言うってことは、やばいんじゃないの?



「ええと、命の危険とかは?」

「あるけど?」



 即答された!


 しかも、それが、みたいな顔で。



「いやいやいや!?」

「大丈夫大丈夫」

「なにが!?」



 なにをもって大丈夫だと!?


 私って今のところ純粋な女子高生なんですけど!



「なんとかなるよ、案外。多分ね」



 ツクハさん!?


 今、多分って言いましたよね!?


 言いましたよねえ!?



「それじゃあ、試練システム起動」



 ツクハさんが言うと、私の目の前にいきなり虹色に輝く巨大な楕円の物体が現れた。



「ふぁ!? いきなり!?」

「ツクハさん、流石にまずいんじゃない?」



 私の肩をナユタが掴む。



「これ、私は反対だよ。いくらなんでも――」

「大丈夫」



 気付けば。


 私とナユタの間に割り込むように、ツクハさんがいた。


 いつの間に移動したのか、まるで分からなかった。



「私と彼女が大丈夫と言うのだから、大丈夫なのよ。分からない、ナユタ?」



 少し違う声色で、ツクハさんがナユタを見る。


 その目の奥に、恐ろしい光がある気がした。



「……信じていいの?」

「ええ」

「嘘だったら、流石に怒るよ。ここ、ぶっ潰すから」



 空気が軋んだ。


 ナユタとツクハさんの間に、目には見えない歪みのようなものを感じる。



「出来るならね」



 鼻歌でも唄うかのように、あっさりと返す。



「さ、じゃあ緋色。行ってみようか?」



 私に顔を向けるなり、元の声色と笑顔でツクハさんが言う。


 ツクハさんは私の肩からナユタの腕を外し、そのまま――、



「ちょっ、あの……私まだいろいろついていけてないんですけど!?」

「なんとかなるから!」



 そんなサムズアップされても!



「じゃ、がんばってねー」



 ツクハさんの手が、私の身体を押す。


 そのせいで私は――、



「って、これって禁止された試練じゃないの!?」

「あ、気付いた?」

「やっぱり駄目! 緋い――!」



 そこで。


 私の身体が虹色に飲み込まれる。


 虹色の向こうは……一片の光もない暗闇だった。



成長したツクハさん登場ー。

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