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裏側はっ!

「悪いね、ゼファー。負けてしまったよ」

「構わないさ。たかがまだ二敗だ。残り五戦中、四戦とればいい。それより、お疲れ様だったな、」



 控室に戻ってきたクリストフを労い、俺は椅子に深く腰をかけた。


 確かに七戦中の最初の二戦を落としたのは痛い。


 だが……問題ない、と言える根拠はあった。



「調べたところによれば、あのクラスで他に《顕現》を使えるのは数名……多くても二名程度だそうだ」

「あれ、そうなのかい?」



 クリストフが意外そうな顔をする。



「特別クラスと言う位だから、てっきり全員《顕現》出来て当然だと思ったんだけれど」

「そうでもないのさ……特別クラスは、《顕現》が出来る出来ないではなく、他の基準で選ばれているらしい。噂によると、理事長の贔屓、などとも言われているが」

「理事長……って、今更だけど、それってどんな人なの」

「さてな。知らないよ。理事長は一般の生徒の前には姿を見せないからな」



 肩を竦め、見たことの無い理事長の姿を想像してみる。


 ……贔屓などを実際にしているのであれば、ろくでもない人物だろう。



「特別クラスは、不透明過ぎる」

「……」

「俺だって、ただ特別扱いが気に入らないから喧嘩を売ったわけではない」

「分かってるよ」



 クリストフが微笑む。



「君はそんな安い男じゃない。それは、親友の僕が一番知っているさ」

「……そうだったな」



 相も変わらず、頼りになる男だ。


 まあ、少しナルシストなところは気持ち悪いが……そこを抜けば、本当にクリストフはいい友人だ。


 いや。


 親友、か。



「一般生徒の中には、特別クラスを神聖化する者もいれば、奇異の対象として見たり、特に酷い者では妬み、忌避する者までいる。今までは大丈夫だったが、この状況がいつまでもバランスを保ってられるとは思えん」



 俗に言う、派閥というやつだ。


 特別クラスを擁護する側。


 特別クラスを敵視する側。


 問題は、別に特別クラスと一般生徒の間の格差ではない。


 特別クラスというものが他に及ぼす影響だ。


 例えその影響が表面化せずとも、いずれそれを利用しようとする人間は出てくるだろう。


 人の関係にほころびがあれば、それをつつきたくなる。そういう人間は、確実にいるのだ。


 余計な心配かもしれないが、あるいは、この学園を崩壊させようと画策する者がいたとして、当然そういう連中が狙うのはそういうところだろう。


 だから、手遅れになる前に手を打たなくてはならないのだ。


 自覚の無い特別クラスの連中では話にならない。


 なにも分かっていない一般生徒でも駄目だ。


 学園側も、なにを考えているのか……状況を理解できないほど無能ばかりではないはずだが、少なくともこれまでアクションらしいアクションはなかった。


 なにか事情があるのだろうと察するのは難しくない。


 いくら贔屓と行っても、学園の運営一つ変えるようなことだ。


 理事長や地位の高い者の独断で特別クラスなんてものを設立できるわけがない。


 だから特別クラスに下手に触れることが出来ないのだろう。


 ――だったら、俺がやるしかないじゃないか。


 特別クラスの連中には、自分達を妬んできた浅慮の輩とでも見られるだろうか?


 一般生徒の連中には、祭りの神輿のような扱いを受けているだろう。


 それでもいい。


 俺は、俺の出来ることをする。


 俺を育ててくれたこの学園のために。


 例えそれが、学園の方針に反することになろうとも。



「……あまり、一人で背負いすぎないようにね」



 クリストフがそう言う。



「ああ。分かっている」

「分かってる、ねえ……本当かなあ」

「もちろんだとも」



「ねえ、あなたはどう思う?」



 既に客がほとんどいなくなった観客席に、私達は座っていた。


 私の隣にいるのは、和服を纏った表情の薄い少女だ。



「……どう、とは?」

「理事の一人としては、あの連中の行動はどう映ってるの、ってこと」

「……」



 彼女は、ぼんやりと空を見つめる。



「……ウィヌスは、どう思う」

「聞いてるのはこっちなんだけれどね」



 苦笑する。


 相変わらず、マイペースね。



「ま、私としては、特別クラスが負けて解散するなんて事態にはならない方がいいと思ってるけど」

「……我は、そうは思わない」

「へえ?」



 意外ね。



「それはまた、どうして?」

「特別クラスは、一時的な籠に過ぎない。いずれ、勝手に中から壊して外に出ていくのは分かっているのだ。それが早くなるだけのことだろう?」

「あなた基準で言わないでよ」



 まったく、あっさり言うけれど、ことはそんな簡単じゃないでしょうに。



「あなたみたいな超越者ならそうなのかもしれない。卵の殻をちょっと早く割って生まれて来てしまった。まあいいか、頑張って生きよう、なんて普通は出来ないのよ。未熟なまま殻から出てしまった雛はね、死ぬしかないの」

「……」

「あの子達はまだまだ未熟よ。籠の外に、出るべき時ではない」

「……ふっ」



 と、彼女が小さく笑った。


 思わず目を丸めてしまう。


 彼女が笑うところなんて、いつぶりに見たかしら?



「甘いな……お前がそこまで過保護なことを言うなど」

「……む」



 そりゃ、まあ……。


 確かに過保護かもしれない。


 でも、仕方ないじゃない。


 だってあの子達は……あの子は……。



「……いいでしょ、別に。甘くて悪い?」

「いい親だな」

「……それ、からかってるの?」

「さて」



 あー、表情が読みづらいわね。



「……我は、他の者達が甘すぎるのでな。少しは厳しく行こうと思っている」

「へえ。スパルタ?」

「ああ。死ね、とまでは言わん。だが、この程度のことを乗り越えられないようならば、いずれ折れる。だったらまだ、我らの目が届くここで折れるのも一つだろう?」

「……一理あるけれどね」



 でもやはり、私は危険な賭けのような真似は避けたい。


 ……大切、だもの。



「でも、不安ね」

「……なにがだ?」



 目を瞑る。


 つい先日、見かけた少女のことを思い出す。


 彼女が選び、特別クラスに入れた少女。



「……あの子は、一体どんな役目を負っているの?」

「棘ヶ峰緋色、か」

「もう会った?」

「ああ。この間、私の店にな……ナワエが連れてきた」

「そういえばナワエ、あんたのところの行きつけだったわね。どう、喜んでいた?」

「ああ。美味しい、と言ってくれたよ」



 表情は薄いながらも、彼女は嬉しそうにした。


 ……ほんと、料理好きよね。



「で、あんたは知ってる? あの子の役目」

「さて……な」

「やっぱりか……」



 思わず溜息がこぼれた。


 空を仰ぎ、これからのことを考える。



「人間って凄いわ」

「なにだ、いきなり?」

「だってそう思わない? 人間って、今の私達と同じようにいろいろ苦脳しながら、子を育てて、代を重ねてきたのよ? 実際同じところに立ったら、もう信じられないわ。人間って、ほんと凄い」

「……確かにな」



 そういえば、彼女も人間じゃないんだっけ。


 元は……破壊神かなにかだっけ?


 天界とか魔界とかいろんな世界をまとめて破壊しようとした、とかなんとか言っていたような……。


 私達は人間じゃないから、むしろ人間の凄さを今、実感している。



「……エリス、どこ行ったのかしらね」



 ぽつりと呟く。


 エリスが私達の前から姿を消して、もう何年経ったろう。


 十年は余裕で過ぎてたわよね。



「……なんだか、やな予感がするわ」

「奇遇だな、我もだ」

「……はぁ」



 憂鬱な溜息が出た。





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