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二試合目はっ!


 はいはーい、こちら現場の緋色です!


 私は現在、事件現場の選手控室に来ております。


 今の状況は、決闘二日目。


 その組み合わせが発表されたところでございます!


 では、緊迫の発表でございますです。


 第二試合!


 戦うのは……エレナだぁあああああああああああああああああああ!


 これは相手はズタボロ確定だっ!


 ドロー、モンスターカード! ドロー、モンスターカード! ドロー、モンスターカード! やめてもう相手のライフはゼロよいいぞもっとやれぃ! ドロォオオオオオオ!


 の流れで決まりダネ!


 だってエレナだし!



「……なにか失礼なことを考えていませんか」

「あ、ちょ、エレナさん、痛いです、痛いです」



 ぎりぎりぎり、とエレナに顔面を掴まれ、締めつけられる。


 アイアンクローってやつだね。


 ちょっち耳の奥でグシャって音が聞こえたところでエレナが解放してくれた。



「……まったく、貴方はいつも変なことを考えていますね」



 エレナに溜息をつかれた。



「エレナは私への遠慮がどんどんなくなるよね」

「そうですか?」



 きょとんとしないでよ。


 あんた会った当初は物腰の穏やかなお嬢様みたいだったよ。


 いまじゃ私の中の敵にしちゃいけない人リストの上位者だわ。



「ほら、エレナ。そろそろ入場しないと」



 ナユタが横からそう言う。



「そうですね。では、行ってきます。軽く狩って来ましょう」



 今、『勝って』の発音おかしくなかった?


 ねえ、おかしくない?



 エレナに相対するのは、武器武術クラス所属のクリストフ=ゾークス。銀髪ロングの一見すれば女の子にも見えなくはない少年である。


 ……まあ、男の娘と呼ぶほどではないが、間違いなくイケメンである。


 なぜだろう、無性に彼が気に入らない。



「ふっ……」



 クリストフ君が前髪を掻き上げる。



「本当は僕はこんな野蛮な戦いはしたくはないのだけれどね。親友であるゼファーに頼まれては、参加しないわけにはいかないだろう? だから僕はここいにいる!」



 なんだあいつ。

 台詞を口にする度に変なポーズ取ってるんだけど。

 若干ジョジョっぺえ。

 ……もしかしてあの人、ナルでシーの人?



「……はあ」



 エレナは心底どうでもよさげにしている。



「君が降参すれば、これ以上戦わなくていいのだけれどね!」

「……そうですか。それで、まだ始まらないんですか?」



 エレナさんクリストフ君の言葉を完全にスルー。



「ふっ、僕とて君のような美しい女性を傷つけたくはない」



 そしてクリストフ君もエレナの発現をスルーだ!


 っていうか、お前エレナのこと口説くな!


 その役目は私んだぁあああああああああ!



「……さっさと終わらせてしまいたいですねえ」



 溜息をつきながら、エレナは試合開始の合図を心待ちにしているようだった。


 と、その時。


 試合開始のブザー音が、響き渡る。




 ――そして、エレナとクリストフ君の身体が、光の粒子に変わり、輪郭を変える。




 クリストフ君は、上半身裸、下半身は黒い腰布で隠れた姿をしている。


 上半身裸とか……。


 さらに、その手には巨大な……なんて表現では言い表せないレベルの大剣が握られている。


 長さは大体……二十メートルくらい?


 で、幅が四メートルくらいある。


 うん。あたったら痛そうだ。



「それがあなたの《顕現》……なるほど、悪くないわね」



 エレナの静かな声が聞こえた。


 ――その姿に、目を見張る。


 ボロボロの、けれど美しい青に染まった衣をエレナは纏っていた。


 ところどころ千切れ、穴が開き……それなのに、その衣は、その衣を着たエレナはひどく神秘的だった。


 衣の腰のところからは無数の帯が後ろに伸び、まるで水に浮かんでいるかのようにゆらゆら揺れている。


 両腕にの帯が巻きつき、右手には水晶で出来たような弓を携えている。


 前に一度、少しだけエレナの《顕現》に触れたことはあったけれど……実際に完全なものを目の当たりにして、ぞくりとした。



「君のその《顕現》は、美しいね」



 だからチミィ、エレナを口説くなら私を通してからにしなさい!


 通さないけど。



「それはどうも」



 エレナはまったくありがたそうでもない顔で礼を言ってから、弓を持ちあげた。


 空間が歪む。



「まずは初手、様子見と行きましょう」



 エレナは弓に矢をつがえない。引かない。


 けれど……弓から矢は放たれた。


 そんな矛盾。


 けれど《顕現》の前に矛盾なんて単語はなんの意味もなさない。


 放たれた矢は漆黒。


 言うなれば、黒い流星とでも言うのか。


 流星は光を突き破り、クリストフ君の身体に突き刺さる。


 そう。


 普通に突き刺さった。


 クリストフ君の身体に刺さった流星は、黒い火花を散らしている。



「ふむ」



 クリストフ君は表情一つ変えず、自分の身体に刺さった流星に手をかけ、引き抜いた。


 引き抜かれた流星が霧散する。



「なるほど……」



 口元を緩め、クリストフ君は笑う。



「これは、舐めてはかかれないな!」



 気付けば、クリストフ君は……何十人もいた。


 ――へ?


 何十人もいるクリストフ君が、揃って大剣をエレナに向かって振り下ろす。


 いや、ちょっと待て、なんで増殖してんの?



「いくつもの時間軸から私を攻撃しているのですよ」



 エレナが観客席にいる私のほうを見て、言う。


 おや、説明どうも。


 でもいくつもの時間軸から、って……うむ?


 とりあえず、沢山攻撃してきてるってことでいいか!



「余裕ですね!」



 クリストフ君の大剣が、エレナに叩きつけられる。



「ええ、もちろん」



 大剣は、エレナの肌に小さな傷一つもつけられなかった。


 エレナの肌に触れた途端に、大剣が砕ける。



「余裕ですから」



 エレナの弓が、砕け散る。


 クリストフ君の攻撃で砕けたわけではない。


 正確には、砕いた、のだ。


 細かないくつもの結晶が、空に舞い上がる。


 結晶一つ一つが、黒く輝く。



「……これは」



 クリストフ君が空を見上げ、呆然とする。



「美しい……」



 まるで夢でも見ているかのような声色で、クリストフ君は呟いた。


 確かに、美しかった。


 青空に浮かぶ、黒い星々。


 幻想的、と言っていいだろう。



「……これは、なるほど」



 クリストフ君が肩をすくめる。



「思ってしまいましたよ、こんな美しいものを、僕は傷つけられない、と」

「そうですか」



 《顕現》はあらゆる気持ちを適応させる。


 つまり、クリストフ君には絶対にエレナを傷つけることは出来ない、ということ。



「思ってしまいましたよ……こんな美しい光にならば、傷つけられてもいい、と」



 それは、敗北宣言。



「そうですか」



 黒い星々が、降り注いだ。


 その流星群は、とにかく綺麗だった。


 一つ一つが落ちる度に、巨大な黒い衝撃波を生み出し、衝撃波と衝撃波がぶつかって、いくつもの黒い力の飛沫を散らす。


 その力の奔流に、クリストフ君は飲みこまれていった。


 エレナの勝利の瞬間だった。



「おめでとー、エレナ!」

「ありがとうございます」



 戻ってきたエレナに笑いかけると、笑い返してきてくれた。


 ひゃっほう綺麗な笑顔だね!


 惚れちゃうぜ!



「よくやったな」

「ま、当然と言えば当然の結果よね」



 ちなみに今回はアイリスとスイもいます。


 他の皆は例の如く帰っちゃったけどね!



「さて。これで二勝目……あと二勝で勝利は確定です。と同時に、確定したことがあります」

「なにが確定なの?」



 エレナに尋ねる。



「あちらは、全員《顕現》の使える生徒で固めて来ているだろう、ということです」

「……」



 まあ、二連続で《顕現》してくるくらいだしねえ。


 それに前情報でもちょっとそんな感じの予想は聞いてたし、今更驚きはしないけれど。


 うわー、って気分。


 だって《顕現》使える相手に、《顕現》使えこなせてない私が勝てるわけないし。


 いや勝てるわけないし、って考えがダメなんだけどさぁ。


 でもね?


 現実的にね?



「というわけで……早く姉さんもスイも、さっさと《顕現》を使えるようになりましょうね?」



 にっこり。


 おっとアイリスとスイの顔が青くなりましたよ。


 南無……。



「ああ、そうだ。よかったら緋色も一緒に特訓しますか? しますよね? さあ行きましょう」



 うわあい。


 なんか飛び火してきたぞ。



「いや、私は個人でも大丈夫なんで……ほんと、大じょ――」

「はい」



 エレナに襟首を掴まれる。



「行きましょうね」



 引くずられる。


 ええい!


 ちくしょうこうなったら……!



「どりゃあ!」



 エレナの腰に抱きつく。


 ずるずる。


 ずるずる……。



「ど、動じないだと!?」

「アイリスとスイも行きますよー」



 エレナが姉妹二人に声をかける。


 うわぁああああああああん、今日はこのまま地獄の特訓ルートかよぅ!



「……なあ、スイ」

「私も同じこと考えてると思う」



 スイと視線を合わせ、頷き合う。



「緋色……よくエレナに抱きつくなんて真似が出来るよな」

「普通なら消し飛ばされてもおかしくないんだけれどね」

「しかもエレナも嫌がらないっていうのは……どういうことだ?」

「お気に入りなんじゃないの?」

「……ああ、なるほど。その気持ちは分からんでもないな」



 にやりと笑う。



「ええ。分からないでもないわ。私達は姉妹だし、きっとそういうとこも似てるのね」



 スイも笑う。



「緋色みたいなやつは嫌いじゃない」

「その通り」



 一緒にいて、面白いしな。




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