その声はっ!
「……」
ぽかーん、って感じ。
私だけじゃなく、観客皆も。
ていうか、向かい側のゼファー君達もぽかんとしてる。
うん。
だよね。
そうなるよね。
え……今なにが起きたの?
いや。
なにが起きたのかは分かる。
ただ、それがいつ起きたのかが分からなかった。
茉莉はゆっくりと手を持ちあげた。
それで、掌から赤い光が放たれた。
……で、それはいつのこと?
あれ?
えっと……。
百年前の出来事だよ、と言われても下手したら納得しかねない気分だった。
あるいは、未来の出来事だよ、とも。
……ええ?
「つまり、認識出来ない攻撃。時間軸から外れた場所で、茉莉は行動したんだよ」
ナユタがそんな説明をしてくれた。
けど意味わかんないっすわ。
「……そっか。まあ、そのうち分かるようになるよ」
「そうかなあ」
†
「茉莉、お疲れ様!」
会場を出たところで私は茉莉と合流した。
ちなみにアイリスとスイはエレナに「まで《顕現》出来てないんですから今日も訓練です」と引っ張られて行って、ナユタは「やっぱ余裕かな」とソウを連れて買い物に行った。
勝利の喜びを分かち合うくらいはしていこうよ……。
「ん……」
私の言葉に、茉莉が親指を立てる。
なんてキュートな動作をするんでしょう、この子は。
「担任の威厳は、守った」
「そだね」
我らが担任様がとんでもないことは、よく分かりました。
それはもう、すっごく。
「……あと、これで怒られない」
茉莉が感情は薄いながらも、安心した様子を見せる。
「ん、怒られないって、ツクハとかに?」
「……」
ふるふると茉莉が首を横に振るう。
「オリーブに」
「オリーブ?」
ぱっと油の方を想像してしまった。
「名前、だよね? 誰?」
「私の……妹?」
なんで疑問形。
「っていうか茉莉、妹いたの?」
「……あ」
「ん?」
「……これ、秘密事だった」
「あっさりバラしてるけど!?」
「母様達に怒られる……」
茉莉が肩を落とす。
そんな仕草もかわいいなあ。
うふふ。
しかし、何故妹がいることを秘密にしなくちゃならないのだろう。
なに。
なにかこう、家柄が特殊で妹の存在は隠匿されてたりするの?
妹は地下深く古の封印の糧として捧げられていたり?
そういう熱い展開が……!
「まあ……いい」
……ないか!
そんな展開があれば茉莉がこんなのんびりしてるわけないですよね!
「秘密事らしいから深くは聞かないけど……ちなみに、どんな妹さん?」
「ん……優しくて、怖い」
「普段は優しいけど、怒ると怖いってこと?」
「普段は怖いけど、数か月に一回くらい優しい」
「それほとんど怖いんですけど!? 優しさが風邪引く感じの頻度だね!?」
それで、茉莉の妹でしょ?
……ふうむ。
どんな人かまるで想像が出来ない!
いつか会えるかな?
「とりあえず、私はこのことは効かなかったことにするよ。それで茉莉もお母さんに怒られないでしょ?」
「……母様達に隠しごとをしたら、嬲り殺される」
嬲り……!?
っ、すまん!
これは流石にエロい妄想は出来ないぜ!
嬲り、までは良かったんだが、その後に殺すってついちゃうと流石にねえ。
しかもなんか、茉莉の表情が真剣だし。
「って、どんなお母さん!?」
「……戦うの、大好き」
「ほお」
「死闘、大好き」
「へえ」
「殲滅している時の顔が、すごく素敵」
「……よし」
なるほど納得。
「茉莉は素直に秘密をばらしちゃったことをバラしましょう! それで解決ダネっ!」
「……七割殺し、かな」
ぽつりと怖いことをおっしゃらないでください。
「……せめて六割に、ならないかな」
だから怖いことを以下略。
「……」
茉莉がしゅんとする。
なんでだろう。
別に私は悪いことしてないのに、凄く後ろ暗い気持ちになる。
「え、えっと……」
な、なにか名案……私の山吹色の頭脳よ、名案をひらめけ!
ぴかーん!
「っ、そうだ、茉莉!」
「……?」
「そういう時はプレゼントだよ!」
「プレ、ゼント……」
「そう! プレゼントを渡して、気分をよくさせてからバラすの! そうすれば、きっと……!」
「半殺しくらいに、なる?」
「……それはどうかナァ、ウフフ」
ここまでして茉莉は半殺しにされると考えるのか。
……どんだけ鬼なお母様なのでしょう。
「……プレゼント、してみる」
「うん、そうしなよ。なにか送るかはすぐ決まる?」
「……どこかで、強い魔物でも生け捕りにしてくる」
「え」
「世界破壊くらい出来なきゃ、駄目……」
「え」
「……行ってくる」
「え、あ、はい」
そして茉莉は消えた。
「……」
母親へのプレゼントに、世界破壊が出来る魔物の生け捕り?
……よーし。
このあとなにをしよっかなー!
†
『バレてしまったわね』
「……ごめん」
『いいわ。他の誰かなら面倒だけれど、あの子なら』
「……いい、の?」
『ええ。あの子なら、面倒なことにはならないでしょ?』
「そう、かな……?」
『それに面白いし。そこいらの凡百の輩よりかは、ずっとマシよ』
「……ん」
『直接会って話してみたいかも』
「……珍しい」
『ん?』
「オリーブがそこまで人に興味持つの……」
『まあ、私は貴方と共にいられるのならばそれで満足する性質だけどね……そんな私にも興味を持たせるのだから、あの子は大したものじゃない?』
「そう、なんだ」
『あら? 少し不満そうね。私が他所見をして嫉妬しちゃった』
「そういうわけじゃ、ない」
『ふふっ。安心しなさい。例えどれほど他人に興味を持っても、私にとって貴方はただ一人の姉……どちらかといえば、貴方のほうが妹っぽいけれどね。そんな貴方と私は、ちゃんと姉妹愛という絆で繋がっているは。決して千切れることの無い絆でね』
「……うん」
『さて。母様の気に入りそうな獲物はどこにいるかしらねえ』
「どこだろ……」