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初日はっ!

 というわけでやってまいりました、試合当日でございます!


 ……うえー。


 ハッピーなイベントじゃないからそんなテンションあがんねえや。


 さっさと終わらないかなあ、こんなこと。


 とか思いつつ、私は指定された会場にやってきた。


 指定された、って言っても事前の通達だと「空に来なさい」みたいなことしか言われてないんだけど。


 空ってなんぞ、と私は最初思ったものだけれどね。


 今日になって、その意味が分かったよ。


 朝起きたら、あら不思議っ☆


 空にコロッセオみたいな施設が飛んでました。


 きらっ。


 きらっ、じゃねえええええええええ!


 え、いつの間にそんなの用意したの?


 この世界の非常識ぶりには慣れたかと思ったけど、そんなの自意識過剰でした。


 ちなみに。


 コロッセオのサイズ、余裕で半径十キロくらいありそうなんですけどぉ。


 馬鹿かっ!


 サイズ間違えてるよね、これ!


 一桁くらい!


 ……この世界で起きることにいちいちつっこむなんて、もう不毛なことなのかもしれない。


 そう悟ったよ。


 で、現在会場内、控室に私来ております。


 控室はめっちゃ現代風で、壁には大きいモニターがついてたりする。


 既に特別クラスの皆は先に来てた。



「それで、今日って誰の試合なの? 確か、一日一試合でしょ?」



 茉莉に尋ねる。



「……組み合わせは、向こうで決める」

「不平等ですね」



 小夜が溜息を吐いた。


 確かにそれはちょっと不平等がすぎるのではないだろうか。


 それじゃあ向こうの有利に試合を組むことだって出来るわけだし。



「ま、いいんじゃない? ハンデだとでも思おうよ」



 気楽にナユタが言う。



「まあ、一応こちらは挑戦を受ける側……どちらかと言えば、上位者です。上位者が下位者の要求を聞き入れるくらいの度量を見せなくては興醒めですからね」



 下位者……うーん、エレナは今日も腹黒である。



「なにか?」



 にこりとエレナが私に微笑む。



「ナンデモアリマセンヨ?」

「そうですか」



 怖いっす。



「あ」



 スイが声をあげる。


 部屋のモニターに電源が入ったのだ。


 そしてモニターに表示されたのは、二つの名前。



「……これが今日の試合、というわけか」



 アイリスがにやりと笑う。


 なるほどねえ。


 今日は……。



 観客席の一番前、特別席で今日の試合に参加しない特別クラス全員が集まっていた。


 ちょうど向かい側……っても二十キロ先の席にはゼファー=ローゼンベルクを中心に一般クラスからの参加者らしく人達が座っている。


 というか、ですねえ。


 観客多っ!?


 え、こんだけ大きなコロッセオの客席全部埋まってるんだけど!


 どっからこんだけの人が沸いたんだ!?



「いろんな世界から集まったみたいですね。これまでの学園の卒業生や、学園世界と交流のある世界の人達。それに、天界魔界の人もいるようですし……注目されていますね」

「ほほう」



 ソウが説明してくれた。


 最近影の薄いソウが説明してくれた。


 言いなおしたことに他意はない。


 ごつん、と。


 後頭部をなにかで殴られた。


 見れば、ソウがどこからか取り出した黒い剣の腹の部分で私の後頭部を殴ってた。



「……危ないよ?」

「お気にせず」

「いやしようよ!」



 今のだって普通の人間だったら頭蓋骨陥没レベルだったしね!


 なに、ちょっと拗ねちゃってんの?



「影が薄くても私はちゃんとソウのことを愛してるよ! 大丈夫!」

「そうですか」



 あっさり流された。


 ショックである。



「ほら、緋色。じゃれてないで、始まるよ」



 ナユタの声に、私はコロッセオの中心に視線を向けた。


 そこには、二人の姿があった。



「……どうして、私が最初?」



 茉莉が、目の前の女子生徒に尋ねた。


 それは私も思ったことだ。


 よりにもよって担任である茉莉を最初に相手に指名してくるなんて、なんのつもりなのだろう?


 すると相手の女子生徒に口元に笑みが浮かんだ。



「担任のあなたを倒せば、向こうの士気はがた落ちになる。そうすれば、特別クラスと言えど恐れるまでもありませんからね。それに、担任のあなたの力を見れば、自然と特別クラスの実力も把握できるでしょう」



 栗色の髪を伸ばしたその子は、堂々とした態度で告げる。


 おお、なるほど。そういう意図があったわけですか。



「申し遅れました。私は攻撃魔術クラス所属、葵=レンファートです」

「……特別クラス担任、茉莉」

「では茉莉先生、手合わせ、よろしくお願いしますね?」

「……」



 その瞬間。


 試合開始を告げるアラームが鳴り響いた。


 ――直後コロッセオの舞台が半壊した。


 えぇえええええええええええええええええええええええ!?


 ちょっ、おま、待っ……。


 な、なにを言っているか分からねえだろうが、私にもぶっちゃけよく分からねえ。


 なんか試合開始と同時に茉莉と葵ちゃんの身体から膨大な魔力が放出されて、それが衝突して超大規模な爆発を起こしたっぽい。


 つか空間が割れて次元の狭間くせぇのが見えてるんだけど。


 そしてそれだけの爆発の余波を防ぎ観客席に張られた障壁パネェ。


 試合の様子が土煙で様子が見えない、とかじゃなくて次元の崩壊で様子が見えない、って新しくね?


 なんかこう……形容し難い光景だ。


 なんじゃこりゃ。


 次元の狭間がゆっくりと塞がって行く。


 そうして、しばらくしてようやく試合の様子が見えるようになった。


 茉莉と葵ちゃんは、光の速度でコロッセオの中を駆け回っていた。


 すみません一秒のうちに魔術を万発撃つのやめてもらっていいっすか?


 ほらまた次元割れたよ!?


 ちょっ、見えない、見えない!


 これだけの観客集めたんだからちゃんとパフォーマンスしようよ!



「……どうやら、普通の能力では私の方が僅かに分が悪いようですね」



 葵ちゃんが一旦茉莉から距離をとる。



「であれば……」



 葵ちゃんの纏う空気が変わる。


 お……?



「――《顕現》!」



 ぶはっ。


 《顕現》なされたっ!?


 いやまあ一般生徒にも出来る人がいるってのは知ってたけど!


 でもいきなりっすか?


 実際試合が始まって三分経ってないんですよ?


 せめてカップラーメン出来るまでまとうよ!



「……」



 茉莉は呑気に葵ちゃんの《顕現》を眺めていた。


 ……余裕っすね。



「余裕ですね」



 《顕現》した葵ちゃんが鼻をならす。


 ちなみに葵ちゃんは白い羽衣を幾重にも纏い巨大な三叉を構えていた。


 超綺麗なんですけど。



「……」



 茉莉が小さな吐息をこぼす。



「《顕現》をしないでいいのですか? まあ、待ちませんけれどね!」



 葵ちゃんが茉莉にむかって飛び出す。


 飛び出す、という行為をとったときにはすでに、茉莉の眼前に迫っていた。


 移動、という過程がまるで消し飛ばされていた。


 ……これが《顕現》か。



「は――っ!」



 葵ちゃんが三叉を茉莉に突き刺した。


 三叉はあっさりと、茉莉の胸の真ん中に突き刺さる。



「……」



 それでも茉莉は、表情一つ変えなかった。



「な……」



 さすがの葵ちゃんも、茉莉のその様子に怯んだようだった。



「何故……なんの抵抗も……」

「……」

「どういうことですか!?」



 葵ちゃんが叫んだ、その時。


 茉莉の口元に、薄い笑みが浮かぶ。



「――っ」

「《顕現》で、それを考えてはいけない」



 次の瞬間。


 葵ちゃんの三叉が砕け散り、貫かれた筈の茉莉の胸にはなんの傷も残らなかった。


 《顕現》は想いを、そのまま現実に出来る。


 ならば、それは自身に利のある想いばかりではなく……不安や恐れといった、マイナスな思いも現実にしてしまう。


 葵ちゃんは、今、きっとこう思ったのだ。




 自分の攻撃は、効いていないのでは?




 ――と。



「心が弱い、あなたの負け」

「そんな、こと……!」

「《顕現》」



 茉莉が《顕現》する。




 ――美麗、とでも言えばいいのか。




 色は、漆黒と純白。


 薄手の白い服の上に袖のない黒い衣をまとい、腰からは淡い光を放つ布が伸び、舞うように揺れる。


 茉莉が、腕をゆっくりと持ちあげる。


 すると茉莉の素肌に、赤い光が幾何学模様を描くように走った。


 紅蓮の光が茉莉の掌から放たれ、葵ちゃんに襲いかかった。


 そうして。


 決着がついた。


 茉莉の《顕現》が解かれる。


 地面に、気絶した葵ちゃんが横たわっていた。



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