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夢で見たのはっ!

「ふぅ……」



 スイとの訓練を終えた私は、自分の部屋に帰って来た。



「張り切り過ぎだよ……」



 訓練は熾烈を極めた。


 というか、よく考えて欲しいんだ。


 私はそれなりに魔術とか《顕現》もどきを使えるよ?


 でもね、それだけなんだってば。


 魔術なんかは、ぶっちゃけ私くらいのレベルならこの学園にはごろごろいるんじゃないかと思う。


 実際、スイも魔術を使っていたけれど、すごかった。


 どうやったら小指の先ほどの大きさの水の弾丸で星一つ破壊する程の威力が出せるんだろう。


 だから魔術については、私に優位性はない。


 となれば、《顕現》もどきだけれど……ぶっちゃけ形が武器だから、それを扱う私のスペックが相手を上回ってないと、どうしようもない。


 そりゃあ某死神さんのよく伸び縮みする刀みたいに私も一瞬で数キロまで刃を伸ばしたりさ、次元を切り裂くことだって出来る。


 けれどそこまでだ。


 それ以上のことは、私の《顕現》もどきじゃできない。


 あくまで、もどき、なのだから。


 実際、今日の訓練で私はスイにまともに攻撃をあてられた回数は、そう多くない。


 逆に喰らった回数は大記録だ。


 四桁はやられたね。間違いなく。


 つまり、私がなにを言いたいかっていうと……。



「少しは加減しろぅ」



 畳の上に倒れ込む。



「はあ……」



 溜息を吐く。



「……ん」



 あー、うー。


 なんかちょっと眠い。


 布団敷こうかな……。


 寝る前にお風呂入らないと。スイとの訓練で汗かいちゃった。


 ちなみに湯めぐり部の部室は壊滅状態になっちゃった。


 ……むぅ。


 風呂入る前に、ちょっと寝ちゃおうかな?


 ……うん。


 そうしよう。



 殺す。


 殺す。


 殺す。


 殺す殺す殺す殺す殺すコロすコロすコろスコロスころスコロすコロスコロスコロスコロスコロス――!


 それだけを考えて、力を振るう。


 手の内に巨大な矛を作りだし、それで貫く。


 何度も、何度も、何度も、貫いた。


 殺す。


 殺せるまで、殺す。


 いつまでだって殺し続ける。


 そうしなくちゃいけない。


 思考なんて出来ない。


 ただそれだけの為に身体は動いていた。


 今の私は、それだけを行う機械。


 決められた動作を繰り返すだけ。


 殺す。


 殺す。


 殺す。


 と、腕が根元から千切れた。


 さらに咽喉が潰される。


 眼球が弾け飛ぶ。


 でも止めない。


 腕が再生する。


 今度は長剣を作り出して、切り刻む。


 刻む。


 刻まれる。


 殺す。


 殺される。


 頭がおかしくなりそうだ。


 でもそんなことにはならない。


 違う。


 きっともう、おかしくなってしまったんだ。


 そうだ。


 だって、こんなの普通耐えられないから。


 私はおかしくなっている。


 ああ、そうだ。


 思考を放棄した私が壊れていないわけがない。


 臆病者の私は、私を壊した。


 そして殺す。


 殺すのだ。


 殺さなくてはならない。


 ‐⁻-⁻₋-の為に。


 ‐⁻-⁻₋-の為に、私は殺そう。


 我が子を。


 我が子に等しき存在を。


 塵芥に変えよう。


 私は力を振るう。


 ただそれだけのために。


 ……あれ?


 どうして私はこんなことをしているんだっけ?


 誰の為?


 あれ?


 私は……私は……。


 私は?


 誰?



「……なに、ぼさっと、してるの?」



 掠れた声が聞こえた。


 どん、と。


 頭になにかが突き刺さる。


 私の視界には。


 私の顔面に手を突き刺した。


 輪郭が浮かんでいた。


 それは、見覚えがあって。


 間違いなく……。


 ‐⁻-⁻₋-だった。


 ――私の手は長剣をナユタの心臓に突き立てた。



「……っ!」



 飛び起きる。



「っ、ここは……」



 遅れて、ここが自室であることに気付く。



「そっか……私、寝ちゃって……」



 ということは、今のは……夢、か。



「……なんだ」



 安堵する。


 悪夢。


 悪夢だ。


 そうだよ。


 私があんなこと、するわけないし。


 ひどい夢。


 汗がすごい。



「風呂、はいろ……」

「そうね。それがいい」

「――っ!?」



 声が聞こえて、私は弾かれるようにそちらを見た。


 窓だった。


 窓の外、ガラスの向こう側、夜の闇の中に、銀色の髪が踊った。



「あ……」



 あの髪。


 後ろ姿だけれど、ポニーテールにまとめられたその銀髪を。


 そして背中から生えた六枚の翼を、見間違えるわけがない。



「あなたは……」

「元気にやってるみたいね」

「……また、いきなり現れますね」

「驚かせてしまったかしら?」

「……それなりに」



 正直ガチ驚いたけどな!



「そんなに驚かせるとは思わなかった……ごめんなさいね」



 微笑しながら彼女が言う。


 ええいやっぱり考えを読んでやがりますか。



「ふふっ……」

「……もうなにも言いませんよう」



 この人にはきっとなに言っても無駄だ。



「賢いわね」

「そりゃどうも」



 褒められても全然嬉しくないのはなんでだろう。



「……悪い夢を見たのね」

「そこまで分かるんですか?」

「ええ。まあ」



 まあこの人なら分かって不思議じゃないか。



「……本当は、貴方に会うつもりはなかったのだけれどね」

「え?」

「貴方は私の性質に近い。だから、もしかしたら私に影響されてしまうかもしれない。そう思ったからなんだけれど……どうやら手遅れだったみたい。最初の時点で既に、ということかしらね。それほどに貴方は、私に似ているということ」

「あの、なに言ってるんですか?」

「……夢については、今は考える必要はないわ」

「すみません会話についていけないんですけれど?」

「分からなくてもいいわ。ただ、言葉だけは覚えておいて」



 ……ううむ。


 話が通じてるのか?



「緋色……貴方には、強くなって欲しい」

「はい?」



 またいきなり話が飛躍しておりませぬか?



「強く、強く……私すら越えていって欲しい……」



 すると、彼女の翼が大きく広がった。


 白い羽根が舞う。



「少しズルいけれど、貴方に、貴方のヒントをあげる」

「私に、私のヒント?」



 なんのことっちゃ。



「――貴方らしく。そういうことでしょう?」



 ほわっつ?


 疑問を挟むより早く。


 あの人の姿は消えていた。



「……ぼーぜん」



 なんだったんだろう、一体。


 意味の分からないことをかなり言い残していきましたが……。


 むぅ?


 むー。


 むむむ。


 ……ま、いっか。


 風呂はいろーっと。



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