温泉はっ!
というわけでスイの特訓に付き合う前に風呂に入ろうと、私は湯めぐり部を訪れていた。
ずっと来たかったんだよね!
ちなみにツクハにはちゃんと湯めぐり部の部室を使っていいって言う許可を取った。
スイはなんかちょっと用事があるとか言ってどこかいったから、たっぷりゆっくりとっくりお湯につかることにしよう。
「お邪魔しまーす! って言っても誰もいな――」
湯めぐり部の部室のドアを開けたその先は、なんていうか……銭湯の脱衣所だった。
マジ、そのまんま。
で、そこに……先客がいました。
「……」
「……はろー」
いたのは、なんと小夜でした。
たらららーん。
小夜の姿は、俗に言う一糸も纏わぬ、に限りなく近かった。
今からお風呂だったのか、小夜は身につける最後の一枚、下着を膝下まで下ろしていた。
うむ。
皆の衆、よろしいな?
さあ仲良く声を合わせて……!
「眼福である!」
「ノックくらいしなさい!」
「げふっ」
なにかが私の顔面を思いきり強打した。
高密度に圧縮された魔力だと気付いたのは、私の身体が後ろに吹き飛んで廊下の壁にめりこんだところでだった。
部室のドアがひとりでにしまる。
「……痛いっす」
†
「テイーク、ツゥー!」
ばばん!
ドアを勢いよく開く。
ノック?
そんな無粋な真似はしねえよ!
「……」
「えー」
「なんですかその声は」
小夜が半眼で私を睨む。
小夜は身体にタオルを巻いていた。
「えー」
なにそれズルい。
「ブーブー!」
腕を振り上げ、唇ととがらせる。
「我々に裸体鑑賞の権利うぼぁ!?」
首が千切れるほどの威力で顔面を強打された。
†
「テイーク、スリィイイイイイブッバッ」
†
「ちょっと待ったなんで今吹き飛ばしたの!?」
まだテイクスリーとしかいってなかったのに!
「いえ、なんとなくです」
「なんとなくとな!?」
緋色ちゃんはびっくりだよ!
「……まったく、あなたも入るのですか?」
「うん。ツクハには許可貰ったからね!」
Vサインを突き出す。
「……」
小夜が溜息をついて、無言のまま浴場への扉を開ける。
「ちょっと待ってよ!」
一人でいく気か!
いく気か!
いく気か!?
ええいそうはさせませんですよ!
「さっよちゅわぁーん!」
我が血統が最終にして究極!
一子相伝!
空前絶後にして、色即是空!
もはやこれは常識の範疇になし!
意味など通じなくてよろし!
秘奥義!
ルパン・ダァアアアアアアアアアアアアアアアアアイブ!
ぽーん、という効果音と共に、私の来ていた服が脱げて辺りに放られる。
すっぽんぽんの私は、小夜に跳びかかった!
――グシャ!
見せられないよっ!
†
浴場は、やっぱり凄かった。
室内温泉はまあ、普通っちゃ普通。
電気風呂とか身体の老廃物を食べてくれる魚が泳いでる風呂とか妙な粘り気を持った風呂とかあったけどさ。
凄いのは、露天風呂のほう。
室内温泉に三桁近くのドアが備えられていて、それが全部別々のシチュエーションの露天に繋がっているようだった。
っていうか溶岩風呂とかそれ多分浸かるのはお湯じゃありませんよね?
硫酸風呂も以下同文。
「まったく……貴方と言う人は」
雪の露天風呂に肩まで浸かった小夜の顔は、ほんのり赤くなっていて色っぽい。
「……また不埒なことを考えているのですか?」
ぎろりと睨まれた。
「まさか」
口笛などを吹いてみたり。
「……はあ」
どうやらまるで信用されていない様子。
まったくどうしてこの私を信用できないのだろうね?
客観的に見れば、私を信用すべきなのは明らかなのに。
まず脱衣所での出来事でしょ!?
その後浴場に入って身体を洗っている時に隙を狙って小夜に手を伸ばすこと三十回程度。うち実際にタッチできたのは四回。ちなみに触ったのがどこかは、ヒ・ミ・ツ。
で、粘り気のあるお風呂に死ぬ気で引きずり込むこと一回。
電気風呂で痺れたふりして胸の中に飛び込むこと三回。
床に滑ったふりして抱きつくこと十三回。
見せられないよ! 状態になることおよそ三桁。
ほら信用できるでしょ!
流石、緋色ちゃん。安心の性能だね!
「そんなことで、試合は大丈夫なのですか?」
「……」
いきなり真面目なことを言われて、硬直する。
……。
あー、雪が綺麗だな。
一面銀世界にぽつんと露天風呂がある。
いいわあ。
いいわあ。
うふふふふ。
「現実逃避ですか」
「なんのことかしら?」
「……期待できそうにありませんね」
「うっ」
だ、だってしょうがないじゃん!
私まだここに来て、実際の時間はそれほど立ってないんだよ!
精神的な時間で言えばめっちゃ長いんだけどね!
「……実際さあ、どうなの?」
ふと、気になったことを尋ねる。
「なにがですか?」
「試合。特別クラス、勝てるの?」
「……」
小夜が僅かに考え込む。
「……正直、私にも分かりません」
「へ?」
「おそらくは、勝てる、と言いたいところなのですがね」
言いたいところ、ってことは……確定ではない、と。
「私、貴方、茉莉にナユタ、アイリス、エレナ、スイ。試合は全部で七試合。うち、絶対にこちらが勝つと断言できるのは……茉莉とナユタくらいでしょう」
「え……小夜とエレナは?」
二人もちゃんと《顕現》が使えるって話じゃん。
「……まあ、負けるつもりはありませんよ。私も、エレナも。けれど、欠片も不安要素がない、と言えば嘘になります」
小夜が目を細める。
「それに向こう側も……」
「緋色!」
ばん、と。
ドアが開いて、いきなり服を来たスイが乱入してきた。
「……え?」
「行くわよ」
行くってどこへ、とか聞く間もなかった。
いきなり、黒い槍が私に向かって跳んできた。
「ぶるぅあああああああああああああああああ!?」
奇声を上げながらなんとかそれを回避する。
「な、なにすんの!?」
「ここで訓練していいっていう許可を湯めぐり部の部長から貰って来たわ」
ふふん、とスイが笑う。
「えぇええええええええええ!? 用事ってそんなことしに行ってたの!?」
「ええ。ここなら、私に有利だしね!」
すると、温泉のお湯が爆発するように空中に舞い上がった。
空中のお湯が、いくつもの水の杭になる。
「お、おお?」
「ふっ!」
水の杭が、一斉に私に降り注ぐ。
「うわわわわわわわわ!?」
慌ててそれを避ける。
「ちょっ、たんま! 私は服も来てないし!」
「すぐに作れるでしょ!」
「そりゃまあ……」
言いつつ、服を作る。
この程度は朝飯前どころか寝ながらでも出来る。
……あ。
ここで一つ気付く。
小夜の姿が消えていた。
あの子ったら逃げましたか!?
私を助けてくれる気はゼロ!?
「さあ、始めましょう、緋色!」
目の前にはやる気満々のスイさん。
スイの周りには、いくつもの水の竜巻が出来ていた。
「……」
憩いの時間が……。
泣くぞ!?
「とりあえずスイの服を剥ぐ!」
話は全部それからだ!
揉むぞ!
つまむぞ!
舐めちゃうぞ!
「っ……」
すると、顔を青くして自分の身体を抱きしめたスイの身体から大量の黒いもの……常闇が溢れだし、私の事を包み込んだ。
ちょっ、おま……っ。