気付いたのはっ!
気付いたら朝だった。
な、なにを言っているかわからねえだろうが、私にもわからねえ。
……ぶっちゃけ気絶してただけなんだけどねっ!
てへっ。
とりあえず、私は白い天井を見上げていた。
保健室かどこかだろう。
「知らない天――」
「緋色、起きたか」
「……」
テンプレの台詞くらい言わせて下さいお願いします。
「知らない天じょ――」
「身体のほうは大丈夫か?」
「……」
狙ってんのかくのやろう。
……仕方ない。
諦めて身体を起こす。
やはりここは保健室のようだ。いかにも、って感じ。
そして私が寝ていた隣のベッドには、アイリスがいた。
「……一つ訊いていい?」
「なんだ?」
「えっと……あれ、私死んでないの?」
注。心の底からの疑問です。
そりゃね!?
もうね、脳裏に焼き付いてますよ!
ほんとどうして「なにが、あったの?」みたいな記憶が飛んでるっていう流れじゃないんだろ!
そりゃあれだけ散々にやられたら忘れたくても忘れられませんとも!
後半、半死半生であやふやだけど、それでもぎたぎたにされたのは覚えてる。
イリアさんマジ鬼畜。
「……生きているようだ」
自分の身体を確認しながら、アイリスが言う。
その表情は、無表情ながら、ひどく安堵しているようにも見えた。
「なに物騒なこと言ってるの?」
ふと、気付けば私とアイリスの間に人影が立っていた。
……だから、瞬間移動しなきゃならない規則でもあるの?
「ツクハ……」
その人は他でもない、ツクハだった。
「おはよう、緋色。よく眠ってたね。アイリスも」
ツクハが微笑む。
おおう、今日も破壊力抜群な笑顔ですね。
「緋色。お前、ツクハさんを呼び捨てとはなかなか勇気があるな」
呆れたようにアイリスが私を見た。
「私が許可したんだよ。贔屓で」
「公然と贔屓って言っちゃった!」
それでいいの!?
「はあ……そうですか」
どこか諦めたようにアイリスが肩を落とす。
「どうしてツクハがここに?」
「私、保健医もかねてるから」
「へ?」
つまり、理事長兼保健医?
「案外、理事長って暇だからね」
軽くツクハが言う。
「……ちなみに、ツクハさんが理事長だと知っているのは教員と特別クラスの生徒くらいだ。あとは、全員ツクハさんはただの保健医だと勘違いしている」
「らしいよ」
いや、らしいよ、って自分のことでしょ?
「正体不明の理事長ってことで、この学園の七不思議のひとつにもなってるんだよ」
ツクハが胸を張る。
……一つ言えることは、七不思議の残りの六つは知らないままでいい。
知りたくない。
知ったら絶対面倒なことになるから。
「というわけで、今まで二人の様子を見てたってわけ」
ツクハがウィンクをする。
様になりすぎててもう、なんていうかね!
「お世話をおかけしました」
アイリスが丁寧にしている!
……でもきっとツクハに逆らうのが怖いだけなんだろうなあ、とかなんとなく察してみたり。
だって考えてもみないな。
私はまったくそういうところは見てないけれど、ツクハはこの学園の理事長で、そうなると当然……この学園でも、かなりの実力者、なんだよね。きっと。
っていうか、なんていうかさ。
最初は少しも感じなかったんだけど、最近になってツクハから底の知れない力を感じるし。
私も成長してるってことなのだろうか。
「ありがとね、ツクハ」
「うん。それで、二人にイリアから伝言」
「――」
身体が強張った私とアイリスは悪くない。
当然の反応だ。
「まず緋色」
聞きたくないデス。
「仮合格。そのうちまた来る」
聞きたくなかったDEATH。
「で、アイリス」
「……」
「一応家族の縁は繋いでおいてやろう。さっさと私の足元くらいには噛みついてこい、だってさ」
「……」
アイリスが少し眉を歪めて、情けない表情になる。
……イリアさんってかなり厳しい親だよなあ。
うーん。
母親であれだもん。
父親の顔も見てみたいかも。
ああいう人と結婚するくらいだし……きっと。
ぶるぶるぶる!
考えるのは止めよう。
「……母様は、相も変わらずお厳しい」
ぼそりと、アイリスがこぼした。
「それとアイリス――」
「さあ姉さん。昨日は大変だったみたいですが、昨日は昨日。今日は今日。昨日言った通り、訓練しましょうねー」
突如現れたエレナが、アイリスの襟首を掴んだ。
「ちょっ、エレナ!?」
「はーい、行きましょうね」
そしてエレナとアイリスの姿が消えた。
「エレナが起き次第特訓を――って、もう遅かったか」
大分ね。
まあ伝えられていたとしてもアイリスは逃げられなかったろうけれど。
なーむー。
こっそり手を合わせておく。
そういうえば、エレナもイリアさんの……あ、でも一夫多妻とかの可能性もあるのか。
どうなんだろ。
……でも、顔立ちとか結構違うし、親は違うのかもなあ。
「それじゃ緋色。起きたならベッドを空けてくれるかな。流石に元気な人間をいつまでも保健室にいさせるわけにはいかないんだ」
「あ、うん。了解」
そりゃそうだ。
私はベッドから降りて、衣服を軽く直した。
とりあえず、家帰って、お風呂入ろうかな。
エログッズ満載の風呂なんだぜ。
ぐへへ。
まじ変態緋色ちゃんなんだぜい!
「それじゃ、またねツクハ!」
「うん、またね」
ツクハに別れを告げて、私は保健室を出た。
「あ、緋色。ちょっと訓練付き合いなさいよ」
そして廊下にいたスイに捕まりました。
「……あの」
「ん?」
「……せめて、風呂に、入らせて下さい」
どうせ逃げられないんでしょ?
分かってますよ。へん!