表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/103

酷いのはっ!

 本当に後悔しましたありがとうございました。


 今日一日を振り返って、もはや私は賢者モード。


 邪念を抱く余裕すらありませんわー。


 ……は、はは。


 自宅の畳に寝転がり、天井を見上げつつ溜息を吐く。


 あのあと……ナユタの言葉通り、皆の訓練にちっと入ってみたんだけど……うん。


 結果は、もう言うまでもないと思うんだ。


 あれは、酷いよ。



 荒野がひたすらに広がっている教室の中。



「それじゃ、軽く命の危険を感じて見ようか」



 朗らかにナユタがそう告げた。



「……え?」



 今の私の顔を是非とも全人類に見てもらいたい。おそらく全員が全員十点満点で間抜け面という評価をくださることであろう。



「あの、ナユタ? 今、なんて?」



 一応、聞き返してみる。



「だから、死にかけたりしてみよっか、って」

「いやいやいや」



 思いきり首を横に振るう。



「何故にそうなる!?」

「え? だって《顕現》を使いたいんだよね?」

「そりゃ、まあ」



 聞くところによると顕現ってのは凄いらしいし?


 実際ちろっとこれまでも何回か見て来たけれど、凄かったし。


 私の大鎌はそれが未完成の状態だっていうから、どうせなら完成させたいし。



「……あ」



 そこまで考えて、ふと思い至る。



「そういえばナユタと初めてあったとき使ってたあれって、《顕現》?」



 あの異世界の破壊神だかなんだかを消滅させたやつだ。


 馬鹿みたいにでかい槍とか出してたやつですよ奥さん。



「うん、そうだよ」

「はぁー、やっぱり」



 うん、やっぱり凄い力みたいだ。



「……で、どうして私に命の危険を感じろという話になるのでしょうか?」

「《顕現》って、大体がそういう危機的場面で使えるようになる場合が多いから、かな」

「危機的場面……」



 あー、そりゃそうか。


 いわゆるテンプレってやつ。


 命の危機に、今私の新たなる力が目覚める!


 魔法少女、リリカル緋色、始まるよ!


 嘘です。


 ……閑話休題。



「というわけで、緋色。やってみようか?」



 にっこりナユタがスマイルを浮かべる。



「――」



 ぞくりと背筋を冷たいものが伝う。


 これはやべえ笑みだ。


 本能的に感じた私は、すぐに離れた所にいるソウに視線をやった。



「そ、ソウ様……!」



 困った時のソウ頼みである。


 しかし、知っているかい、私よ。


 こう言う時のソウ頼りってのはなあ……。



「頑張ってください」



 ――成功率がめっちゃ低いのですわよ!


 うぎゃああああああああああああ!


 ソウがさらに離れていく。


 待って!


 ここで見捨てられたら私、死んじゃう!



「大丈夫、殺しはしないから」



 殺しは、ってところがもう駄目!


 あと心読むな!



「それじゃ緋色」



 ナユタが近づいてくる。


 死神の足音というのはこういうものか。


 へ、へへっ。


 ――そして私は拷問じみた訓練を受けることになった。


 そこについては、もう、語りたくもないし、思い出したくもない。


 私、死んじゃうってばあ……。



 ナユタとの訓練に嫌気がさして逃げだす。


 校舎内を走る。


 通りがかったアイリスに捕まる。


 ……三行で今の私の絶望っぷりがおわかりいただけただろう。


 さて。


 気を取り直して現状の説明といかせていただこう。


 場所はいつぞやの戦争ごっこマニア部の部室。


 日本の首都、東京が壊滅し、盛大に燃えあがっております。


 その様はまさに地獄絵図。


 そんな東京上空に私はいた。


 なんでここにいるか、なんて今更尋ねても無駄だろうと分かっているので、あえて聞かない。


 どうせ気分とか、そんな感じのもので私の迷惑を考えもせず引っ張ってきたに決まっている。


 だってアイリスだもの!



「とりあえず私はある程度本気を出すので、貴方達はさっさと私の本気を引き出せるよう頑張ってください。まあ、つまり《顕現》を使えるようになれ、ということなのですけれどね。《顕現》は《顕現》でしか越えられませんから……ちなみに、流石に完全な《顕現》まではしないので安心してください。したら死んじゃいますし」



 おい今なんか最後ちょっと不吉なこと言わなかったか?


 私はアイリスとスイに並んで、エレナと相対していた。


 エレナがゆっくりと右腕を上げる。


 その腕が、光の粒子になって弾けた――かと思った次の瞬間。


 そこに、透明な、まるで水晶で出来たような美しい弓を手にした、青い帯が絡みついた右腕が現れた。



「腕一本……まあ、この程度で十分でしょう」



 悠然とエレナが言って、弓を私達に向ける。


 それだけで私は……敗北しかけた。


 恐ろしい。


 とんでもなく、恐ろしい。


 こんなの勝てるわけがないじゃないか。


 あれは戦える相手ではない。


 そう、私の中で、なにかが叫ぶ。


 隣を見れば、アイリスとスイもまた自分の中に生まれた恐怖心を感じ、それになんとか抗っているようだった。



「……」



 拳を握りしめる。



「――こ、の!」



 どうにか声を振り絞りながら、私は未完成の《顕現》である大鎌を取り出した。


 その大鎌に、三人が目を丸くする。



「あら?」

「え?」

「……貴方、それ」



 スイが私の大鎌を指差す。



「え、これがどうかした?」

「どうかしたって……それ、《顕現》ですか?」

「うん。まあ不完全なんだけどね」



 言いながら大鎌を素ぶりする。


 眼下の東京の街の三分の一ほどが消し飛んだ。



「……ず、ずるいではないか!」

「おおっ!?」



 アイリスが突如叫ぶ。



「いつの間にそこまで使えるようになったのだ!」

「いつの間にって、この間?」

「あっさり言うな!」

「えー」



 だったらどうしろってのさ。


 使えるものは使えるんだから仕方ないじゃーん。



「くっ……!」



 悔しそうにアイリスが大鎌を見つめる。



「スイ! 私達もさっさと使えるようになるぞ!」

「……そうね」



 アイリスとスイが頷き合う。



「それとルール変更だ!」

「え?」



 あれ、なんか嫌な予感がしますよ?


 自慢じゃないですけどこの学園にきてから嫌な予感がはずれたことがありません。



「私とスイ対エレナ対緋色! 緋色はもうここまで出来るんだから、チーム組む必要なんてないだろ!」

「えー?」



 ちなみに。


 このルールで始めた直後、私はエレナとアイリスとスイにフルボッコされることとなった。


 エレナは「一番危険なので」と言い、アイリスとスイは「なんか悔しかったから」と言った。


 ……ちくしょー!



 この流れを説明するまでもないのだろうけれど、一応説明しておこう。


 例の三姉妹のもとから逃げだす。


 茉莉にばったり会う。


 問答無用で引きずられる。


 へへっ。


 私ぁ、もう駄目だ。


 目の前には、茉莉と、そして小夜がいた。


 場所は砂漠。もちろん教室だ。


 もうね、バリエーションありすぎ。


 きっとそのうち宇宙空間とか出てくんだぜ、これ。



「で、どうして私が彼女を鍛えなければならないのですか?」

「……緋色が《顕現》を使いこなせば、全体の勝率が、あがる」

「それはそうですけれど」



 小夜がいかにも迷惑そうな顔を私に向ける。



「……」



 そんな目で見ないでよ。私だって望んでるわけじゃないんだし。



「……はあ、まあいいでしょう」



 え、いいの?



「私や茉莉は《顕現》は既に使いこなせていますし……」

「え、小夜と茉莉ってもう《顕現》使えるの!?」

「ええ」

「……ん」



 あっさりと小夜と茉莉が頷いた。


 ……でもこの二人なら使えてそうだよなあ。


 こう、雰囲気っていうの?


 なんか納得。



「……そっか」



 それじゃあ……。


 私は大鎌を手の中に出現させる。


 刹那。



「どりゃああああああああああああああああああああああああ!」



 私は小夜や茉莉が戦闘態勢をとる前に切りかかった。



「っ、なにを……!」



 焦った口調の割に、小夜はあっさりと攻撃を避ける。


 茉莉も動揺だ。



「ふ、ふふ、ふふふふふ!」



 私だって学習するんだ。


 このまま流れに身を任せれば、自分がボコボコにされることは分かっている!


 ならば!


 先にやってやればいいんだよぉおおおおおおおおおおおう!



「ふんぬばらぁああああああああああああああああああああ!」



 結果。


 駄目でしたっ☆


 訓練が終わった頃には、私はボロボロだったそうな。


 めでたしめでたし。


 ……ちっともめでたくないよぅ。


 ぐすっ。



「……あは、あはは」



 あれ、なんだろう。


 視界が滲んできちゃった。



「私、頑張ったよね……?」



 その言葉を最後に。


 私が意識を手放した。


 体力の限界っ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ