プレゼントはっ!
「どう、緋色。学園には馴染んできた?」
ナユタに誘われて、私は商店街に来ていた。
もちろんソウも一緒だ。
「うん。まあ、そこそこ」
「そこそこ、か」
「そこそこさ」
ここにきて二週間くらい……。
いきなり変わった生活環境に馴染むには、まだもうちょっと時間が欲しいところだ。
だってさ……。
「私、未だに商店街に武器屋とかあると違和感感じるもん」
この商店街、防具屋とか呪物屋とか、普通にいろいろ意味わかんない店があるんだよ。
もうね、なんだそりゃ、って感じですよ。
とりあえずこんな商店街に違和感を感じなくなったら、私もようやくこの学園に馴染んだということになるのだろう。
この間ちょっと覗いたら、十メートルもある大剣とか、厚さ三十センチの全身鎧やら、口が二つある頭蓋骨とか、いろいろあったし……。
「そっか……まあ、でもそれなりにやれてるようでなによりだよ。ギルドの方でも、結構ハイペースで依頼を達成してるって聞いてるよ?」
「いやあ、まだDランクだしねえ」
「この短期間でそこまでいけるだけすごいよ」
「そう?」
そんな褒められると照れちゃうなあ。
ぐふふ。
「そんな頑張ってる緋色には、なにかプレゼントが必要かな?」
「え?」
プレゼント?
マジで?
かわいい女の子からのプレゼント?
……おお!
「やったね!」
「あはは、そう喜んでもらえると贈り甲斐があるなあ」
笑んで、ナユタが視線をある方向に向けた。
「それじゃ、あの店でなにか選んでこようかな」
ナユタが見ていたのは、小さなお店。
ちょっとしゃれた感じの店構えで、看板には「エーメンス」と刻まれている。
「ここは?」
「アクセサリーショップ。それなりに有名なんだ」
「へえ」
ナユタに先導されて、私は店の中に足を踏み入れた。
「すご……」
店内には、所せましと様々なアクセサリーが飾られていた。
しかも数が多いだけじゃない。その一つ一つが、おそろしく美しい。
私は正直装飾品とかには詳しくないんだけれど、それでもどのアクセサリーも一流のものなのだろうと推察出来た。
「いらっしゃ――なんだ、ナユタか」
店の奥、カウンターに座っていた女性がナユタを見た瞬間に力の抜けたような表情をする。
青く煌めく長髪に、幾重にも黒い布を重ねたような服を纏った女性だ。
「なんだ、って……いいの、そんな態度で。せっかくなにか買おうと思ってきたのに」
「あら、そうなの? それなら高いのを買っていきなさい。財布には余裕があるでしょう?」
「……まったく。ところで、ウィヌスさん一人?」
「ええ。ティナは留守よ」
「そうなんだ」
言いながら、ナユタが店内を物色しはじめる。
「ねえ緋色、どんなのがいい?」
「んー、任せた」
というか私そこまでセンスあるほうじゃないし、ナユタに任せた方が安心できる。
「うーん。ソウはどんなのがいいと思う?」
「……そうですね。無難に選ぶのであれば、この辺りではないでしょうか?」
問われ、ソウはネックレスが並べられた場所を指す。
私へのプレゼント選びをしてくれている二人を眺める私の横に、いつのまにか気配があった。
見ると、カウンターにいた女性が立っていた。
この学園の人はどうして唐突に隣にいたりするのだろう……。
ウィヌスさん……って呼ばれてたっけ?
「なに? ナユタの彼女?」
ちょっと意地の悪い目で、ウィヌスさんが尋ねてくる。
「え……い、いやいや! そういうのじゃないですよ!?」
いきなり言われて、ちょっと動揺する。
「ふうん……ナユタってあなたみたいなのがタイプだったのね」
だから違うっちゅーに。
じー、っとウィヌスさんが私の顔を見つめてくる。
「な、なんですか?」
「……いや。なんていうか、貴方はあれよね」
「あれって?」
「鈍感なくせに、むやみやたらに女をたらしこむ顔してるわ」
「失礼な!」
いきなりなにを言うかと思えば!
私はそんなことしませんよ!?
そして鈍感でもない!
……何故だろう。今どこからか「ははっ、この人なに言っちゃってるの?」って意思を感じたんだが。
「なにを根拠にそんなこと言うんですか」
ぷんぷん!
「なにって……実体験?」
「実体験……?」
「そ。私の男がそういう感じだから。まあ、いい男であることに間違いはないし、仕方ないと言えば仕方ないのでしょうけれどね」
……あ、今私もしかして惚気られましたか?
うわー!
「ま、問題はいつまでもヘタレが抜けないところかしら」
「はいはい、ごちそうさまですー」
くっそう、幸せ空気巻き散らかしやがって。
リア充爆発しろ!
「ウィヌスさーん」
「あら、どうやら決まったようね」
ナユタの声が聞こえた次の瞬間、ウィヌスさんの姿はカウンターに戻っていた。
……ここは瞬間移動を多用しなくちゃいけない、って法律でもあるのか。
まあ、それはいい。
それよりもあれだ。
ナユタはどんなものを買ってくれたのかなー。
うきうきだ。
†
「はい、これ」
店を出たところで、ナユタが小さな紙袋を渡してきた。
「中、見てもいい?」
「もちろん」
ナユタの許可を貰って、私は紙袋の中身を取り出した。
中に入っていたのは、翼をデフォルメしたような細工のついたネックレスだった。
シンプルだけど、なにか惹かれるものがある。
間違いなくいいものだ。
値段を聞きそうになって、やめる。そういうのはマナー違反だ。
「ソウと選んだんだ。気に入ってもらえた?」
「もちろん!」
これを気に入らないとか、どんだけって話だ。
「ありがとね、ナユタ、ソウ!」
「喜んでもらえたならなによりだよ」
「私は大したことはしていませんので」
うーん、しかしほんとにいい感じのネックレスだ。
「つけるね」
「どうぞ」
断ってから、私は首にそのネックレスをかけた。
「どうかな?」
「似合ってるよ」
「ほんと?」
似合ってる、か。
んふふー。
なんていうか、嬉しいなー。
これ、大事にしよう。
「それじゃ、ナユタ! 次はどこに行く!?」
今日は一日楽しい気分で過ごせそうだった。