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似非関西弁はっ!


 辺りに草の根一本すらない荒野。


 学園からは、音速で片道一時間の場所に私はいた。



「ブゥレイヴァアアアアアアアアアアアアアアア!」



 大鎌を振り下ろすと、濃い紫色の炎が巨大な柱となって空を貫いた。


 もちろん技名はノリだ。


 その火柱に巻き込まれて、四本の腕と蜘蛛の胴を持つ巨人が消滅する。


 なんでもどっかの世界から紛れ込んだ魔神だとかなんだとか。



「よっ、と」



 肩に大鎌をかつぐ。



「あっけないなあ」



 ぽつりと呟いて、大地に開いた直径十メートルはありそうな大穴を眺める。


 うふふ。


 一週間くらい特訓したら、結構この大鎌使えるようになったぜ。


 とりあえず恐ろしく使い勝手がいいことは把握した。


 だってやろうと思ったこと、なんでも出来るんだもん。


 今みたいに炎を出すことが出来れば刃を伸ばすことなんて朝飯前だし、空間だって切り裂ける。


 なんてチート武器。


 未だにどういう原理で私がこれを取り出せるのかは分からんけれど、とりあえずそういうものだと納得している。



「さて、ギルドに任務完了の報告に――」

「あかんなあ」



 そんな声が聞こえた――次の瞬間。


 私の背後に、いつの間にか魔神がいた。


 ――あれ、消滅させたはずなんですけど?



「腐っても魔神。消滅させたくらいで素直にやられてくれるわけないやろ?」



 つか、なんだこのエセ関西弁は。


 どっから聞こえてるのさ。


 声の主を探す暇はなかった。


 魔神が私に腕を振り下ろして来る。


 それを大鎌で切り落とすが、一瞬で腕は再生してしまう。



「そいつ倒したいなら、せめてこんくらいはしとかんとなあ」



 不意に、視界の隅に火の粉が生まれた。


 火の粉は徐々に大きくなり、あっという間に巨大に膨れ上がる。


 その炎の中から一つの人影が現れた。


 真っ赤な髪の男性だ。


 その人が、人差し指を魔神に向ける。



「運がなかったなあ……さいなら」



 彼の指先が、光の粒子に変わる。


 あれって……前にもどっかで見たような……。


 ――一条の光が、魔神の胸の真ん中を射ぬいた。


 そこから、魔神の身体を金色の炎が包んで行く。


 刹那……なにかが起きた。


 なにか、とした表現できない。


 眩い光とともに熱風が吹き荒れて、気付けば魔神の身体が消滅していた。



「……ぽかーん」



 思わず口でいっちゃうくらいにはぽかんとしてしまう。



「な、なんでさ」

「コツはなあ、とりあえずぶっ飛ばすことや」



 笑いながら、男性が私の方に歩いてきた。



「そんなこと聞いてないし……ってか誰?」

「おう、ワイはツィルフゆーもんや。よろしゅうな、棘ヶ峰ちゃん」

「え、なんで私の名前……」

「ワイら教員の中じゃ有名やで。いろいろとなあ」



 ……あ、この人先生なの?


 にやにやと笑いながらツィルフさん……先生が私の顔を覗き込んできた。



「せやけど、まだまだ未熟やなあ。使いこなしておらん」



 その目が、私の大鎌を見た。



「武器の形で、なんてケースは初めてみるなあ。まあ、そんだけ不完全で不安定にやっとるってことか……逆にようそれでそこまで持ってこれたもんや。器用ととるか不器用ととるか……」



 この口ぶり……。



「私の大鎌がどういうものか、知ってるんですか?」

「まあなあ。今のワイの攻撃と同じ性質のもんやし」

「へ?」



 それって、さっきの魔神を消し飛ばしたやつ?



「そうなんですか?」

「まあなあ」

「……」



 うむ、ここは一つ、あれだな。



「師匠!」

「おおう!?」



 ツィルフ先生の手をとる。



「な、なんや!?」

「私にこの力の使い方を教えて下せえ!」



 ツィルフ先生の口ぶりからして、私の力はまだまだ……。


 なんかそれは気持ち悪い。中途半端とかマジ勘弁。


 今の力でも十分だけど……いや、やっぱりこの世界のパワーバランス考えると不十分か?


 まあどっちでもいいや。


 とにかく、どうせなら完璧に使えるようになりたいじゃない! 人間だもの! ひいろ。



「あー」



 ツィルフ先生が頭を掻く。



「それはどうにも、ワイに教えられるものやないなあ……《顕現》は、それぞれ使えるようになる切っ掛けがないと……」

「《顕現》?」

「ん、知らんかったか? この力はな、そう呼ばれてるんや。自らの想いを顕現させる力……自分という存在によって世界を圧倒する、そういう力としてな」

「……想い?」

「つまり、考えたことは何でも出来る、っちゅーことや」

「え、なにそれ」



 どんなチートだよ。


 世界滅べ、って考えたらやれちゃうわけ?


 出鱈目にもほどがあんぞ。



「まあ、その想いを自分自身で信じ切らなきゃならんし、そう簡単じゃないけどな。それに、欠片でも不安や迷いがあれば、それも顕現させてしまうんや」

「あ、そうなんだ……それは確かに」



 マイナスもおっきいな。


 それってつまり「もしかして自分、この勝負勝てないかもなあ」って冗談交じりに考えたらアリンコにも負けるってことでしょ?


 うわあ……シュール。



「で、この力は想いの問題やから……教えられて使えるようになるもんでもないんや」

「なるほど……」



 自力でなんとかしないといけないわけか。


 ……どうすればいいのか皆目見当もつきませんな。



「ま、いざって時には使えるようになるやろ」



 ぽん、とツィルフ先生が私の肩を軽く叩く。



「気長にやり」

「……はあ」



 私、気が短いほうなんだけどなあ。


 焦らされるのは好きじゃないの!


 焦らしたいの!


 あふん!



「……アホな顔してるで?」

「そんな馬鹿な」



 こんな美少女捕まえてなんて失礼な。それでも先生ですか。



「ま、そんじゃワイはもう帰るわ。あ、依頼報酬はワイのもんやからな?」

「え、なんで!」

「そりゃワイがとどめ刺したんやもん。しっとるやろ、ギルドの依頼は早い者勝ちなんや」

「うえ……」



 確かにそうだけど……でもお。



「……今晩のごはんを、食べるなと先生はおっしゃるのですか?」

「我慢し」



 笑顔で言われた!


 くっ、まあエログッズを買いすぎて有り金全部消費した私も悪いけどさあ!



「ここは最低でもおごる場面では!?」

「金と女の問題にはシビアにいかんとなあ」



 あっはっはっ、とツィルフ先生が笑う。



「甲斐性なし!」

「おうわっ!?」



 大鎌をツィルフ先生の首に叩き込む。


 もちろん学園の教員ならこれくらいは防げるだろうと見越しての行動――なのだが。


 すぱっ。


 って音が聞こえそうな感じに、ツィルフ先生の首が飛んだ。


 お……?



「……おお」



 あたったぞ!


 いぇーい! 首とんだっ!



「刈ったどー!」

「ってなにアホぬかしとんねん!」



 ばしん、と首無しツィルフ先生の手が私の肩を叩いた。


 ちなみに声は宙を舞う首から聞こえてきました。


 重力に引かれて落ちてきた首をツィルフ先生の首から下が受けとめる。


 なんだこの絵。


 そしてツィルフ先生の首がドッキングして、切断面から炎が噴き出す。



「まったく、あぶないやつやなあ」



 呆れたようにツィルフ先生が私を見る。


 ツィルフ先生は首をこきこき鳴らす。



「……よく生きてますね?」

「お前が言うな」

「全くその通りで」

「……彼は、よほどのことがない限り死にませんよ」



 一陣の風が吹き抜けた。


 そして、いつからそこにいたのか。


 一人の女性がツィルフ先生の横に立っていた。


 碧が少し混じったような銀髪が揺れている。



「はじめまして、棘ヶ峰緋色。私はナワエと申します。ツィルフと同じく、学園で教員をしています」

「ああ、これはどうも」



 ぺこりと頭を下げられたので、こちらもぺこり。



「ようナワエちゃん。遅かったなあ」

「貴方が先走りしすぎなのです……追いついてみれば、生徒一人に夕食を奢ることを渋っていますし……まったく、そのくらいの懐の深さは見せてもいいのではないですか?」

「えー」



 すぱっ、と。


 突然ツィルフ先生の首が飛んだ。


 わ、私は今度はなにもしていないぞう!?


 恐らく、ナワエ先生がなにかしたのだろう。



「まったく……仕方ない。では棘ヶ峰緋色。私が夕食を奢りましょう」

「マジですかっ!?」



 うわ、こんな綺麗な先生に食事に誘われちゃった!


 もしかして私、今夜は寝られない!?


 きゃっ!



「え、ナワエちゃん奢ってくれるの? こりゃありがたい話やなあ」



 首をくっつけ直したツィルフ先生が笑顔になる。


 その笑顔に対し、ナワエ先生は冷たい視線を返す。



「なにを言っているのですか? 誰もあなたに奢るなどとは言っていませんよ?」

「……えー」

「というか貴方はジャンクフードでも食べていればいいでしょう。それでは棘ヶ峰緋色、なにが食べたいですか? 特に要望がないのであれば、私の行きつけにでも」

「あ、じゃあナワエ先生におまかせで!」



 満面の笑顔で言う。


 奢ってもらうんだし、スマイルは大放出ですよ。



「なんや、ワイやってちょっと悪ふざけしただけやないか」

「それでは棘ヶ峰緋色。行きましょうか」

「あ、緋色でいいですよ」

「そうですか? それでは、緋色と」

「それで、行くのってどんな店なんですか」

「私の知り合いがやっている店で、少し値段は張りますが、味は間違いありませんよ」

「そうなんですかー」

「ワイは無視か!?」



 なんか聞こえるけど緋色知らなーい。


 晩ご飯奢ってくれる綺麗な女教師と、なにも奢ってくれないエセ関西弁男教師なら、どっちが優先順位高いかなんて決まってるしねー。



「ちょ、マジ無視!? ネタやないの!? ねえ、ねえってば!?」





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