武器はっ!
「武器が欲すぃー!」
ばん、とドアを開けて部屋に突入する。
出来ればこう、部屋の中では寂しさを慰める例の行為が行われてたらなんてよこしまな思いがなくもない。
……もうそろそろこのネタ使いまわせないな。
「へえ、そうなの?」
そんな私の願望も虚しく、部屋の主……ツクハさんは平然と窓の外を眺めながらそう返してきた。
「……そんな美味しい展開、ないって分かってたですとも」
「ふふっ」
私の呻きに、ツクハさんが微笑む。
「それにしても、随分といきなりだね?」
「んー。いやあ、だってこう、ファンタジーな世界に来たんだし、魔法だけじゃなくなにか武器も使いたいじゃないですか?」
「そういうもの?」
「そういうものです」
「ふうん……でも、武器かあ」
ツクハさんが顎に手をあてて考え込む。
「どんな武器がいいの?」
「んー……聞かれても。分からないんですよねえ。生憎武器なんて使ったことはないんで」
「だとしてもイメージくらいあるんじゃない?」
「イメージ……」
まあ確かに、ラノベとか呼んでれば、ちょっとくらいはあるけれど。
「例えば、剣とか」
「あ、それは嫌です」
「そうなの?」
「だってそれは、あんまりにもそのままじゃないですか」
ファンタジーに剣?
そんな平凡は私が許しません!
もっとなにか……こう……非凡でありスタイリッシュな……!
「武器の種類に詳しそう、と言えばあの子だけど……緋色を合わせるのは……」
ぶつぶつとツクハさんがなにかを呟く。
「佳耶に話したら間違いなくチェーンソーだし……」
チェーンソー……?
え、チェーンソー?
ど、どういうことだってばよ。
嫌な予感しかしないでありますな。
つっこまない方向で!
ああん、もちろんそっちの「つっこむ」じゃないからね!
「……茉莉も……絶対に刀をすすめてくるし……小夜は、まず呼び出しに応じないだろうな……」
ツクハさんはなおもぶつぶつ呟いている。
考え込むと周りが見えなくなる人なんかなー。
「あの三姉妹は武器とはほとんど無縁だし……ナユタは剣以外使ったことない……教職員は今は授業中だし……」
「あ、あの、そこまで真剣に考えてもらう程のことじゃないですよ?」
ちょっとツクハさんのところに乱入する名目みたいなところもあったし。
そこまで真剣になられると、逆に申し訳ないっていうか……。
「んー……あ」
ぽん、と。
ツクハさんが手を合わせた。
「緋色」
「はい?」
「いい手を思いついたよ」
「ほう。それはいかような?」
にやりとツクハさんが笑う。
「想像して……貴方が思う、貴方にもっともふさわしいと思う武器を」
「は?」
想像?
どゆこと?
「いーからいーから! 目を瞑って!」
困惑顔をする私に、ツクハさんが言う。
仕方なく私は目を瞑った。
「とにかく、強く想像……ううん。信じて。貴方の武器が、貴方の手の中にある、と」
「……?」
「いーから」
ほんと、なんなんだろう?
まあいいや。
ツクハさんがここまで言うんだし、やってみよう。
ええと、手の中に、私が私にもっともふさわしいと思う武器があると信じればいいの?
っても、ふさわしい武器ってなんだろ?
……分かんないから適当でいいや。
むむむむむ。
緋色ちゃんにふさわしいウェポンよ、いでよ!
ちゃーらーらーらーん!
_‐-_‐‐_‐‐_-‐‐-‐_‐-‐‐《■■》‐_‐-_‐‐_‐‐-_‐‐_-‐‐-‐
「むむっ?」
なんか違和感があった。
「へえ」
ツクハさんの感嘆の声が聞こえる。
「すごい、まさか一発とは……とはいえ、未完成か」
「どういうことですか?」
「目、開けていいよ」
言われて、目を開ける。
すると、私の手の中に大鎌がありました。
てへっ。
って、うぇえええええええええええええええええええええい!?
「な、なんじゃこりゃあああああああ!」
「なにって、緋色の武器」
「いやいやいや、いつの間に!?」
「緋色の想像が形になったものだよ」
さらりとツクハさんが教えてくれる。
「え、そんなのアリ?」
「ありあり。まあ、一応秘奥義ちっくな技だけど……緋色は凄いねえ」
ひいろ は ひおうぎ を ますたー した。
マジかよ……。
私は改めて、手の中のそれを眺めた。
柄は私の身長程もあり、色は黒に血管のような筋が赤く刻まれている。刀身は半月型で、なんとなくギロチンをイメージさせる。色は漆黒に赤い幾何学のラインが入っていた。
ふうん……へえ……。
悪くない。
「でもなぜ大鎌?」
「緋色が緋色っぽい、って感じたんでしょ?」
「いやいや、私イコール大鎌って……」
厨二の自覚はあるが、まさかそんな痛い考えをしているとは。
へへっ、自分にびっくりだ。
「まあ、私から見ても、らしいといえばらしいけどね」
「へ?」
「似合ってるよ。なんか、緋色ってさ、強い自分を装うタイプじゃない?」
「そ、そんなこたあねえですよ!?」
図星っ!
「そんな……言い方悪いけど、虚勢がさ……その禍々しい大鎌にぴったりだよ。大鎌なんて見かけはかっこよくて強そうだけど、実際はとことん扱いにくいものだしねえ」
「今私、なにげなく「お前は見かけばっかりだ」とか遠まわしに言われませんでしたか?」
「さあ、どうかなあ」
否定してほしかった。
「でも緋色、これだけは言えるよ?」
「はい?」
「緋色は、虚勢を本当の自分に変えていけるよ。それだけの力がある。それは私が保証してあげる」
「……」
あ、ありゃ?
褒められた?
「……でへへ」
人に褒められるのはとことん弱いとご近所で評判だった緋色ちゃんですよ?
そんなこと言われたら……でへへ。
「よしっ、ツクハさん、私頑張るよ!」
「うん」
「そいじゃ、ちょっくらこの武器の扱いでも練習してみようかな?」
「それなら特別クラスの三姉妹に協力してもらったら?」
「……」
え、あの三姉妹に?
「……か、考えては、みます」
「うん」
「そ、それじゃ! またね、ツクハさん!」
「あ、待って」
「ん?」
部屋を勢いよく出て行こうとしたところで、ツクハさんに呼び止められる。
「私には敬語とかいらないし、呼び捨てでもいいよ?」
「……マジで?」
「ほんとはいけないんだけどね……緋色のことは、贔屓しちゃおう」
笑顔でツクハさんがそんなことをおっしゃる。
……ま、まさか私がニコポされる日が来るとは!
「了解、です」
ツクハさんの笑顔破壊力高ぇえええええええええ!
内心で叫ぶ。
「そ、それじゃ、またね! ツクハ!」
「うん」
逃げるように私は理事長室を飛び出した。
†
「未完成とはいえ、《顕現》をああも簡単に……末恐ろしいなあ」
まあ彼女も、最初は未完成の《顕現》を使ってたし……ある意味で、これはなによりも喜ぶべき成長なのかな。
なにせ、彼女と同じ路を辿っているということだから。
……ううん、でもそれじゃあ駄目なんだ。
彼女と同じじゃ、意味がない。
緋色……あなたには、期待しているんだよ?
「ねえ、エリス?」
「――ええ」
窓際にいつのまにか腰をかけている人影が合った。
その背中からは、六枚の白い翼が広がっている。
ポニーテールでまとめられた長い銀髪が風に揺れた。
私と瓜二つの顔立ち。
私の、最愛で最強の妹。
「あと、どれくらいかしら?」
「さあ」
エリスが微笑み、肩を竦める。
「私には、なんとも。あくまで今の私は、見守るだけだから……」
「そうだったわね」
くすり、とエリスが笑う。
「緋色には素で喋っていいと言うわりに、あなたは素を見せてあげないのね?」
「そりゃそうよ」
私も微笑み返す。
「私の素は、重いのよ? まだまだあの子には委ねられないわ……まあ、今は、だけど」
「あの子は十分に強いわ」
エリスが空を見上げる。
「……そうかもね。あなたには、それが分かるの?」
「――……」
無言のまま笑みを深くして……次の瞬間、エリスは消えていた。
「まったく」
軽く溜息を吐く。
「そういうこと言われたら、期待しちゃうわよ?」