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不穏な空気はっ!


 お腹が空いた。


 朝から結構歩きまわったしなあ。がっつり食べたい気分。


 うし。


 というわけで……。



「食堂にやってまいりました!」



 じゃじゃん!


 うわー、すげえ。


 食堂って……これも小さいホールってレベルの大きさじゃん。


 収容人数何人ですか……。


 イメージとしては、ショッピングモールとかにありそうなフードコートみたいなかんじ?


 壁際にはずらりといろいろな店が並んでいる。


 これだけ広い空間にも関わらず、7割ほどの座席が埋まっていた。


 うむ、期待値高し。


 というわけで私は早速昼飯をなににするか歩きまわる。


 ほんとにいろいろあるなあ。



「和洋中はもちろん……どこぞの民族料理みたいなものまで……」



 ふーむ、なににしようかな。


 私的には「ケバブ一ロール」というアホな商品に心惹かれるのだが、流石にそんなのは食べきれないし。


 うーむ。


 かつ丼にしておくか。


 え、女の子のチョイスじゃない?


 いいんですよ食べたいんだから!


 というわけでかつ丼専門と書かれた看板の店へ近付く。


 すると、その店の前にいる人影に視線がいった。



「お?」

「あ」



 アイリスが、そこに立っていた。


 あれ……アイリス、さっきエレナに……。


 復活早いな。


 私なら半日は寝込む自信があるんだが。



「緋色じゃないか。なんだ、昼食か?」

「うん。アイリスもかつ丼?」

「ああ。ここのかつ丼は疲れた時にこそ美味い」



 ……私がいうのもなんだけど、アイリスは女の子として昼食をかつ丼にしていいのだろうか?


 いや、べつに私はいいんだよ?


 でも、こう、美少女がかつ丼って……絵的にねえ?



「早く注文したらどうだ?」

「あ、うん。すみませーん」



 アイリスに言われて、店の人にかつ丼を注文する。


 卵二倍とかあったけど、やっぱり最初はスタンダードでしょ。


 少ししてアイリスのかつ丼が運ばれてきた。



「一緒に食べるだろう? 席をとっておこう」

「ん、ありがと」



 その後、私もすぐにかつ丼を受け取ってアイリスがとっていてくれた席に向かう。


 そうして、ちょくちょく会話も交えつつ、かつ丼を二人で食べた。


 周囲から奇妙なものを見るような目を向けられたのは気のせいだったろう。きっと。


 ちなみに味は文句なし。


 これまでの人生で一番美味しいかつ丼だったと言っても過言ではないレベルだった。


 これであの値段なら十二分だよなあ。


 うーん、ここの学食、いいわあ。


 食事を終えて、私とアイリスは椅子にもたれかかっていた。


 余は満足じゃ。満腹満腹。



「そういえば、さっきうちの部に見学しにきてたんだって?」

「あ、まあねえ」



 ただすぐに逃げだしたけど。



「入るのか?」



 なぜかきらきらした目で尋ねられた。



「断固拒否」



 もちろん笑顔でそう答える。


 あんな部に入ったら三時間で死んでしまうわ。



「ふむ……嫌なのか?」

「そりゃあ、ねえ」



 エレナの振るう暴威が脳裏をかすめた。


 あれは……ひどかったなあ。



「緋色が入れば、面白そうなんだがなあ」

「あはは。ごめんね」

「……まあ、いいさ」



 あ、意外。


 なんとなく、アイリスの言動から無理にでも勧誘されるものとばかり思ってたんだけど。



「同じ部になどいなくとも勝負はできるしな?」



 にやり、と。


 怪しい笑みを浮かべ、アイリスが私を見る。



「へ?」



 あ、逃げよう。


 そう思った時には遅かった。



「勝負をしよう、緋色」



 いつの間にかアイリスが私の手を掴んでいた。


 ぷぎゃー。



「離してくだせえ!」

「無理だな」

「無理ということはないでしょう!」



 ああっ、だめえっ!


 そんなに強く手を握られたわ、私……骨が砕ける!


 痛い痛い!


 ちょ、逃がさないために私の手を破壊しようとするのはやりすぎじゃね!?



「わ、私このあと用事が!」

「どんな?」

「え……そ、それは……じ、自分を慰める感じの行為!?」

「……」



 おおっ、アイリスの口角の角度がさらにあがったぞ。



「それならば、この後は暇だな?」

「ええ、聞いてた!?」

「別に「自主規制!」など、いつでも出来るだろう」



 あ、あぶねえ!


 今私が言葉挟まなかったらこいつマジで言ってたぞ!


 オで始まる四文字の単語を口にしてたぞ!


 美少女がそんなこと言っちゃいけませんよ!?



「さあ、では行こう。部室でいいよな?」



 アイリスが私の手を引いて立ち上がる。



「ちょっ!」

「いいだろう。ほら」

「ご、強引になんて……そんなの、ひどいわっ!」

「そうか」

「あっさり流された!」



 とか、きゃいのきゃいの騒いでいたら――、



「あ」



 がちゃん、という音がした。


 見ると……アイリスが背後を通った誰かにぶつかっていた。


 そしてその誰かはお盆を持っていて、その上にはパスタ料理がのっていた。


 そう。


 のっていた……過去形だ。


 その皿はアイリスがぶつかった衝撃で、お盆から落ちて床に転がっていた。


 もちろん料理は台無しで、しかもその人物の服が汚れている。


 白いソースで、汚れている。


 しかし残念ながらその人物は男だった。


 ほんとうに遺憾ながら。



「ああ、悪いな」



 アイリスが振り返って、その男子に言う。


 男子は俯いて、肩をふるふる震わせていた。


 あれ、これやばげな雰囲気?



「……また貴様らか。特別クラス」



 え、貴様ら?


 複数形っすか?



「ん? また、とは? どこかで会ったことがあったか? ふむ。それなら悪いな、記憶に残るほどの存在感は私の中ではなかったらしい」



 ここでその台詞が出るとかマジパネェっすアイリスさん。


 そろそろオイラ逃げていいっすか?



「俺個人でなくとも……特別クラスが、他の生徒達にどれほど迷惑をかけているか、分かっているのか?」



 彼の手の中のお盆が軋み、砕ける。


 膨大な量の魔力が滲み出してきた。


 お、おお?


 かるーく私の魔力量越えてません?


 もしかしてこの彼、結構すごい人?



「授業に気紛れで参加すれば、その授業を受けていた生徒達を全員入院させ」



 それは酷い。


 誰だ、誰がやったんだ。



「ふむ」



 アイリスさんなんか覚えがありそうな顔してません?



「ちょっと声をかけようとしただけで付き人が襲いかかってきたり」



 付き人のくだりで一人しか思いつきません。


 ……声をかけるくらいでソウがそんなことするかなあ?


 なんかそれ、誇張とか入ってるんじゃない?


 もしくはただ声をかけようとしただけじゃなかった、とかかな。



「ちょっと機嫌が悪いからと殺気で周囲の人間を気絶させたり」



 あー……スイかな?


 つんけんしたイメージがある。



「ちょっと魔が差してからかっただけで、その後唐突に姿を見なくなった生徒もいた」



 順当にいくならこれはエレナか。


 エレナなら生徒の一人二人、引きこもりにさせるのは簡単そうだ。


 なにせ腹黒っぽいし。



「担任は担任で訓練で力加減を間違えたとほざいて校舎の一割近くを消し飛ばす」



 茉莉ェ……。



「他にも風紀関係の仕事をしているかと思えば、違反者捕縛の際に世界一つを壊しかける」



 小夜……そんなことしたの?


 うん。


 総評。


 特別クラスとかマジ迷惑じゃん?



「貴様らのなにが特別なのかは知らんが……全生徒を代表して、この俺……ゼファー=ローゼンベルクが言ってやろう」



 彼が――ローゼンベルクが顔をあげ、アイリスを睨みつけた。



「貴様らは、この学園の汚点だ!」

「……ふむ?」



 そんなことを言われて、アイリスは微動だにしなかった。



「それで?」

「なんだと?」

「それがどうかしたか?」



 アイリスが鼻で笑う。



「汚点? 別に美しく在ろうなどと考えたことはない。汚点結構。好きに評価すればいいさ」



 そんなアイリスの言葉を受けて、ローゼンベルクがたじろぐ。



「っ……改心するつもりすらないか」



 ローゼンベルクの目がさらに鋭くなった。



「ならば、もういい。実力行使だ」

「ほう?」



 ありゃ?


 これは……マジでやばくね?


 アイリスとローゼンベルクの間に、魔力が渦巻く。



「特別クラスなどというものの実力を教えてもらおうじゃないか」

「構わんが……?」



 そんな二人の危険な雰囲気を感じ取った周囲の生徒達が、そそくさと非難していく。


 ちょ、待っ、こんなところにいたら私は避難できないよ!?


 誰か助けてよ!


 思うが、勿論誰も助けの手を伸ばしてはくれない。



「ふん。その調子、いつまでも続けられると思うなよ」



 ローゼンベルクの纏う雰囲気が変わる。


 背筋に悪寒が走った。



「――《顕げ――」

「はいそこまで」



 悪寒を、悪寒が塗り潰した。



「校内でのそれは、厳重に禁止されているの知ってるかな?」



 いつの間にか、小柄な青い髪の少女。


 その手には黒い水晶で作られたような剣が握られ、剣尖はローゼンベルクの首筋にあてられていた。


 ……誰?


 ローゼンベルクの顔が、真っ青になる。



「ナ、ナンナ……理事」



 理事……?


 え、この子が?


 マジか……。



「それじゃ、ゼファー君。反省室に入る覚悟は決まってるかな?」



 にっこりとナンナ理事が笑う。


 それだけなのに、妙な威圧感を感じた。


 ローゼンベルクが小刻みにこくこくと頷く。



「そ。物分かりがいい生徒は好きだよ?」



 ナンナ理事が、ちろりと私とアイリスを見る。



「そっちは……まあいいか。一つ言うなら、あんまり食堂で暴れちゃ駄目だよ、アイリス。それに……棘ヶ峰、緋色さん?」

「善処しよう」

「あ、はい」



 私達が頷くと、ナンナさんがローゼンベルクを連れて歩いて行った。


 ……なんかローゼンベルクの背中が可哀そうだった。



「……ナンナ理事って、何者?」

「この学園でも最強と呼べる人の一人だ。逆らわないのが身のためだぞ。特別クラス総出でも勝てるかどうか……いや、勝てんだろうな」



 うん、なんだただのチートか。



「メルさん。最近、特別クラスへの不満が生徒間で溜まっている、という噂を聞きましたか?」



 ティナさんがそんなことを言いだした。


 来月の校舎の増築予定表から顔をあげる。



「不満、ですか」

「ええ。実際、当然と言えば当然なのですが……特別クラスはなにをもって特別なのか、と」



 それはまた、もっともな疑問が出てきたものだ。



「……まあ、《顕現》だけで言うのであれば、他の学科でも出来る子は何人もいますからね」

「逆に、特別クラスには《顕現》の出来ない子が約半数……」



 そういうところから、特別クラスへの不満が生まれているのだろう。



「……特別クラスの意味を説明出来れば楽なのですけれどね」

「説明して分かってもらえるようなものでも、ないですから」



 ティナさんが溜息を吐く。



「心配ですね」

「そうですか?」



 私は別にそうでもない。


 心配と言うのであれば、その問題よりもよほど心配なこともある。


 特別クラス。


 それは……大きな力を秘めた、それ故に危険な生徒を集めたクラスのことだ。


 決して間違った道を進まないように、特に注意して導くために……まあ、ちょっとの贔屓もあって作られたクラス。


 もしなにか一つ間違えてしまったら。


 そう考えると……私は一番それが怖い。


 特に、あの子。


 恐らく一番大きな可能性を秘めた……あの人の娘。



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