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最後の一人はっ!

「はあ……あの三姉妹は危険だ……とくに二女」



 呟きながら、校舎の廊下を歩く。


 ……っていうか、歩いているうちに、廊下がなんか「ここは旧校舎です」みたいな感じになってきたんだけど。


 ほら、床なんか軋むし。


 これ明かりなかったらホラーのレベルだよ?


 とか思っていると、廊下の突き当たりにぶつかった。



「おろ?」



 適当にあるいてたしなあ……迷子になったかも。


 まあ迷子っていっても転位扉さえあれば迷子なんてどうってことないんだけどさ。


 いやあ、この校舎ってほんと便利だわ。


 噂によると一年で東京ドーム一個分の大きさずつ増築されているらしい。



「んー?」



 突き当たりにあったのは、一つの扉だった。


 その扉の上にかかげられたプレートをふと見上げた。



「風紀委員会外特別支援殲滅執行部……?」



 なんだこの恐ろしくものものしい名前は。


 ええと、風紀委員?


 いや、でも外ってことは、そうじゃないのか。


 んー、つまり、風紀委員ではないけれど、風紀委員を支援する人があつまる場所、ってことなのだろうか?


 にしても、殲滅執行部って……え、殲滅?


 学園に殲滅なんて単語が介入する余地は――。




 その時、これまでの記憶がフラッシュバックした。




 うん、納得した。すべてに。


 殲滅あるな!



「でもまあ、とりあえず覗いてみるか」



 なんか興味あるし。


 一応これも部活、なのかな?


 というわけで、扉にてをかけて、そっと開く。



「失礼しまーす」



 そっと扉の中を覗き込む。



「――……ぁ」



 そこにいたのは、一人の少女だった。


 広い部屋。


 真中に長机が二つといくつかのパイプ椅子が置かれただけの殺風景な部屋。


 その部屋のパイプ椅子に腰を下ろし、窓枠に肘をかけて外を見ている少女は、この学園に来て何度目かは分からないけれど、それでも「これまで」に劣らぬ衝撃を私に与えた。


 黒い髪は、腰よりも低いところで折り返しをして、頭の後ろで留められていた。普通に伸ばせば、身長よりもずっと長いのだろう。


 どことなく憂いを帯びたよう表情は、それだけで絵になる。



「――なにか、御用かしら。特別クラス所属の、棘ヶ峰緋色さん?」



 凜、というよりも、突き刺すような声が私に向かって放たれた。


 彼女の顔は私に向いていない。



「え、なんで私の名前……」

「同じクラスですもの。知っていて、不思議はないでしょう?」



 同じクラス?



「ってことは……あなたが特別クラスの最後の一人か」



 というかちょっと待った。


 同じクラスだから、名前が分かるってのは、まあいいよ?


 でもなんで顔もしらないのに私の名前を言えるのさ。


 会ったこと無いんだから顔と名前が一致するわけなくない?


 ……まあ、この学園にいる人にそういう疑問を感じる方が間違えなのかもしれないけどさあ。



「えっと、そっちの名前は?」

「あら、教えなくてはならない理由などあります?」

「う……」



 な、なんだろ。


 もしかして私、この子ちょっと苦手かもしれない。



「……はあ」



 私の態度を見て、彼女が溜息を吐く。



「まあ、同じクラスのよしみとして応えて差し上げましょう。小夜(さよ)。それが私の名前です」

「小夜……」

「気軽に呼ぶのですね」

「あっ……え、えっと、じゃあ、小夜ちゃん?」

「ちゃん、ですか」



 こころなしか小夜ちゃん(仮)の目が鋭くなった気がする。



「え、ええとじゃあ、小夜さん!」

「……」



 小夜さん(仮)が再び溜息を吐く。



「呼び捨てで構いません」

「あ、ありがと」



 やっべ。


 やりずらい。


 こ、こうなったら……!



「ところでこんな部屋でなにしてたの!? あ、もしかして一人ってことで、ちょっとイケナイこととかしちゃってたり? そのスカートの下とか濡れ濡れだったりしちゃいます!? あはっ」



 下ネタは全人類の共有言語!



「……」



 うん、小夜の視線がブリザード。


 まじ死ねるレベルで滑った。


 若干滑ることは予見できていたのだが、止まれなかったのさ。


 それがこの私、緋色ちゃんだからさ!


 きらんっ。



「……」



 ところでその絶対零度の目をやめて欲しいなあ。


 死んじゃうよ?


 私、凍死しちゃうよ?



「あなたは、恥ずかしい人なのですね」



 ぐさっ!


 全てを諦めたようにそんなことを言われて、私のガラスのハートは粉々だ!



「私はただ、外を……この世界を眺めていただけです。なにも問題が起きないのならば、それでよし。起きているならば、そしてそれに私の力が必要ならば、出ていく。その為に控えているだけのことです」

「……そう、なんだ」



 うーん、かたっくるしい空気だ。


 それにしても、控えている、か。


 いつから控えてるんだろ、この子。



「もしかして朝から晩までここにいたりして」

「暮らしていますから」

「…………」



 聞き間違いであろう。



「もしかして朝から晩までここにいたりして」

「……」

「リアクションを頂戴!?」



 ちょ、ちょっと、リアクションないといっそ真実味が出てきちゃうじゃん!



「ま、まさかマジでこんなとこで暮らしてるの?」

「ええ」



 あっさりと小夜が頷く。



「生活感もなにもないけど!?」

「生活に必要な物資は収納空間にありますし、調理や入浴などは近くの設備で済ませます。前者ならば家庭科部の部室で。後者ならば湯めぐり部の部室で借りることができますので。その他も、いかようにでも」

「……」



 この学園マジ便利。


 つかあとで湯めぐり部は行っておこう。部室とかに何種類も温泉があったりするのだろうか。



「で、でもエログッズとかは!?」

「……必要ないでしょう」

「ええっ!?」



 MA☆JI☆DE!?



「……ところで、いい加減出て行ってくれませんか?」

「へ?」



 小夜が私の事を見つめる。


 ああん、そんな見つめられたら照れちゃう!



「わずらわしいのですが」

「わずっ!?」



 ダイレクトに言われちゃったよ!?


 うわあ、自覚ちょっとあるけど美少女に言われるとダメージでけえ。



「……うん」



 しょぼーんとしながら、私は小夜に背中を向けた。


 ちらりと後ろを見ると、すでに小夜は私を見ていなかった。


 うわあ……これは悲しい。


 ……つか、さ。


 なんだろ。


 部屋の中を見回す。


 ここに、朝から晩まで、かあ。


 なんかそれって……寂しくないのかな?


 少なくとも私なら、絶対にノーサンキューなんだけど。



「あの……」

「なんですか?」

「……時々、遊びに来てもいい?」



 出来るだけ小動物オーラを出しながら尋ねる。


 果たしてそんなオーラを出せていたかは定かではない。



「……」



 再三、小夜が溜息を吐く。



「だ、駄目だよね。ごめん、変なこと聞いて」

「……別に、この部屋は部員以外立ち入り禁止、などという規則はありません。もちろんそれを推奨するわけでもありませんが、特別、私にはあなたの行動を止める権利はない」

「……お?」



 それってつまり……オッケーってこと、だよね?


 おお!


 美少女の部屋にいつでも来ていいって許可もらったどー!



「お茶もお菓子も出ませんし、面白い話相手もいませんが」

「別にいいよ! それに、面白い面白くないじゃないでしょ!」



 小夜みたいな女の子がいるんだよ?



「小夜と話せるなら、それはけっこう嬉しいことじゃない?」

「……そうですか」



 小夜は私を見なかった。



「それじゃ、また来るね!」

「……」



 返事はなかった。


 よし、決めた。


 第一目標。出ていく時に小夜に「またね」って言われよう!



「嬉しい……?」



 そっと、自分の掌を見る。



「……馬鹿なのでしょうか、あの人は。こんな私と?」




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