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その出会いはっ!

 意識がいきなり切り換わる。


 ……おろ?


 ここは、どこだろ。


 辺りを見回すと、果てが見えないくらい大きな草原にぼんやり突っ立っていた。なにこれ孤高の旅人設定とか思ったけれど、別に孤高願望はないのでそれは却下。


 やっぱりお友達とキャッキャウフフするのがいーよ。うん。


 ちなみに果てが見えないと先程申しましたが実は遠くの方に街が見えてたりします。嘘ついてごめんねっ。


 いやまあ街が見えるっていうのが嘘っていうのもまた嘘であり、つまり本当にあるわけだけれど。


 とりあえず、あれだね。


 私は無事、学園世界とやらに到着したっぽい。



「……なんだ」



 ちょっと拍子抜け。


 てっきりこういう時はテンプレ的に空から落下するものとばかり思っていたのに。まあ、どうやらチート能力の付加はされなかったらしいのでそんなことされたら死んじゃうけど。



「とりあえず、あの街を目指せばいいのかな?」



 今のところ人がいそうなのはあそこくらいだし、行くしかないだろう。


 それともまさかここで、街とは正反対の方向に行くと言う冒険ルートを歩んじゃうつもりですか?


 それもいいかもしれない。でも十中八九それは難易度エクストリームなので止めておこう。


 ごめんね、テンション高くって!


 誰に謝ってるんだろ私。


 普通に街に向かおう。


 草原を歩きだす。超、緑臭い。


 都会っ子に自然は最早毒だね。


 歩きながら、これからのことを考える。


 ここは異世界だ。自分の身の振り方くらい考えないと、これから先苦労することは明らか。


 私は人生ベリーベリーイージーがいいからね。こういうところは念入りに行くぜ。


 まず第一に、自分の身分。


 とりあえずこの世界はあの神様っぽい人が言うにはここは有能な人間をいろんな世界から集めたところらしい。


 であれば、まあ私も外の世界からウェルカムしまった、って告白しても平気だよね。


 これが神様の手違いで殺害からの転生モノの異世界ならそういうことを下手にこぼすのは危険だけれど、ここじゃあそれがスタンダードなわけだし。


 街についたら『新入りの棘ヶ峰DEATH☆』って言えばいいか。少なくとも即座に首ちょんぱということはないだろう。


 首ちょんぱとか懐かしい言葉だなあ。


 私が最初に作る必殺技は首ちょんぱにしよう、とか馬鹿なことを考える。いやしないけどね?


 さて……それで私は何を考えていたんだったかな。


 いけないねえ最近物忘れがひどくって。寄る年波には勝てませんよ。まだぴちぴち十代じゃ私は!


 十代のオツムが思い出す。私が考えていたのは――そう!


 あの街についたら、どうするか、だ。


 ででん!


 よし思い出したぜ!


 この世界は魔術とかの才能がある人を集めてるわけで、しかも名前が学園世界っていうくらいだから、まあ学園はあるだろうねえ。


 私はそこに入ってスタディすればいいわけか。


 嫌だなあ勉強。


 でもまあ魔術の勉強なら構わないか。数学とか英語とかはないよね?


 あったら暴動を起こしてやる。


 学習をするとして私はかなり強くなれるらしーですがー、実際どのくらいのことなら出来るんだろ。


 そもそも他の人はどのくらいなんだろ?


 まだ、平均的な数値すら知らないからなあ。


 ようはこの世界についての常識を学ぶまでは何にも出来ないってことか。


 早くあの街行かないとなあ。


 走るか。


 走って、背中に「僕達の旅はまだまだ終わらない!」とか書いておくか。うは、それなんて打ち切り。


 私がいる時点で打ち切りなんて二十年はないね! いやごめん調子乗った今のところスルーでヨロ。



「……にしても、遠いなあ」



 街まで行くの面倒臭い。これ日が暮れるんじゃないだろうか。


 異世界の草原で、夜一人ぼっち。


 なにその展開すげえロマン感じるようで感じない。


 モンスターとかいて、襲われたら……ぐふふ濡れてきちまうぜ。おっと下品発言は自重。


 そもそもモンスターに襲われて誰が濡れるんだ馬鹿野郎!


 私の初めてはそう簡単にはくれてやらねえぜ?


 ……くだらないこと考えてるなあ、私。


 こういう時間が大好き!


 あ、どうでもいいですか。そうですか。


 いじけちゃうぞ! 謝れ!


 謝罪はない。ただの一人ぼっちのようだ。


 そうだよ私は寂しい人間だよぅ!


 その場で蹲る、のコマンドを選択。私はこのターンずっと蹲っているぜ。



「……どしたの?」

「話しかけねぇでくれ。私はこうして蹲らなくちゃいけねえんんだ!」

「……そっか。てっきり新入りさんかと思ったけど、違うのかな?」



 新入り?



「オイラは生粋の江戸っ子だぜぃ!」



 もち嘘。



「へえ……」



 ……あれ?


 私ぁ、一体誰と喋ってるんだ?


 顔を上げる。


 そして……見た。


 黒くて長い髪をサイドポニーにまとめた、もう信じられんくらい可愛い美少女を。



「お嬢さんお名前を聞いても?」



 おっと思わず私の紳士タイム。



「え? ナユタだけど」

「ナユタさん。ああ、素敵なお名前ですね。よかったら結婚を前提にお付き合いをしましょう」

「この世界、同性婚アリだから、それ冗談じゃ済まなくなるよ?」

「……おおう、マジですか」



 同性婚ありとは、なかなかやるじゃねえか。



「本当に結婚、する?」



 にこり、と。彼女が私に笑いかけてくる。


 効果は抜群だ!



「いいんすか?」

「だが断る」



 はうぁああああああああああああああああ!


 大ダメージ、私は倒れた!


 そんな笑顔でなんてエグいことしやがる。


 ちくしょう。


 騙されちまったぜ。


 だが、そこに痺れる憧れるぅ!



「で、実際あなたは新入りさんじゃないの? 私、街であなたのこと見た覚えがないんだけれど」

「新入りです」

「やっぱりね」



 彼女が苦笑する。



「ええと、ちなみに、ナユタ……さん?」

「ナユタでいいよ」



 それでは改めて。



「ナユタ。街って、あれのことだよね?」

「うん。この世界でただ一つある街」



 へー、そうなんだ。



「で、その人口はいかほどなんですか?」

「五十六万人くらいかな」



 五十六万とな!?



「街で私のこと見た覚えがないって、それ当然じゃないの?」



 それくらいいたら、そりゃ知らない人くらいいるでしょ。



「いやあ、私は学園世界にいる大体の人の顔、知ってるよ?」

「なんとな!?」



 あなたはどんな記憶力をお持ちになっているんですか。



「まあいいでしょ、そんなことは。それより、街まで案内しようか?」

「お願いしてもいいの?」

「うん……あ、でもその前に」



 ナユタが私の背後を指さした。


 うん?



「あれ、始末しなくちゃいけないんだよねえ」



 あれって、なに?


 振り返る。


 ……?



「なんもないけど?」

「いや、あれ、あれ」



 そんなこと言われても……。


 とか思っていると――。




 バキン!




 空が割れた。



「……へ?」



 窓硝子割れる感じ。


 でもそれよりも派手で、意味不明。


 だって空が割れるとか、ないでしょ。


 割れた空が崩れて、その向こうから何か、黒い空間が覗く。


 見るだけでちょっと吐き気がする。



「なに、あれ」



 流石の私も状況についていけない。



「んー、なんていうか、空間の歪みとでも言えばいいかなあ。とりあえず、気をつけてね」



 ナユタがそう言った、次の瞬間。


 鼓膜が痛くなるくらいに甲高くて大きな音が鳴り響いた。



「っ……!」

「うるさいなあ」



 ナユタは、言葉の割りには随分と涼しげな顔をしていた。


 黒い空間から、何かが地面に落ちてきた。


 割れた空が徐々に閉じて行く。


 地面に落ちたのは……なにあれ。


 巨大、だった。


 基本的な形でいえば……人間。


 けれどその脚は関節が逆になっていて、胴は異様に長く、背中からは無数の腕のような器官が生えていた。さらに頭には数え切れない眼球がついていて、口には鋭い牙がぞろりと並んでいる。前進は鉛色の殻のようなもので覆われている。


 化物。


 まさにそう表現すべきもの。


 プレッシャーに、思わず膝が折れた。


 ……ちょっと待った。


 不愉快になる。


 なに私、膝を折っちゃってるんですか?


 ないわあ。


 プレッシャーで膝を折る?


 この私が?


 プライドに傷が入る。


 いつでも飄々と人生適当に生きる。


 それがこの緋色ちゃんだよ?


 なのにさ……これは違うでしょ。


 気圧されるのはさあ、飄々としてないよ。


 こりゃあ私じゃないって。


 折れた膝を、立たせる。



「お?」



 ナユタが驚いたように私を見た。



「すごいね、あれを前に普通に立ってられるなんて」

「余裕ですとも」



 腕まで組んで、余裕アピール。


 ふふん、どうだ。


 マジもう指一本も動かせないんだぜ。



「なんていうか、見どころあるねえ」

「見どころだらけの棘ヶ峰緋色と有名ですよ」

「へえ、そうなんだ」



 笑い、ナユタが私の前に立つ。


 化物の眼球が、一斉にナユタを捉えた。



「ちょっと、これ逃げた方がいいんじゃない?」

「ノンノンノン! これ倒すのが私への依頼だからね。アイリスとか臣護さんとかと争って勝ちとった貴重なSランクの依頼を逃す手はないね。そうでしょ、ソウ?」

「ええ」



 不意に、背後から声。


 私の横を通り過ぎて、誰かがナユタの隣に立った。


 黒い髪をなびかせた、チャイナドレスっぽい服装の少女。


 ナユタが今呼んだソウとは、彼女のことだろう。


 いつの間にいたんだろう。


 っていうか、あの……この人なんか背中に変な形した金色の輪っかが浮かんでるんですけど。


 ちょっと翼っぽい形。


 なかなか素敵なアクセサリー。私も是非一つ欲しいところだ。



「私のことは構わないので、ナユタ。お一人でどうぞ」

「そう? じゃ、そうさせてもらうよ」



 轟、と風が舞い上がった。


 それと共に、見えない、何か、そう……違和感のようなものが吹き荒れる。



「じゃあ緋色。ちょっと待っててね」

「え……あ、おっけ」



 思わず答える。


 ナユタが地面を蹴った。


 空高くまで……それこそ飛んでいると表現できるだけの高さまで、ナユタは跳びあがった。


 ちょっ、マジっすか。



「それじゃあ、異世界の破壊神さん。来ていきなりでちょっと悪いんだけど……退場願うよ」



 ナユタの声が、異様によく響く。



「まずはその気味の悪い腕から、かな?」



 刹那。


 ――化物の背中から生えた腕が全て千切れ飛んだ。


 化物の悲鳴。



「な……っ」



 今、なにが……。



「少しくらいは抵抗して見せたら?」



 空が赤く染まった。


 は……?


 見上げれば、青かった空は炎で覆われていた。


 その炎が蠢き、一ヶ所に――ナユタの頭上に収束していく。


 出来たのは、太陽を思わせる炎の塊。


 その熱は、離れている私の肌でも感じ取れた。



「さて、と……これで終わるか、終わらないか」



 ナユタが呟いて、腕を振るった。


 動きに合わせて、炎塊が化物目がけて落下する。


 空気が蒸発していく。


 常軌を逸したその灼熱を前に、化物が口を大きく開く。それこそ、裂けるほどに。


 口の中に、紫色の光が灯った。


 かとおもうと、それは爆発的に巨大化し……放たれる。


 一条の光線。


 それは……炎を貫き、霧散させた。



「へえ」



 ナユタの感心するような声。


 ――そんな感心とかしてる場合じゃないと思うけど?


 光線は炎を貫通して、ナユタに向かっている。


 あんな出鱈目な炎を貫く威力だ。


 そんなのが命中したら……。



「ナユタ!」

「んー、なに?」



 けれどナユタは……平然としていた。


 光線は、ナユタの掌に受け止められたのだ。


 ……はあ?


 いやいやいや。


 あんたそれ、ちょ、待っ……。


 え、マジっすか?



「……どんだけー」

「世界の一つ二つ滅ぼす程度の攻撃くらい受け止められなくてどうするのさ」



 ナユタが微笑する。


 えー?


 なにそれチート?


 バグキャラっすか。



「まあ、くすぐったかったよ、破壊神。お返しにちょっとだけ本気見せてあげる」



 ナユタが私にウィンクしてくる。



「それと、緋色も見ておきなよ。自分で言うのもなんだけど、私これでも学園でもかなり上位の実力者なんだから、今後の参考までにね」



 学園で、上位?


 えっと……それはとんでもないこと、なんですよね?


 よく分からないけれど、とりあえず凄いことだけは分かった。


 ナユタが右手を前に突き出す。


 するとその指先から、光の粒子が出た。


 違う。


 出てるんじゃない。


 ナユタの右手が、先から光の粒子に変わってるんだ……!


 そのまま肩口までが光の粒子になって溶ける――かと思うと。


 粒子が集まり、ナユタの右腕が再びその姿を取り戻す。


 ……でも、再構築前と違うところが、一つ。


 ナユタの右腕が、ゆったりとした黒い袖に覆われていた。


 まるで、着物の腕の部分だけつけた感じ。


 ひらりと、袖が舞う。


 それに合わせるように、ナユタの背後の空間が歪んだ。


 歪みの中から、何かが突き出す。


 それは……槍。


 黒い槍だ。


 でも普通ではない。


 そのサイズが。


 優に百メートルは越えているであろう。


 恐ろしい大きさの、黒い槍。


 なんぞこれ。


 驚く私を傍目に、ナユタが腕を振り上げる。


 槍が穂先を化物に向けた。


 化物の身体が震える。


 怯えているのだ。


 あんな異形の怪物が。


 あんな一人の少女に。


 化物が、再度光線を放つ。


 けれどナユタに届く前に、光線は霧散してしまう。



「じゃあね」



 言葉はそれだけ。


 ナユタが腕を振り下ろす。


 槍が加速した。


 目で追い切れない。


 音がした。


 生々しい轟音。


 見れば、化物の身体を黒い槍が突き刺していた。


 槍が脈動する。


 そして……化物の身体が弾け飛ぶ。


 紫色の血液と肉片が雨のように降り注いだ。


 それは、私がいるところだけ避けて地面を濡らしていく。


 なんとなく、ソウって人が何かをしているのだと直感した。



「よし」



 空では、ナユタが可憐な笑顔を浮かべる。



「それじゃ、帰ろうか。ソウ。それに、緋色」



 なんというか、ねえ。


 紫の雨が降り注ぐ中笑う彼女を、私は……。


 なんでか、綺麗だな、って思っちゃったんですよ。



というわけで連載開始です!

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