ミッションはっ!
上位竜種百体。これがなんのことか、分かるかなっ?
シンキングターンム。
うんたんうんたん!
お前に足りないもの!
それは以下略、そしてなによりぃっ!
――以下略!
はいシンキングタイム終了!
皆、分かったかな!
ようし、正解発表だ!
正解は……私が最初に受けたミッションの討伐対象でした!
「……って」
拳を握りしめる。
私は青空を飛んでいた。
音速の二十三倍で。
「ちょっと待てぇええええええええええええええええ!」
その速度のまま、思いきり目の前にいたサファイヤで出来ているかのような綺麗な巨躯をぶんなぐる。
巨躯が一瞬で塵になった。
上位竜種……それも世界が世界ならば勇者が倒す魔王以上、つまり裏ボス的強さを持った存在である。
それが、私を囲むように百体近く飛行していた。
「なんでいきなり、こんなハードモードなんですかぁああああああああああ!?」
「……?」
そこで首を傾げないでください、茉莉さん。
茉莉はなに一つ気負う様子もなく、ぼんやりと空を飛んでいた。
今絶賛戦闘中ですけど!?
それでいいんですかねえ!?
「……ハード?」
「そりゃもう!」
言いながら、竜を二体殴り殺す。
つか武器! なにか武器が欲しいとです!
「……イージーモード」
「いやなにが!?」
もしかしてこの状況のこと?
いやいやいや。
「どこがイージーですか!」
叫び、巨大な魔力の刃を生み出して竜を十体程度まとめて切断する。
「やっぱり、イージー」
「どこをどう見ればイージーだと!?」
「もう半分くらい減ってるあたり」
「へ?」
言われて、私は周りを見回した。
ええと……あれ?
最初と比べると、なんか竜の数が減ったような……。
「緋色が喋りながら倒してた」
「え?」
マジで?
自覚ないんだけど……もしかして無意識のうちに結構やっちゃってた?
ハードモードだと思ってたのって、竜百匹っていう情報が頭にきて目がくらんでただけ?
そういや、さっきから竜を素手で消し飛ばしたりしている気がしなくもない。
あと攻撃くらってもオートで防御出来ちゃっている気が……。
あれ?
もしかしてこれ、ほんとにイージーモード?
「緋色は強いから、この百倍は数がいても問題ない」
「そりゃ言いすぎでしょ!」
†
「おはよーございまーす」
茉莉とともに、私は教務課を訪れていた。
もちろんミッションを受けてお金稼ぎをするためだ。
カウンターには臣護先生の奥さんである悠希さんが眠そうな顔で仮想モニタをいじっていた。
私に気付いて悠希さんが仮想モニタを消す。
「あ、緋色じゃない。どうしたの?」
「いや、ちょっち労働しようかと」
「ああ……」
それだけで悠希さんには伝わったようだった。
「それなら、はい」
私の前に仮想モニタが現れる。
そのモニタに細かな文字が大量に浮かび、上に流れていく。
「今あるあんたが受けられるミッションはそれだけよ」
……それだけ、って軽く千はありますよね?
おおう、この中からミッションを探せ、と。
「ええ、と……討伐的な分類のだけって見れます?」
「早速討伐? 自信家なのね」
にやりと悠希さんが笑う。
「いやあ、まあ、一応軽く戦うことなら出来るんで……手っ取り早そうですしね」
「ふうん……茉莉は同行するの?」
悠希さんが茉莉に問う。
「……」
茉莉が小さく頷いた。
「そ。なら最高ランクまでの討伐系を受けられるわね」
「ん、どういうことですか?」
最高ランクって……。
「学園の生徒は全員ランク付けがされてるの。FからSランクまでの七つでね。緋色は今、最低ランクのFで大したものは受けられないけれど、Sランクの茉莉が同行するならそっちに合わせて高ランクのミッションも受けられるわ」
「へえ」
「で、どれにする?」
目の前に仮想モニタにミッションがずらりと表示される。
うーん……。
ぶっちゃけ、どれがどれだか分からないんだけど。
「茉莉、なにか手頃なのない?」
「……なら」
茉莉が横から仮想モニタを操作する。
そして、一つのミッションを選択した。
「それを受注するのね?」
悠希さんがどこか呆れたような顔をする。
……あ、なんかやばい予感がしてきた。
「ちょ、茉莉、待っ」
「……」
私の制止も聞かず、茉莉が頷いてしまう。
「それじゃ、このミッションをあんた達二人に任せるわ。内容は、ここから少し離れた所に巨大な巣を作った上位竜種約百匹の討伐。よろしくね」
「へ?」
上位竜種?
「ええと……響きからして凶悪な感じなのですが、上位竜種とはなんでしょうか?」
おそるおそる尋ねる。
にっこりと悠希さんが笑う。
背筋に寒気がはしる。
「それはね――」
そして、私は上位竜種の強さを聞いて絶望することになった。
†
……んだけど。
「案外いけるわー」
腕を振るう。
魔力の暴風が竜の一体に襲いかかり、その巨躯がミキサーにかけられたように粉々になる。
よくよく考えたら、私って大陸殲滅魔術とか使えるし、裏ボスだろうがなんだろうが問題なさげなんだっけか。
……あの学園の授業見てから、自分の能力を過小評価していたらしい。
そうだよね、大陸殲滅とか、けっこう凄いよね?
私ちょっとくらい自信持ってもいい感じだよね?
少なくともRPGゲームなら間違いなくバランスブレイカーになれる感じだよねえ?
「……ちなみに茉莉、これってランクはなんだっけ?」
「……B」
あー、これでBなんだ。
裏ボスみたいな強さのやつが百匹でB。
うん、この世界で裏ボスなんてそんなものなのか。
仕方ないな!
仕方ないって思っちゃうところが仕方ないな!
仕方ないって思っちゃうところが仕方ないなって思っちゃうところが以下エンドレス。
「よっ、と」
魔力を掌の中に圧縮すると、そこに黒いなにかが発生する。
高密度の魔力によって、ありとあらゆるものを消滅させる概念が生み出されているのだ。
それを砲撃のように放ち、竜三体を消滅させる。
ううむ。
残り二十体か。
ようし、頑張るかね!
とか思っていたら、今まで静かにしていた茉莉が動いた。
「見てたらちょっと、身体を動かしたくなった」
茉莉が私を見る。
「残り、もらっていい?」
「え、あ、そりゃあもちろんいいけど……」
次の瞬間。
茉莉が竜の一体の尻尾を掴み、他の竜にその竜を投げつけた。
ぐしゃり、という音がして潰れた血肉が落下していく。
ひょ?
さらに、茉莉の姿が消えて、直後なにが起きたのか、突如竜が数体水風船のように破裂した。
虚空から黒い光線が雨のように降り注ぎ竜をまとめて薙ぎ払って行く。
残りの竜は、一体。
ほんの数瞬のことだった。
それだけで、あれだけいた竜が一体を覗いて殲滅される。
おいおい。
そんなの、あり?
残り一体の竜の前に、茉莉がいた。
竜が咆哮をあげ、茉莉に向けて口から白い炎を吐きだす。
逃げることはできないと、悟ったのだろう。
茉莉は動かない。
ただ、その右手がゆっくりと持ちあがる。
白い炎が茉莉を包む。
だが、その炎の中で茉莉は微動だにせず、服を焦がすこともなく、浮かんでいた。
竜の瞳に、わけのわからないものを目の前にした恐怖の色が浮かぶ。
「――」
茉莉の口が、動く。
……なにか呟いた?
刹那。
なにかが起きた。
黒い暴風が吹き荒れる。
「っ……!」
恐怖が私の心を塗りあげた。
なに、これ……!?
暴風が私の視界を遮る。
少しして、暴風が収まる。
開けた視界の中……それこでは……・
竜は消え、茉莉が変わりなく浮かんでいた。
「……終わり」
茉莉の身体から、光の粒子がこぼれる。
「……なにしたの?」
「……すぐに緋色も分かる」
「え?」
「緋色は、どうありたい?」
「……それ、どういうこと?」
「ううん、なんでもない」
……ええと?
「…………とりあえず、帰る?」
考えても答えは出なさそうだったので、そう提案する。
「……」
茉莉が頷いた。