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我が家はっ!

「おおっ、ここが我が城!」



 転位を駆使して辿りついた自宅に入り、私は畳みの匂いを目一杯吸いこんだ。


 うへー、いいわー。


 これいいわー。


 いいわー。


 大切なことなので三度言いました。


 いいわー。


 そして四回目。



「うーん、ほんとにここでよかったの、緋色」



 ナユタが部屋の入り口に立って、不思議そうに言う。



「ナユタはこの部屋の素晴らしさがわからんかねー」



 にやにや笑いながら私は畳みの上にダイブして、ごろごろと転がる。


 いいわー。


 もうなんていうか、興奮するわー。


 畳の匂いってなんかいやらしい!


 ……え、そんなことない?


 そんなことあるんだよっ! 私の中じゃな!


 まあ適当に言ったけど!


 てへっ。



「ま、緋色が満足してるならいいけどね」



 ナユタが微笑む。


 うーん、相変わらず可愛らしい笑顔だことで。



「とりあえず最低限の家具は用意してあるようですね」



 ソウが部屋の中を覗いて言う。


 確かに、机とかタンスとかはあるし、布団も部屋の隅のたたんである。


 これなら、本当に最低限ではあるけれど、生活するのに問題はないかな?



「どうする? なんならもうしばらくうちにいてもいいけど?」

「んー」



 ナユタの提案に、ちょっと悩む。


 ぶっちゃけ、魅力的だよなあ。その提案。


 美少女の家にころがりこめるなんてそれなんてエロゲ?


 ……まあでも、実際にそこまで世話かけるのもどうかと思う。


 こうして家まで用意できたわけだし、ここらで強がり一つくらいしておいたほうが恰好がつくだろう。


 さすがに甘えてばかりというわけにもいかないし。


 うん、決めた。



「いいよ。とりあえず一人暮らししてみる。お金は、明日にでもギルドの仕事を受けてみる。それでまとまった金が出来たらいろいろ買い物してみようかな」



 さすがに最低限のものだけあればいい、なんて言う程女捨ててないしねー。


 それなりに部屋の内装には気をつけたいところだ。


 実はアロマとかが趣味だったりするのだぜ?


 今意外と思ったどこかの誰かをぶっとばそう。


 ……ごほん!


 いかんいかん、電波を受信してしまった。


 他にも下着とか、見につける物も用意しなきゃだし。



「そっか……それじゃ、その買い物には付き合わせてよ?」

「お、いいの?」

「うん、その辺りも少しなら案内はできるから」

「そりゃありがたい」



 その時は是非とも試着室でナユタのことを襲――ごほん!



「とりあえず、緋色。学生証出して?」

「うん?」



 言われて学生証を出す。


 すると、ナユタも学生証を取り出し、私のそれに重ねてきた。


 青い光が学生証から発せられた。


 光はすぐにおさまる。



「……なにしたの?」



 学生証に、一見して変化は起きていない。



「ま、ちょっとばかり餞別として、食費をね」

「え」



 ナユタがウィンクする。


 って、ちょっとちょっと。



「私はヒモになるつもりはないよ?」

「無期限無利子で貸すだけだよ」

「えー」



 それはなんというか……。



「受け取って置いてください。ナユタの好意なのですから」



 ソウにそう言われちゃあこれ以上はなにも言えないじゃないか。



「それじゃあ、ありがたく」

「うん。ま、緋色ならすぐに自立できるから、返済はすぐだろうねえ」

「地味にプレッシャーを……」



 この学園の授業を覗いたら、もう全然そういう自信がなくなったんですけど。



「ふふっ、頑張れ、緋色」

「……そりゃまあ、頑張るけど」



 ナユタが身を翻す。



「それじゃ、そのうち遊びにくるね」

「おーう、来い来い」



 ていうか来てください。


 やっぱり分からないこととかいろいろあるしねえ。


 立ち上がって、ナユタに小さく手を振る。


 ナユタが手を振り返してくれた。


 ソウが先に部屋から出ていく。



「じゃね」

「うん」



 ナユタが部屋を出て扉にてをかける。



「……うーん」

「あれ、どうかした?」

「うん? うーん、まあ一応言っておこうかと思ってね」

「……?」



 言うって、なにをだろうか。



「ねえ、緋色」

「なんでしょ?」

「……強くなってね」

「は?」



 いきなり、なにを言いだすのだろうか。



「あの人達だけじゃ……きっと足りないから。私達じゃ、届かないから。だから、緋色にお願いさせて」

「……?」



 ええと、よく分からないんだけど?


 なにを言われているのだろう、私は。



「……ふふっ」



 ナユタが微笑む。


 その笑みが、どことなく寂しそうに見えた。



「お角違いなのは、分かってるけど……なんでだろうね。緋色は、あの人とおなじ匂いがする」

「に、匂い?」



 なんのこっちゃ。



「期待しちゃうよ、緋色。別にいいよね?」

「え……あの?」



 ばたん、と。


 扉が閉じた。



「……ええ?」



 えっと、つまりどういうこと?


 まるで分からないんですけど……。


 う、ううん?


 あー……まあ、考えても分からないんだし、置いておくか。


 ぶっちゃけ、不穏な空気を感じるけど、それも置いておこう。


 いまはまず、この異世界生活を楽しもう。


 ……楽しめたら、いいなあ。


 え、これフラグ?



 緋色と分かれたあと、私は校舎の中をあるいていた。


 向かう先は、理事の一人……総合技術クラスの最高責任者の部屋。


 その部屋の扉の前に立って、深呼吸を一つする。



「大丈夫ですか?」



 隣のソウが声を賭けてくれた。



「……うん」



 あの人に会うのは、ちょっと緊張するけどね。


 扉をノックする。



「入りなさい」



 扉の向こうから聞こえた声に従い、部屋にはいる。


 中は、ツクハさんの部屋と同じような感じ。


 ただツクハさんのところより、幾分か堅苦しい空気が流れていた。


 それはこの部屋の主のせいだろう。



「……珍しく、呼び出しに応じたのね?」

「今日は機嫌がよかったからね」



 机に座ったその人が、私を見つめた。


 金色の髪が揺れる。


 ウル=バルカングローヴ。


 それが、この人の名前。



「ふうん? なら、そのご機嫌ついでにいい加減、教えて欲しいのよね」



 私の事を、鋭い視線が貫く。



「あなたの生みの親の居場所……吐いてくれない?」

「駄目」



 即答する。


 他のどんな質問にも応えていいけれど、それだけは、教えられない。



「……いい加減、力づくという手も考えた方がいいかしら?」

「どうぞ? 私はどれだけぼこぼこにされても、言わないから」

「……あなたという子は」



 深い溜息を吐かれた。


 と、ソウが私の前に立つ。



「ソウ?」

「……これ以上は無駄とご理解ください」



 不意にソウの手の中に金色の粒子がうまれ、それが漆黒の剣を形作る。


 なにもかもを塗り潰すような、美しい黒。


 黒い剣尖が持ちあがる。



「――私に刃を向けるの?」

「ナユタの障害は斬り伏せろ、という使命を受けていますので」

「敵うとでも?」

「いいえ。ですが、あなたがこのようなところで愚かしく力を振るうとは考えていません」

「……やな性格ね」

「それほどでも」



 ソウの口元に小さな笑みが浮かぶ。



「それでは私達はこれで」



 ソウの手の中から剣が消える。


 そのまま、ソウに促されるように私は部屋の扉を開く。



「……ナユタ」



 声をかけられて、止まる。



「《顕現》は使えるようになった?」



 どことなく、意地の悪い瞳が私を見ていた。


 ……ふん。



「それなら、六つできるから大丈夫だよ」



「それを《顕現》と呼べないと、いつになったら気付くのかしら……あの子は」



 ナユタ達が出て言ってからしばらくして、そう呟く。


 すると、扉が開かれた。


 入ってきたのは……、



「アリーゼ。ノックくらいしたら?」

「そう堅いことを言うな。ナユタがここに来たと聞いてな……もう帰ったか」

「ええ」

「そうか」



 アリーゼが少し残念そうな顔をする。


 まったく……甘いわね。



「それで、聞き出せたか?」

「出来たと思う?」

「……その顔を見て分かったよ」

「ふん」



 長い付き合いだし、わざわざ言葉にするまでもない、か。



「なんていうか……ぶっちゃけ、あいつといちゃいちゃしたい気分だわ」

「また堂々と言うものだな」

「今更言葉を飾ったりしないわよ」

「……ふ」



 アリーゼが小さく笑う。



「しかし……ナユタが早く教えてくれないと、私達としても困ってしまう」

「そうね……」



 溜息を吐く。


 最近、溜息の回数が増えてきた気がする。



「……そういえば、聞いたか?」

「んー?」

「新しく特別クラスに所属した少女は、あいつに招かれた、という話だ」

「へ?」



 ちょっと……なにそれ。初耳なんだけど。


 あいつの招きって……。



「……ええ!?」



 思わず大声をあげてしまう。



「そう驚くな」

「驚くわよ!」

「まあ、それもそうか。わざわざあいつが、だしな」

「なに考えてるのあいつ!」

「さて」



 アリーゼが苦笑する。



「あいつの考えることなど、私達に分かるわけないだろう? 知りたいなら、直接聞くしかないだろう」

「……あー」



 そりゃそうか。


 身体から力が抜ける。



「……まったく……いろいろありすぎよ」




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