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三姉妹はっ!


「へえ、緋色は特別クラスなんだ」



 スイが少しだけ驚いたように目を開いた。


 その片手は、アイリスの手を掴んでいた。


 気絶しているアイリスの手を。


 アイリスは当然自分で歩くことなど出来ず、ずるずるとひきずられている。


 私達が歩いているのは、校舎の廊下。


 廊下を気絶した長女が三女に引きずられていく。


 なんていうか、シュールな光景だ。



「ね、ねえスイ。その……アイリス姉さんのこと、せめて肩に担いであげない?」



 エレナがおずおずとそう提案する。


 なんていうか、雰囲気通りの優しい人みたいだ。


 長女が活発……って言うか戦闘狂で、次女が優しくて、三女が……サド?


 なんともバリエーションに富んだ姉妹である。



「嫌よ。どうして私がそんなことしなきゃならないの。それならエレナ姉さんが担げば?」

「え、やだ。面倒くさいでしょ?」



 けろりとエレナがのたまう。


 ……どうやらエレナは優しい顔して面倒くさがり屋の隠れしのようだ。


 たち悪い。


「ん?」



 そんな私の考えを読みとったように、エレナが私を見て、にこりと微笑んだ。


 ぞくりと背中が冷える。


 ……あ。この人、逆らっちゃ駄目な部類だ。


 オーケー把握。



「エレナ様はお綺麗ですねえ」



 とりあえずあからさまな媚を売ってみた。



「ふふっ、呼び捨てでいいよ。私も、緋色って呼ぶから」

「私とこの馬鹿姉も呼び捨てでいいわよ」

「分かった」



 どうやらフランクなところは姉妹共通らしい。


 いや、一人気絶してるけどね?



「にしても、新入りが特別クラスってのも、異例よね」

「そうみたいだねー」



 なんか編入試験とか例外でやらされたし。


 いやあ、あれはいつ思い出しても鬼畜だったな。



「緋色って、強いんですか?」

「さあ、どうだろ?」



 エレナに問われ、首を傾げる。


 ぶっちゃけ、いろんな授業を見学して、自信は欠片もなくなってしまった。


 この学校怖いYO。



「緋色は強いよ」



 すると、ナユタがそう言った。



「へえ、ナユタが言うんだ?」



 スイが興味深そうな顔をする。



「な、なに?」

「いや。アイリスじゃないけど、ちょっと興味があるな、と」

「あ、私も」

「いやいやいや!」



 首を大きく横に振るう。



「そんな興味の持たれ方はしたくありません!」



 私なんてこれっぽちも強くないっすよ?


 もうね、ミジンコだよゾウリムシだよアオミドロだよアッパッパーだよ。



「だいたい強さで言うなら同じクラスなんだし、この学園にいた時間が多いんだし、皆のほうが強いんじゃない?」



 ナユタも異界の破壊神とやらを粉砕玉砕大喝采してたし。


 全員がそのレベルだとしたら、私なんてまだまだだ。



「ぶっちゃけ、私達はほら、親の影響が大きいのよ」



 スイがそんなことを言う。



「親の?」

「そうですね……私達姉妹も、ナユタも、もう一人の特別クラスの……愛奈っていうんですけど、彼女も……全員、親の資質を遺伝して、その上周りが強い人達ばかりという環境で育ったので、自然と……俗に言う、サラブレットというやつですね」



 ほほう。


 彼女らの親ってのは一体どんな人達なのかね?


 興味あるけど……まあそこは今回は置いておこう。


 それを聞くほどまだ親しくなってないしねー。


 ほら。まだまだ「娘さんを私にください!」イベントまではフラグが足りないし。



「緋色は別に両親が特別ってわけじゃないよね」



 ナユタの言葉に頷く。


 私の両親は普通の日本人だ。


 ちょっと愉快な性格をしているけれど、そこは間違いない。



「普通の人間が特別クラスに上ってくるってのはねえ……ちょっと、凄いわよ?」

「そうなんだ」



 なんだか私、凄いらしいです。


 ……ふうん。


 いや、まあぶっちゃけ……それが、って話なんだけど。


 だって別にだからって女の子にもてるわけでもないしねえ……今だってこうしてきゃいのきゃいのしてられるのは珍獣扱いされてるだけだろうし。


 うう、鬱だ。


 どうせなら「この子……私の運命の人!?」くらいの反応はしてくれたっていいじゃねえかよ。


 三姉妹丼とかいいじゃねえかよー。


 駄目?


 そっか、駄目か。


 その道理、私の無理でこじ開ける!


 こじ開ける!


 大切で卑猥っぽいことなので二回言いました。えへん。


 ……こほん。


 くだらねえこと考えすぎちまったぜい。



「ま、そのうち機会があったら腕試しに一本やりましょ」



 にやりとスイが笑う。



「あ、私も」



 エレナさんそこは面倒くさがってください。



「もちろんわたしもだ!」



 びしっ、と手があがった。


 アイリスだった。


 あ、目を覚ましたんだ。



「って、ここはどこだ?」



 きょろきょろとスイにひきずられながらアイリスが周りを見回す。



「目を覚ましたの、馬鹿姉?」

「おお、スイ。お前はどうしてわたしの腕を引っ張っているのだ?」

「あんたが馬鹿だからよ」



 溜息をついて、スイがアイリスの手を離す。



「うぐ」



 アイリスが床に落ちた。



「なにをする」



 しかし次の瞬間アイリスは立ち上がっている。


 いつ立ちやがりましたかこいつ。


 その動作一つ一つが常識超越するの勘弁してくんね?


 そのうちあれだろ?


 あたし散歩してくるねっ! きらっ!


 とか言いながら光速で星間を飛行しちゃったりするんだろ?


 ……本気でやりそうだからこいつら怖ぇな。



「馬鹿姉も起きたことだし、私達はそろそろ帰るわ。この後、ちょっと用事あるし」



 スイがそう言う。



「あ、そうなんだ。それじゃ、またね」

「ええ」

「はい」

「……うん? ああ」



 アイリスはなにがなんだかわからないようだった。


 そりゃずっと気絶してたしねえ。



「緋色っす」



 一応、最後に自己紹介くらいしてあげるか。



「む。わたしはアイリスだ。よろしく頼む」

「うん。じゃあね」

「ああ」



 そして、三姉妹は颯爽と姿を消した。


 消した。


 消したのだ。文字通り。


 かき消えたのだ。


 しつこいようだがもう一度言う。


 消えたんだって。


 ……転送の魔術が発動した気配とかはなかった。


 化物か。


 やっぱりあの三姉妹は敵にまわしちゃいけない。


 そう心に誓う。



「ところで、ナユタ」

「うん?」



 私は隣のナユタを見る。



「私達は、どこに向かってるんだい?」

「あ、言ってなかったっけ?」

「言ってませんね」



 ソウが冷静につっこむ。



「あはは、ごめんごめん」

「いやべつにいいんだけど」



 案内されてる身だしね。



「これから、緋色の住居を探しに行くのです」

「私の、住所?」

「はい」



 あー。まあそうだよね。


 いつまでもナユタの家にお世話になっているわけにもいかないし。



「でも私、金とか持ってないんだけど?」

「基本的に学園世界では家賃などはありません。空き部屋があれば、好きに入居できます」

「まじか」



 なにその夢世界。



「まあ食費などは必要なので、そのうち稼ぐ必要はあるでしょうが」

「稼ぐって、どうやるの?」

「ギルド――というのは通称で、教務科で任務を受ければ」

「任務?」



 首を傾げる。


 ギルドの任務。


 まあ、ニュアンスとしては分かるけどね。



「学園世界は、この学園の外に多くの魔物が存在します。大抵は、それを決められた数討伐する、というものですね。他にも他の世界に行って様々な課題をクリアしたり、時には先日の異界の破壊神襲来のような緊急の任務があることもあります」

「ふむふむ」



 なんていうか……つまりお決まりな感じってことですね。



「緋色ならすぐにお金稼げるよ」

「そう?」



 ナユタがそう言ってくれるなら、ちょっと安心かな。


 まあ、なんとかなるでしょ。


 気楽に構えておこう。



「とりあえず、住居を決めてから。それから今後の事は決めようよ」

「そだね」



 というわけで、私達は再び歩き出した。



「ところで、住居ってどこで探せるの?」

「それも教務課で探せるよ」



 ほう。


 どうやら教務課ってのは、この学園の中心のようなものらしい。


 どんな場所なのかなー。




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