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最後のクラスはっ!

「次のクラスは……攻撃魔術クラスなんだけど……気をつけてね?」

「へ?」



 廊下を歩きながら、ナユタがそんなことを言いだした。



「気を付けろ、とは?」

「うーん。まあ聞いて分かるだろうけど、攻撃魔術クラスって、他のクラスよりもずっと攻撃的なことを学ぶんだよね」

「そりゃ、そうでしょ」

「つまりだよ。他のクラスのことを思い出して?」

「うん?」



 そう言うのでしたら思い出そうじゃありませんか。


 むむむ。


 うむ。


 どれもこれもまともじゃねえな!


 特殊技能クラスは比較的まともだったけど、先生がちょっとな!


 悪いわけじゃねえけどとにかく怖いんだわ!



「えっと、思い出したけど?」

「攻撃魔術クラスはね、他のクラスよりずっと実戦に重きを置いてるわけですよ」

「ほう。実践に、ね」

「うん。実戦に」



 ふと、ナユタと私の言葉の間に違和感のようなものを覚えた。


 ――え、いや、もしかして実践じゃなくて、実戦?


 これまでのクラスもずいぶんと実践的な授業をしていたような気がするのですが……。


 その上をいく、実戦的ですか?


 ほほう。


 ほほぉぅ。


 ……うし。



「じゃ、私帰るから!」



 ナユタにびしっと片手を上げて、私は逃げ――、



「させないよ」



 ナユタに襟首を掴まれた。



「うぐ」



 咽喉が締めつけられて奇妙な声を出しちまったぜ。


 乙女なのに!


 これじゃあもうお嫁さんにいけない!


 仕方ない。



「ナユタ、私をお嫁さんに貰って!」

「え……別にいいけど?」



 ナユタがあっさりとそう返してきた。


 ちょっ、マジっすか。


 あっはっはっ。



「……からかわねえでくだせえ」



 そういう返し、ちょっと痛いぜ。


 自分の発言が元はと言えば悪いんだけどな!


 自業自得かよ。おおぅ。



「別にからかっては……」

「いいんだ。それ以上はいわないで」



 それ以上からかわれたら立ち直れなくなっちゃうゾ。



「……」



 おや、どうしたんですかそんな不満気な顔をして。


 はっ。ま、まさかもっと私をからかいたかった!?


 なんてドSなんだ!


 油断できないわこの子!


 ナユタ、恐ろしい子っ。



「……じゃ、攻撃魔術クラスに入るとしよっか! 大丈夫、特別安全な先生のところにしとくから!」



 なんだろう今のナユタの笑顔が怖い。


 本当に安全な先生なんでしょうか?


 きっと違う。


 そんな気がした。


 ずるずると襟首を引っ張られて、私は廊下をドナドナされる。


 そのまま、一つの扉の前に辿りついた。


 ナユタが迷いなくその扉に手を駆けた。


 もうどうにでもなればいいよ!



 結論から言おう。


 ああ、確かに特別安全な先生かもしれない。


 戦闘は、なかった。


 ううん、違う。


 より正確に言えば……。




 戦闘と呼べるほどのものは、起きていなかった。




 とりあえず箇条書きに説明してやろう。


 黒い岩で作られた巨大な闘技場のような教室に入った。


 そこには生徒達と一人の男性が相対していた。


 生徒達が男性に一斉に襲いかかった。その際に感じた魔力は合わせれば軽く世界くらい破壊できてしまいそうな馬鹿げたもの。


 その男性が剣を振るった。


 生徒達が一斉に吹き飛ばされ、意識を失って地面に転がった。


 以上。


 ……うん。


 私、一つ学習した。


 平和って……圧倒的武力の別の呼び名だったんだ。


 うふふ。


 あはは。


 ……はっ。


 やべえあまりの衝撃に軽く精神がとんでた。


 つうかね、つうかね、もう一つ言わせてよ!


 あの人……ライスケ先生と同じ匂いがするんだ。


 怖ぇよ!


 男性が私の方に歩み寄ってくる。


 プレッシャーがマジパネェ。わらわら。



「……」



 軽く膝が折れそうなんすけど……。



「久しぶり……というほどでもないか。よう、ナユタ」

「こんにちは、臣護さん」



 にこりとナユタが微笑む。


 おおぅ、ナユタの笑顔は私のものなの!


 うちの子には金輪際近づかないでくださいまし、泥棒猫!


 とか怖くて言えない私のチキンっぷりに全米が泣いた。



「ソウも、元気そうだな」

「お陰さまで」



 ぺこりとソウが頭を下げる。



「それで、そっちのは……見覚えがないな」

「うん。新入りさんだよ。特別クラス所属になった、棘ヶ峰緋色。緋色、この人は攻撃魔術科の嶋搗臣護さん」

「よろしく頼む」



 臣護先生が私に手を差し出して来る。


 私は……もう手なんて動かせなかった。物理的に。


 身体が硬直しちゃってるんですよ。


 これが金縛りか……恐ろしいもんだぜ。



「どうした?」

「あー、臣護さんの異質っぷりに気圧されてるんだよ。ライスケさんのとこもそうだったから」

「……へえ。分かるのか?」



 臣護先生がにやりと笑う。


 ひぃいいいいいい!?


 こ、殺される!


 ――次の瞬間、臣護先生の纏う恐ろしい気配が消えた。



「おろ?」



 身体が軽くなる。



「さっすが臣護さん。猫かぶりが上手い。ライスケさんもこのくらい猫かぶりが上手ければよかったのに」

「猫かぶりって……お前な」



 小さく溜息をついて、臣護先生が再び私に手を出しだしてくる。



「あ、ども」



 今度はしっかり握手出来た。


 恐ろしさは感じない。



「嶋搗臣護だ。暇な時があればいつでも来い。模擬戦の相手くらいは片手間にしてやる」



 わーお、堂々「てめぇなんざ片手間で十分なんだよ」発言ですね。


 そしてきっとその自信相応の力は持ってるんだろうなあ。


 だってさっきのあの攻撃……まるでなにをしたのか分からなかったし。


 なんていうのかな。


 攻撃そのものが感知出来なかった、とかじゃない。


 そもそも攻撃なんてあったのか? ってレベル。


 言うなれば……存在しない攻撃?


 うーん、なんとも厨二ですな。



「にしても、またいつになく厳しいねー。これ、授業にならないんじゃない?」

「俺の授業は、どれだけ自分が弱いかを自覚させるだけだ。強くなるのは、それぞれが勝手に修練を積めばいい」

「スパルタだ」

「強さなんて、そんなものだ」



 臣護先生が溜息をついて、倒れている生徒達を見つめた。



「さてと。医務室に送るか」



 臣護先生が手を振ると、生徒達の身体が淡い光に包まれて、消えた。


 医務室とやらに転送でもされたのだろう。


 こんなとこまで便利だなあ。



「それにしても……いきなり特別クラスで、俺やライスケのことを感じ取るか……興味あるな」

「あれー、臣護さん、浮気? 奥さんに殺されちゃうよ?」



 ナユタの言葉に臣護先生が苦笑する。



「冗談じゃないからやめろ。お前が前に一度冗談で俺と女子生徒が……って話した時、俺がどんな目にあったか知ってるか?」

「それだけ愛されてるってことでしょ? さすが万年ラブラブ夫婦」



 臣護先生、奥さんいるんだ。


 見かけ、私よりもちょっと年上くらいにしか見えないのに。


 ……きっとこれだけ凄い人の奥さんだから、美人なんだろうなあ、とか偏見全開で内心感想をこぼす。


 そのうち遭ってみたいかも。


 この小難しそうな臣護先生が奥さんにデレデレしたりするのだろうか?


 それはちょっと……いやかなり面白そうだ。


 とかそういうことを考えちまったせいなのでしょうか。



「そうだ。緋色、お前ちょっと俺と戦ってみるか?」

「さよなら!」



 満面の笑顔で私は別れを告げた。


 ちげえよ!?


 そんなフラグ立ててねえよ!?


 せいぜい「なんか変なこと考えてないか?」って言われる程度のフラグしか立ててねえから!



「まあそういうな。ほら、こいよ」



 臣護先生が剣を抜く。


 ひぁあああああああああ!


 ちょ、おまっ、ぶばあっ!


 意味分からない電気信号が頭の中を駆け巡る。


 無理無理無理死ぬ死ぬ死ぬ!


 殺される!



「助けてナユタン!」

「がんばれー」



 ナユタンはいつのまにか私から離れて手を振っていた。



「ふぁっ!?」



 ま、まだだ!


 まだ私にはソウ様が……!



「頑張ってください。死なないように」



 ソウまで離れた所に移動していた。



「神は死んだ」

「校長は生きてるだろう」



 そうじゃねえんです。


 そもそも私はあんなクソジ……クソジジイが神なんて認めねえ!


 言い直そうとしたけど、やっぱりやめた。



「さて、それじゃあ早速――」



 臣護先生の剣から、膨大な魔力を感じた。


 うん。


 諸行無常ってやつですね。


 盛者必衰なんですね。


 泣けるぜ。へへっ。


 私が生の世界への別れを告げようとした……刹那。



「臣護さぁああああああああああああん!」



 教室のドアが勢いよく開かれ、そこから黒い光が臣護先生に襲いかかった。



「今日こそ仕留めさせて貰うぞ!」



 黒い光の中に、人影があった。


 黒い髪を鬢のところだけ長く伸ばした女の子だ。


 黒い光は、彼女の身体から溢れだしているようだった。


 彼女が腕を振るう。



「アイリスか……」



 溜息をついて、臣護先生が女の子――アイリスというらしい――を見上げ、剣を振り上げた。


 すると、黒い光が消し飛ぶ。



「くっ!?」



 アイリスの身体が衝撃で大きく空に飛ばされる。



「まだまだだな」



 臣護先生のその言葉と同時。


 黒い槌が、アイリスの身体を地面にたたき落とした。



「って、ちょぉおおおおおおおおおおおおお!?」



 今落下速度やばかったんじゃね?


 音軽く超えてたんじゃね!?


 ていうか地面にクレーターがががが!


 あの子死んだ!?


 舞い上がった土煙が晴れていく。


 そこには……クレーターの底で目を回すアイリスの姿が合った。



「きゅぅ」



 すげえ、生きてる!



「アイリス!」



 と、ドアからさらに新しい影が二つ、現れた。



「へ……?」



 ちょっと驚く。


 その二人の顔は、アイリスによく似ていた。



「姉さん……まったく、だから勝てないって言ったのに」

「アイリス! また無謀なことして!」



 目つきや髪形が違うからいいものの、同じだったらきっと見分けが簡単にはつけられない。


 きっと姉妹なのだろう、と予測するのはそう難しいことではなかった。



「アイリスの妹二人だよ。あっちの優しい目つきの、セミロングのほうが三姉妹の次女のエレナ。鋭い目つきのツインテールが、三女のスイ」



 いつの間にか隣にいたナユタが教えてくれた。



「ちなみに三人とも特別クラス」

「へえ……」



 三人姉妹が三人とも特別クラスとは、また凄い。



「どうしてあのアイリスって子は臣護先生に?」

「アイリスは戦闘狂だから。基本強い人見かけたら喧嘩をふっかけるんだよ」

「それは……」



 なんて傍迷惑な。



「緋色も気をつけたほうがいいよ?」

「そうする」



 頷いて、私はナユタを見つめた。



「どうしたの?」

「ねえ、ナユタ……さっき私の事を見捨てたよね?」



 アイリスが現れて誤魔化されると思ったら大間違いだよ?



「なんのこと?」



 すっとぼけて、ナユタが笑う。


 ……ちくしょう。


 かわいいからゆるしちゃうぞ!



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