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最終競技は!


「なん、だと……?」



 ――その時、衝撃走る。



「そんなバカな」



 場を沈黙が支配していた。


 誰も、信じられなかった。


 第一回戦。血みどろの鉢巻奪い合い。


 第二回戦。カップル同士の潰し合い。


 そしてこの第三回戦。


 いったいどんな過酷な競技がくるのか。


 そう身構えていた。


 だが、これはあんまりだ。


 競技名……『ドキッ! 皆に愛を見せつけて! 二人の絆は絶対だから!』。


 内容はいたってシンプル。


 いちゃついて観客による採点の結果で判定。


 ……うん。


 分かる。


 皆の言いたいことが分かるよ。


 《真想》なんて使わなくても手に取るように分かるよ。


 そしてそんな自虐ネタを使うくらいに動揺しているよ。


 まあつまり、なにが言いたいかってことだけど……。




 ここにきて普通に普通のカップル向け競技きたぁああああああああ!?




 ちょっと待てぇえええええ!


 運営がなにを考えているのかまるで分らない!


 どういうことだってばよ!


 てっきりもっとなにか、こう、えげつないものが来ると思っていたのに!


 蓋を開けてみたらびっくりだよ!



「す、スイ……」

「……大丈夫よ、緋色」



 スイが私にうなずいて見せる。



「私達、ここまで来たのよ? こんなの、どうってことないわ」

「っ、そ、そうだよね!」



 そうだ。


 なにがいちゃいちゃだ!


 ああ、いいぜ。


 いちゃいちゃしてやんよぉおおおお!



 ……。


 え?


 えぇええええええええええええええええ!?


 緋色といちゃいちゃしろって?


 それを観客に見せつけろって!?


 そ、そんなの……。


 あ、わ……ど、どど、どうしよう。


 なんか緋色にはそれっぽいこと言っちゃって後戻りもできないし。


 うわ……うわぁっ!?


 やばいやばいやばい――!



 第一組。


 ソウとナユタ。


 さて、この二人はどんないちゃいちゃを見せてくれるのでしょうか。


 緋色ちゃんは今からワクワクが止まりません。



「……どうするのですか、ナユタ」

「うーん」



 ステージに上った二人の会話が、ステージ袖にいる私には聞こえていた。



「とりあえずキスでもしておく?」



 がたっ!


 なんだって!?


 キス!?


 ベーゼ!?


 口づけ!?


 ナユタの唇がソウの唇に……はうわぁっ!?



「お断りします」



 呆れたようにソウがため息をつく。



「このくらいでいいでしょう、どうせ優勝などする気はないのでしょうし」



 そういって、ソウがナユタの腕を引いた。



「わっ」



 ソウになすがままにされて、ナユタは彼女の腕の中に抱かれた。


 そして、ソウはナユタの体重を膝にのせるような形で支え、くっつきそうなくらい顔と顔を近づける。


 手と手はしっかりと握りあわされている。


 ただ、それだけ。


 それだけなのに、あの二人がやるとひどく絵になった。


 きっとこれをこのまま絵にしたら、金額なんてつけられなくなる。


 そう思える光景だった。


 気づけば、会場は拍手に包まれていた。


 ……すごい。


 動きひとつで、皆を魅了しちゃった。



「ソウってば、意外とやるね」

「あの主の傍にいましたから」



 ソウとナユタが微かに笑いあう。


 ……む。


 なんだろ。


 なんか、面白くないなあ。



 二組目。


 アイリスとエレナの姉妹チーム。


 これもまた注目だ。



「あの二人ねえ」



 隣ではスイも興味深そうに二人を見つめていた。


 さて、なにをするのやら。


 そう思った次の瞬間、アイリスとエレナのいるステージの上に白煙がのぼった。


 なにこれ……?


 そう思った次の瞬間、煙が晴れて二人の姿が見えた。


 そして目を見開く。


 アイリスが髪をまとめあげタキシードを着て、エレナは豪華なドレスを着ていた。


 まるで王子様とお姫様みたいに……。


 そして二人は軽く腰を折ると、お互いの手をとり……踊りだした。


 それは、派手でもなければ速いわけでもない、


 ゆったりとした動きの舞踏。


 けれどそれに、誰もが見入っていた。


 どれくらいの時間、二人は踊っていただろう。


 本当に時間を忘れるとはこのことか。


 ダンスを終えた二人が再び腰を折る。


 爆音のような拍手が、会場を満たした。



 三組目。


 茉莉、オリーブの同じ身体ペア。


 ステージに茉莉が立つ。


 彼女は、黒いシンプルなドレスを纏っていた。


 その手には、一本のマイク。


 って、マイク?


 え?


 まさか……。


 そう思っていると、会場の四隅から赤い炎がゆっくりと燃え上がった。


 それはまるで螺旋を描くように、空に向かって絡まり合い、のぼっていく。


 火の粉は金色に輝きあたりへと降り注いでいた。


 幻想的な光景の中、茉莉が口を開く。



「――――……」



 紡がれた、繊細な声は、まさに芸術だった。


 伴奏も、なにもない。


 声だけで、それは完成していた。


 悲しみを思うように、過去を振り返るように、あるいは穏やかな日々を、茉莉は歌う。


 自然と涙がこぼれる……そんな歌だった。


 けれど、次の瞬間。


 茉莉がオリーブに代わる。


 瞬時にドレスが赤く染まった。


 そして……。



「――――!」



 今までとまるで違う、明日への期待や全力で駆け抜ける毎日、何事にも立ち向かう勇気をオリーブは歌った。


 激しい調子ではない。


 詞が特別なわけではない。


 ただ、震える。


 熱いものが胸の奥でたぎる。


 なにかができる、そう思えてくるような歌だった。


 そして歌は再び茉莉へと切り替わり……。


 最後、冷静と情熱に揺れたライブは、喝采とともに幕を閉じた。



「ス、スイ! 想定外だよ皆すごいんだけど!」



 てっきり普通にいちゃいちゃバカップルっぷりでも見せて終わりかと思ったのに!


 なんか特技披露とか、そんな感じになってきちゃってるんだけど!



「だ、大丈夫よ! きっと大丈夫、落ち着きなさい、緋色!」



 そういうスイもたいがいだと、ちょっと思った。



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