対戦相手はっ!
というわけで、二回戦は当たり前のように通過した私達。
第三回戦は、残った十一組による競技らしい。
これで優勝が決定するようだ。
「さて、行きましょうか緋色」
待合室の椅子に静かに座っていたスイが立ち上がる。
「うん」
実は私達はほかの組のことはなにも知らない。
自分たち以外の時は待合室にこもりっぱなしで、ほかの組の結果などはまったく見ていないのだ。
まあ相手が誰だろうと勝つしね。そんなのいちいち見るまでもねーってことですわ。
うっへっへっ。
「よし、勝とうね、スイ!」
「あ……」
スイの手を握る。
「……ええ、もちろんよ」
†
そしてステージに出た私達を待ち受けるのは、ほかの九組。
「え?」
「は?」
私とスイの声がかぶる。
だって……いやいや待とうよ。
これどういうこと?
ステージの上にいたのは……見知った顔ばっかりだった。
一組目。ナユタとソウ。
二組目。アイリスとエレナ。
三組目。茉莉。
四組目。ツクハと小夜。
五組目。佳耶さんとリリーさん。
六組目。臣護さんと悠希さん。
七組目。ツィルフさんとナワエさん。
八組目。ナンナさんとティナさん。
九組目。シドウと葵。
十組目。人気コメディー番組『武ッ血切裏シスターズ~親友キャラの娘だって頑張れるもん!~』でおなじみ、リセちゃんと皆見アキナちゃん。
最後が私こと緋色とスイのペアでございます。
やばいツッコミどころが多すぎてツッコミきれそうにない!
どうしよう!
くっ。
ダメだ緋色ここであきらめてどうする!
立ち向かえ。
どれだけ辛い現実だって、逃げない。
この私の前に立ちふさがるものは全部乗り越えてやる。
飄々と、悠然と。
膝はおらない。
背中は見せない。
それが私、棘ヶ峰緋色っていう人間だろう!
「なんでナユタとソウが!」
必殺!
《とりあえず十番に問い詰めていこうぜ》発☆動!
「え、いやー、なんとなく?」
「なんとなくって……」
「まあ参加は自由なんだし、いてもおかしくはないでしょ?」
「そりゃまあ……」
すると、なにかソウがため息をこぼしていた。
「どうしたの、ソウ?」
「いえ……ただ、ナユタも少しは自覚や素直さを知るべきかと、そう思っただけです」
「え?」
「何言ってるのさ、ソウ。わけわかんないよ?」
「そうですね、なんでもありません」
……よし。
とりあえずこれで第一の敵撃破!
続いて……。
「アイリスとエレナは!?」
「いえ、姉さん二人が参加するのなら、と」
「え……」
「おいエレナ」
アイリスが咎めるような目をエレナに向ける。
「いいではありませんか」
エレナがほほ笑む。
「ちゃっかり二人でデートしていたことへの、あてつけみたいなものですよ。ねえ、スイ?」
「……!」
なにかスイが一歩後ずさったんだが、なにがあったんだ?
とりあえずあれだ。
いまのエレナの発言から推測するに、これは……。
「嫉妬?」
「さあ、どうでしょう?」
にっこりとエレナが笑む。
わお、意味深な笑顔ですね。
「エレナー、好きだー!」
とりあえず抱き着こう。
――としたら。
「あんたはなにしてるのよ。今は私のパートナーなんでしょ」
「うぐっ」
襟首をスイにつかまれた。
「はぁい」
残念無念。
でも……。
「スイがパートナーって言ってくれた緋色ちゃんすげえうれしい!」
代わりにスイに抱き着く。
「ちょっ!?」
あれ?
なんかスイが固まったんだけど。
……軽く頬を叩く。
反応がない。
ただの屍の……なわけないか。
とりあえずこれは、放置でいいのかな?
うん……じゃあ次。
「茉莉……もういろいろ言いたいけどとりあえずあなたはなぜに一人なのですか!」
「一人じゃない」
「はい?」
その時、茉莉の髪がまとめられた。
雰囲気が変わる。
つまり……。
「オリーブ……」
「私と茉莉、身体は一つでも二人なのだから、このイベントへの参加資格は満たしているでしょう?」
にやりとオリーブが笑う。
「でも、いけないわね緋色」
「え、なにが?」
自然な動きでオリーブが私に近づいてきた。
そしてその手が、私の顎をつかむ。
「え……あ、あの?」
「デートなら、私を誘いなさい」
「へ……?」
「いいわね?」
「ええと……」
「なにしてるのかしらね!」
その時、私とオリーブの間にいつのまにか硬直のとけたスイが割り込む。
「……やれやれ」
オリーブが肩をすくめた。
「緋色、次はちゃんと私を誘うのよ?」
言って、オリーブの髪がほどける。
雰囲気が茉莉に戻った。
「……そういうこと」
「あ、はい」
……うん。
なんだったんだ、一体。
……次いこう。
テンションあげてくぜ!
「ツクハと小夜は!」
「この人に無理矢理連れてこられました」
小夜がつかれた様子でツクハさんを指さす。
「私だって少しは学園祭を楽しみたかったし。それに、緋色とスイがこういうイベントで優勝するのはなんだか癪だし」
「……なんで?」
「なんでって……緋色、あなたね」
あれ、なんであきれられてるの?
「まあいいや。とりあえず緋色、次がどんな競技かは知らないけど、あなた達には勝たせないから、そのつもりでね」
「あ、それなら話は分かりやすいね」
最初からそう言ってくれればいいのに。
「でも私達も負けないし……ね、スイ」
「ええ、当たり前でしょ」
「ということだから」
ツクハに自信満々に笑って見せる。
「ふふっ、まあ後悔させてあげるよ……抜け駆けしたこととか」
「ん、なんか言った?」
「なんでもない、お互い頑張ろうか、緋色」
「うん!」
ツクハと握手を交わす。
さて次。
佳耶さんとリリーさん。
「……これは触れるまでもないか」
「こらこらこら」
がしっと佳耶さんに肩をつかまれた。
「なんでスルーするのさっ!」
「だって明らかに普通に普通のカップルが参加してるだけじゃないですかー」
「だからってスルーはなんかいやだ!」
なんてわがままな人なんだろう、佳耶さん。
「わがままな佳耶もいいわ」
あとリリーさんなにはぁはぁしてるんですか?
「まあ私達としてはあれだよね、緋色にも興味あるけど、それより茉莉とオリーブの方にも興味が――」
「はい次次ー」
「あれぇ!?」
臣護さんと悠希さん。
……うん。
「はいスルー」
「…………またあの人達は……いい歳なんだからもう衆目の面前でいちゃいちゃするのは……」
なんか小夜が肩を落として呟いてるけどそれもスルー!
そんでもって次ツィルフ、ナワエコンビ!
おっとコンビという響きがここまで似合う二人も珍しい。
この二人はカップルというよりもお笑いコンビだ!
「なんでそうなるねん!」
「あなたのせいでしょう」
「うげごぶっ」
おおっとツィルフの上半身が消し飛んだ!
大丈夫なのか!?
なんと、吹き飛んだところから炎に包まれるようにしてツィルフが再生していく!
なんということ!
これではツッコミし放題ではないか!
「とりあえず参加理由などは?」
「ツィルフが懇願するので仕方なく」
ナワエさんが深いため息をつく。
「大変ですね」
「ええ」
「ちょっ、ナワエちゃんだって結構興味――フッバグェップ」
今度は唐竹割!
縦に真っ二つだ!
これぞ種も仕掛けもない人体切断マジックだ!
というわけで次!
ナンナさんティナさんペア!
なぜ理事がこんなところに出てきているのか!
「暇だったし」
「暇でしたから」
仕事は!?
ねえ、仕事は!?
つか理事長も参加してるし!
この学園大丈夫なのかよ!
「まあほら、雑用は部下にやらせとけばいいじゃん?」
ナンナさんがにっこり笑う。
「やめてあげようよ!」
かわいそすぎる!
……ごほん。
気を取り直して。
シドウと葵カップル!
あの、特別クラスに喧嘩を売った猛者達の中の二人!
この二人は――。
……あ、やっべ。
もうこれでもかってくらい普通に学生男女のカップルだ。
シドウが少し堅物っぽくって葵が物腰柔らかってくらいしか特徴ないわ。
「……頑張れ二人とも!」
「うむ、そちらも」
「頑張りましょうね」
普通にいい二人だ。
ベストを尽くそうぜ!
……そして来た。
来ましたよ。
ええ。
『武ッ血切裏シスターズ~親友キャラの娘だって頑張れるもん!~』の、リセちゃんアキナちゃん!
えぇえええええええええええええええ!
テレビの中の人がなんの脈絡もなく出てきたけど、いいのこれ!
ねえ、いいの!?
いいか!
「すみません!」
「うにゅ?」
「んー、どうしたのかにゃー?」
ああっ、ぼーっとしたリセちゃんにふわふわしたアキナちゃん!
マジものだよ! マジものの武ッ血切裏シスターズだよ!
「ファンです、サインください!」
「お、マジかー。いいよいいよー、今はあれだけど、後でなら」
こころよくアキナちゃんがオッケーしてくれる。
「マジっすか!」
「ファンは、大事だもんねー」
ああ、リセちゃん首がすわってない!
こてんこてんこてんこてんって首が左右に揺れてるよ。
そんなとこもカワイイ!
――というわけで。
「よっちゃとりあえず全組ツッコンだったぜぇええええええ!」
緋色ちゃんのツッコミレベルがあがった!
一応言っておくが、シモの話じゃないよ。ズコンバコンのほうじゃないからね!