兵器はっ!
ただっ広い金属で覆われた空間に私は立っている。
天井も四方の壁も見えないくらいに広い場所だ。
言うまでもないだろうが、総合技術クラスとやらの教室だ……教室でいいのだろうか?
まあ、教室ということにしておこう。
「おや、ナユタ殿。珍しいですな」
「お久しぶり、オルデットさん」
一列に整列した生徒の前に経っていた優しげな表情の杖をついたおじいさんが、教室に入ってきたナユタを見て笑顔になる。
おおう、なんか今回はまともな人だ。
「話は聞いておりますよ。そちらが例の新入りさんですかな?」
「あ……はい」
どうやらこの人は私の事を知っているらしい。
「私は総合技術クラスで教師をしている、オルデットと申します。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に」
オルデット先生が頭を下げたので、私もオルデット先生より十二度ほど深くお辞儀する。
「というわけで、見学させてもらっていい?」
「ええ、もちろん」
……よし。
このおじいさんはいい人だ!
性格的にも私の精神衛生に対しても、いい人だ!
そう決めた!
というかそうであれ!
そうじゃなきゃもう嫌だ!
流石にこんなおじいちゃんまでガレオ先生とか佳耶先生みたいにめちゃくちゃな感じではないだろう。
「それでは、授業を続けさせてもらいます」
「どうぞどうぞ」
「どうぞどうぞ」
ナユタと一緒にオルデット先生を促す。
あー、なんだろ。この授業はちょっと楽しみ。
総合技術って言うだけあって生徒の人達もなんかインテリっぽいし。
危ないこととかはなさそう。
「それでは、昨日の課題だった人型戦闘兵器を」
オルデット先生の口からなんだか恐ろしげな単語が飛び出した。
ええと……うん?
ヒトガタセントウヘイキ?
人型。人の形ってことっすね。
戦闘。戦う、もしくは戦う目的の、ってことっすね。
兵器。もう兵器は兵器でいいじゃねえっすか。
つまり、人の形をした戦うことを目的とする兵器。
うん!
つまりガン○ムとかアーマード・○アとかのことっすか。
おっけ!
つまりこういうことだ。
デンジャーだね!
いきなり危険の匂いがしてきたぜ!
こういう時は、あれだ!
次話、こうご期待!
――あ、続く?
ですよね。
これでこのパート飛ばせねえかな、って思ったんですが、ふふ。現実、そんな甘いもんじゃなかったか。
地面が震えた。
おおう、なんだなんだ!?
見て見て、唖然。
とある生徒の背後に、巨大な鋼色の巨人が立っていた。
……うん。
まさに人型戦闘兵器だねっ。
きゃー、すごーい。
とりあえずなんか肩からでけえ砲身が生えてるのは何でですかー?
あ、戦闘目的の兵器だもんね。そりゃ攻撃手段の一つ二つ持ってるか。
すると、その人型戦闘兵器の横の空間が歪み、巨大な一本の黒い腕が突き出した。
そのまま、ゆっくりと空間の歪みの中からそれが姿を表す。
当然というか、それもやっぱり人型戦闘兵器なわけで……それは、腕だけが異様な厚みを持った、それ以外が骨のような形をしたものだった。
アンバランスさが不気味だ。
さらに、次々と空間から人型戦闘兵器が現れる。
あるものは棒人間を思わせる細いシルエットを持ち、またあるものは戦車をそのまま積み重ねたのかと聞きたくなるようなごついものもあった。大きさも普通の人間サイズから全長が十メートルほどありそうなものまで、様々だった。
うん。
最高にやばい光景なんだ。
中には明らかに大量虐殺を目的に作られたんじゃないか、っていう凶悪なフォルムのもあってさ……この授業、これからどうなるのだろう。
品評会とか、そういうのじゃないかな。
そしたらほら、おいおいテメェこんな不吉そうなロボ作るんじゃねえよアハハ、ってな感じで皆でわいわい出来るじゃないですか。
「ふむ、皆ちゃんと作って来たようじゃな。短い製作時間で御苦労じゃったのう」
そういえば、これ昨日の課題とか言ってたよね?
……え、これ一晩で作ったんすか!?
ぱねえっすよ総合技術クラス!
「ではこれより、実戦テストを行う」
オルデットせんせええええええええええええええええええええええ!?
だから私そういうのよくないと思うの!
もっと平和な授業を私に見せて!
なんて私の心の叫びを無視して、オルデットさんが地面を杖でつつく。
すると、オルデット先生の背後の空間が、深紅に裂けた。
そう、真っ二つに。扉が開くみたいに裂けたのだ。
その向こうから、一つの巨大な人型が現れる。
深紅が閉じて、その機体の姿がはっきりと浮かび上がる。
全身のいたるところから剣を生やした、赤い機体だった。
まるで獣の唸り声のような重低音が響く。
とんでもない威圧感があった。
一目でそれがただの機械でないことが分かる。
「神殺し、だよ」
横でナユタがそう言った。
「神殺し?」
「神すら殺す威力を持った兵器群の総称です」
ソウが補足してくれた。
神すら殺すって……。
つまり、とんでもない、ってことだよね。
そんなもん授業で出さないでくださいよ……。
「では右の者から……まずは火力の審査じゃ」
オルデット先生の言葉に、一番右端にいる生徒の背後の人型戦闘兵器が動いた。
その右手に持っている巨大な銃を持ちあげ、神殺しとかいうのに向かって音もなく一瞬にして無数の銃弾を放つ。
あの銃弾、とんでもない量の魔力が込められてる。
多分、一発でも小さな島一つくらいなら消し飛ばせるのではないだろうか。
「ふむ」
オルデット先生が顎を撫でる。
神殺しが鋭い爪を振るった。
放たれた弾丸が、最初からなかったかのように消し飛ぶ。
……あの、なにが起きたのか私でも分からなかったんですが。
背筋に冷たいものが伝う。
「では次、機動性と強度の審査じゃ」
オルデット先生が杖で地面を叩く。
すると、神殺しが両腕を地面に付けた。
神殺しの背中から生えた無数の剣から赤い火花が生まれる。
ゆっくりと、神殺しの頭にあたる部分が開いて行く。
開いた頭の中から、一つの砲身が伸びる。
砲身を、赤い光が包んだ。
それを合図にしたように、先程銃弾をばらまいた機体が一瞬で向きを百八十度回転させる。
機体の背中のブースターらしき部分から赤い炎が噴き出した。
そのまま、音よりも早い速度で機体が飛んだ。
文字通り、飛んだのだ。
そうして機体がはるか彼方……視認できないほど遠くへと消える。
その時、神殺しの砲身が爆発した。
――爆発したかのように、赤い光を溢れさせたのだ。
巨大な赤い光が、さっきの機体の後を追って空間を裂く。
その速度たるや、音など比べようもない。
光に迫るのでは、というほどだった。
結果は言うまでもない。
遠く、闇に包まれて見えない場所に、小さな赤い光が生まれる。
光の正体が何なのかは考えるまでもないだろう。
直後、熱いと感じるほどの暴風が私達の身体を打った。
「では次の者」
オルデット先生が視線を次の生徒とその背後に向ける。
私は静かにナユタとソウの肩を掴んだ。
「緋色?」
不思議そうな顔をするナユタに私は笑顔を浮かべる。
その後?
もちろん。
即座に教室から逃げだしましたよ。
「この学校には、平和な授業はないのかああああああああああああああああああああああ!」
「え、あるよ?」
「あるの!?」
「うん。でもそんなの見てもつまらないかな、って思って実践主義の先生のところを回ってたんだけど……まずかった?」
ナユタ……あんたが犯人なのか。