ちちんぷいぷい
「もうおうちに帰るよ!」
「「やだ、もっと遊ぶ!」」
先程から何度繰り返していることか。
公園で遊ぶ三歳の陽太と二歳の健二はヒーローになりきっていて、帰りたいとはちっとも思っていない。
イライラして吐いた深いため息の先には、四ケ月の華が抱っこ紐の中でぐずり始めていた。私は笑顔であやす気持ちにもなれず、とりあえず華の背中をトントンしながら、夢中で走る兄弟をぼうっと視界に入れた。
夫の育児休暇が終了して三か月。休暇のしわ寄せで多忙な夫には仕事に専念させてあげたいと、私は一人で懸命に家事と育児をこなしてきた。幼子三人との一日は目まぐるしく、自分の時間なんてない。
正直、もうクタクタだった。
しかし先日、見兼ねた夫が手伝うよと言ってくれたとき、私は空元気を出して断ってしまった。夫に心配をかけたくなかったのだ。
「ママ!」と呼ぶ泣き声で我に返った。
見ると転んだ健二が膝を抱えて泣いていた。幸い怪我はないようだ。
私はなぐさめに行こうとしたが、足が重くてすぐには動けなかった。
先に駆け付けた陽太が私を振り返った。
「ママの代わりに、僕が健二におまじないしてあげる!」
(陽太が? 私の代わりに……?)
かしこまった陽太は一本指を作って両腕をぐるぐると回し始めた。まるでヒーローの変身ポーズだ。
「ちちんぷいぷいの~プイ!」
声と同時に、自分の顔と指先を泣き顔の健二にぐいと近づけた。兄の突飛で愉快な行動に、健二は目をぱちくりとさせて泣き止んだ。
陽太は得意満面だ。
まさか幼い陽太が、私の代わりに健二を慰めてくれるなんて。
元気を取り戻した健二は、ぐずり泣く華に気がついて目を輝かせた。
「健二もプイする!」
今度は二人で華におまじないをするという。
ヒーローたちの真剣な表情に引き込まれ、思わず私も華をあやして応援した。
「「ちちんぷいぷいの~プイ!」」
おまじないの効果か兄達が面白かったのか、なんと華は泣き止んで笑みを浮かべた。
やった! とはしゃぐ二人。
おまじないをかけ合って笑顔になった子ども達を見て、私はふと、何もかも一人で背負い込もうとしていた自分に気がついた。
「ねえ、ママにもおまじないかけてよ、私も笑顔になりたいな」
私のお願いに二人は大張り切りだ。
「「ちちんぷいぷいの~プイ!」」
弾んだ声が左右で響く。間近で見る紅潮した顔が愛おしい。
力みすぎて強張っていた気持ちが、和らいでいく。
夫の申し出を思い出す。
私、もっと肩を借りよう。
おまじないをかけられた私の心は、ふわりと温もりに包まれた。
(了)
お読みいただきどうもありがとうございました。
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