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奇島遊心のショートショート  作者: 奇島遊心
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私の名はスマートフォン

 今日は、私の持ち主であるお祖父ちゃんの、息子夫婦が遊びに来るらしい。


 玄関から父親に続き、母親とその息子が入ってくる。

「久しぶり、親父」

「お邪魔します、お義父さん」

「こんにちは! おじいちゃん」


 普段は年老いた主しかいない家に、活気が満ちる。

「いらっしゃい、遠い所から良く来てくれたね」

 さあ、あがって。と主が3人を促す。一同が居間に入ってきた。



 好奇心旺盛なのか、小さな息子さんはキョロキョロと部屋を見回す。

 そして、私と目が合った。


「? おじいちゃん、この箱は何?」


 と、私を指差す。


「それはね、『スマートフォン』って言うんだよ」


 我が主が、優しくそう言った。




 夫婦二人は私を見て、目を見開く。

「うわっ、懐かしい!」

「スマートフォンって、まだあるんですね・・・」

 息子は首をかしげながら尋ねる。

「おじいちゃん、これ、何に使うの?」


 時は2100年。

 人々は電子チップを体に埋めるのが当たり前の時代になっていた。


 チップの機能によって、インターネットから収集した情報を、脳に直で流すことができる。

 瞬きによってシャッターを切り、写真を取ることも可能だ。

 もちろん、電話だって。


「これが昔の電話? でっけー!」

 と息子が騒ぐ。

 

 ・・・屈辱だ。これでも当時の最新機種で、かなりコンパクトなサイズなんだぞ。


 しかし私は大人なので、小さな子供も戯言なぞ、軽く流してやる。


「俺らが使ってたのは学生の頃だったから、もう30年以上前になるのか」

「時の流れは速いわねぇ」

 夫婦がしみじみとしている。


「おじいちゃん、そもそもどうして『スマートフォン』って言うの?」


「正確な由来は知らないけれど、直訳すると『賢い電話』になるかな」


「はは! こんなにでっかくて、不便そうなのに、『賢い』って!」


 このクソガキめ!!


 主の孫とは思えない、なんと無礼な子供なのか。


 怒りで機体に熱が出てしまった。熱による負荷で、寿命が縮んでしまう。

 ・・・・・壊れたら化けて出てやるからな。


「こら! お祖父ちゃんに失礼でしょ!」

 母親が息子を叱る。もっと言ってやれ。


「はは、良いんだよ。

 確かに若い子から見たら、今時こんなに大きな電話を使っているなんて、不合理に思えるだろう。

 でも、私くらいの世代だと、体に電子チップを入れるのに抵抗がある人も、多くいるんだ。

 だから、スマートフォンの存在はとてもありがたい・・・。

 何より、生まれた時からこいつの世話になってるからね。

 愛着もあるんだよ」


 そう言って、我が主は、優しく私を撫でた。


 ・・・主・・・。

 先ほどまでの怒りは消え去り、私は胸が熱くなった。

 この感覚は、きっと機体の不具合ではないだろう。


「お前も、お祖父ちゃんを見習って、もう少し物を大事にするんだぞ」

「父さん、それは古い考えだよ。

 今の時代、3ヶ月もあれば新しい電子チップが生まれるんだ。

 流行に遅れてると、クラスで馬鹿にされちゃうだろ!」

「もう、この子ったら・・・。すみません、お義父さん」


 そこのチンチクリンが何やらほざいているが、私はもう惑わされない。



 どんなに時代が変わろうと。


 どれだけ発達した技術が広まろうと。


 必要としてくれる者がいるかぎり、私は働き続ける。


 私の名はスマートフォン。


 いつかこの体が壊れるまで、その名に恥じぬ働きを、この年老いた主に捧げたい。

スマートフォンが主人公のショートショートになります。

AIの発達が著しい今日ですが、いつか「スマートフォン? 何それ?」って時代が来るのでしょうか。

待ち遠しいような、恐ろしいような。。



ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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よろしくお願いいたします。

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