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別の家で見つかった日記(2)

*あなたはページをめくった。


 11月6日(晴れ)


 今日は忙しかった。レイゼの魔法の訓練もしたし、何より診療所での手伝いが結構あって大変だった。


 働いて休憩時間に入った時、不意にあの日のことを思い出した。勇者の日記が何故うちにあるのか。


 何気なく聞いただけだった。どうせまた「いずれ話す」と言われるだけだろうと思っていた。


 でもお父さんは、なんと私に、そのワケを話してくれた。


 結論から言うと、うちの先祖はどうやら本物の勇者らしい。そしてこの家は勇者の代から引き継いで改修を重ねて今に至る。だからこそ、勇者の日記が家にあるのだと言った。


 しかし、普通なら女神の力を賜った勇者の私物は、女神教会に送るものだ。実際、日記以外の全ては女神教会に譲渡されている。


 それは何故かとも聞いた。問いに返ってきた答えは「それは教えられない」だった。


 その一言を言った後、お父さんは呼ばれてしまい部屋から出ていった。出て行く前に、お父さんは付け加えるようにこう言った。


「お前は魔王が復活したと思うか」


 わけがわからなかった。


 私が勇者の家系なのはなんとか理解できた。でも、日記を預けない理由を教えないのはなんで?それに、なんで今まで話さなかったのに、今になって話す気になったの?それがわからない。


 しかも、最後の質問。あれはなんの意図があったのか。


 この現状からして、魔王は復活した...と見てもいいのかもしれない。ただ、そもそもあれは物語の中の話だし...。


 まあでも、魔王が復活したなら女神教会が通達してくれるはずだ。そんな凶報聞きたくないけど、答え合わせはその時にできる。


 というより、そもそも情報量が多すぎて色々処理できていない。今こうやって日記を書いている現在時点でも、頭を抱えている状態だ。


 あーーーーー!!!わからん!!!女神様、教えて下さい!




 11月7日(曇り)


 朝、迷ったけど昨日のことがやっぱり気になって、お父さんに聞いた。


 まだ頭の中がこんがらがってるけど、とりあえず書く。以下箇条書きで。


 ・何故、今になって勇者の家系であると話したのか

 →そもそも勇者の家系であることよりも、その日記が本当に勇者が書いたものであり、そこに書いてあることが真実であるということが一番重要。つまり、日記が偽物ではなく本物であるという事実を伝えたかった。


 今になって話した理由は、私自身の力でこれから起きることを、見極める必要があるため、らしい。


 ・これから起きることとは何か

 →死病の蔓延、旅人から聞いた話によると流行病がもうすぐそこまで来ているらしい。ここは人里からだいぶ離れた村だが、そろそろ時間が近い。


 ・何故、日記が家にある理由を話さないのか

 →今の私は話しても信じないから。だからこそ、これから起きることをしっかり見極め、自分の目で見て、自分の耳で聞くことが重要であると言った。


 ・お父さんは魔王が復活したと思うか

 →それは言わない。真実は自分で確かめるべきことだから。


 こんな感じだ。んー、わかったようでわからない。


 なんにせよ、今日の質問で分かったことは。


 1、勇者は実在し日記も本物であること。

 2、死病がいずれここにも蔓延すること。

 3、理由は信じないから話さない。それに真実は自分で確かめるべきことだから、自分で見て確認した方がいいこと。


 まとめてもわからないな。


 というか、なんでお父さんはなんでも理解しているんだろう。ほとんど教えてくれなかったけど、口調が淡々としていて確固たる芯を感じた。まるで、これから起きることを全部理解しているかのような、そんな感じだった。


 わからない。でもとりあえず、一貫して「自分の目で見て耳で聞いて判断しろ」そう言われているし、普段から周りをよく見て、耳を立てておこう。自分で見ろと言われたから、視野を広げるということはきっと大事なのだろう




 11月8日(雨)


 お父さんの言う通りだった。いやでも、これに関しては私もこうなるであろうと予想できた。


 流行病。今の医療じゃ致死率が95%以上の病だ。その患者が今日、この村で出てしまった。感染しないように私は遠くに離されて手伝いをしたが、一瞬視界に映った患者はとても苦しそうだった。


 地上で空気を吸っているのに、水の中で溺れておるかのように苦しみながら胸を掻きむしって、瞳からはとめどなく涙が溢れ、口からは泡が出ていた。


 怖かった。私も感染したらこうなってしまうのか。こんなに苦しみながら死ぬのか。


 感染したくない。できれば、遠くからですら手伝いたくない。もっともっと離れたい。でも、仕事だし、お父さん1人に危険を負わせるわけないはいかない。


 私も医者の娘、当然、患者のことも心配だ。


 ただ、悪いことばかりではない。


 お父さんがこうなることを見越して中央王国に住んでる昔馴染みに、今の所一番流行病に効き目が強いとされている調合薬や、その他の薬草を手配していて、明日くらいに届くのだそうだ。


 すごい良いタイミングだ。


 これで少しでも好転してくれると嬉しい。


 女神様、どうか私たちに慈悲を。明るい希望に満ちた未来をお願いします。




 11月9日(曇り)


 今日はいつにもまして大変だった。患者数も3人に増えたし、手伝いも忙しかった。


 怖いって気持ちがどうしても抜けなくて、逃げ出したくなった。そんな時に、レイゼの行方がわからないという連絡を受け取った。


 どうしてレイゼは何もできないのに、素直に守られてくれないのだろうか。常々思う、レイゼは私よりも知識も力もないのに、何故高みを目指すのか、何故私の後ろにいてくれないのか。


 理解できない疑問が浮かび、忙しさも相まってどうしてもイライラしてしまった。


 それでも私は真っ先に探しに行った。苛つきよりも、心配の方が勝っていたからだ。とても心配で心配で、怖かった。苦しむ患者を見てしまったからか、レイゼが死んでしまうんじゃないかという気持ちに襲われた。


 走り回って、暗くなった頃、崖下に馬車を見つけた。そして横たわるレイゼも見つけた。


 しかし、すぐそこには魔物の姿もあった。私はすぐに助けに行った。魔物を魔法で蹴散らして、落ちている荷馬車の状況を確認してから、レイゼを救出した。


 流石に怒ろうかと思った。でも、ここで怒っても何も起きないし、何より不安な時に怒られるのは精神的にキツいのを知っている。怒られるのは、無事に帰って落ち着いてからでいいだろう。


 だから慰めた。


 でも、慰める気には到底なれなかった。当たり前だ。この村の希望が、あの魔物たちに絶たれたのだから。


 崖下に落ちていた荷馬車には、薬が入っていた。この事実は流石にお父さん以外には誰にも言えない。ましてやレイゼには絶対だ。


 この村は、もう助からないかもしれないと、お父さんは言っていた。私もそんな気がしてきている。


 最後に1つだけ、魔物の様子を見て気になることがあった。妙な胸騒ぎがする。ここに書くことすら憚られるような事実。


 杞憂ならいいけど。


*あなたはさらにページをめくった。

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