84 抑えられない恋心 ②
泣いているルル様をなんとかなだめてソファに座らせると、イグル様が彼女の隣に座った。
イグル様は外見も素敵だし、人柄もいい。ルル様が好きになるのはわかる。
ルル様だって可愛いし、賢くて良い人だ。イグル様はルル様のことをどう思っているのかしら。
……と思ったけれど、二人の年の差は十歳以上離れている。今のところは可愛い妹みたいなイメージかしら。
イグル様に婚約者がいないのは、ルル様を待っているから? それとも他に気になっている方がいらっしゃるとか?
そういえば、婚約者がいない理由を聞き忘れていることに気がついた。
「どんな……っ、はなしをされていたのですか」
ルル様の問いかけで意識を二人に戻す。
イグル様から渡されたハンカチを握りしめ、ルル様は俯いていた。私とイグル様はアイコンタクトをしたあと、代表して私が話すことにした。
ルル様も以前は記憶が書き換えられてしまったため、正直に全てを話すことはできない。だから、転入してきたブロッディ卿とのやり取りを大まかに話すと、ルル様は納得してくれた。
「てんこうしてくるのはきいておりましたが、あのかたは、リゼおねえさまたちとおなじクラスなのですね」
「そうなんです。何か嫌なことをしてくるわけではありませんが、これからどう対応したら良いか、イグル様に相談に乗ってもらっていたんです」
「おにいさまでは、あてになりませんものね」
納得してくれたのは有り難いが、頷くわけにもいかなくて苦笑していると、イグル様が話題を変える。
「泣かないで、ルルちゃん。笑ったほうが可愛いよ」
「あ、ありがとうございます。イグルさまのまえではわらうようにいたしますわ!」
涙を拭いてにっこりと笑うルル様は本当に可愛らしい。
ルル様の機嫌が直って本当に良かった。
近くに秘密を共有できる人がいるのはありがたい。だけど、イグル様に相談するには、学園内でしか厳しいと感じた。
その後は二人には引き止められたが、ルル様に少しでも満足してもらうために、私は部屋を出た。すると、すぐにルカ様が近づいてきた。
「ルルを止められなくて悪い。話は終わったのか?」
「話はできたのですが、ルル様を泣かせてしまいました。申し訳ございません」
「謝らなくていい。リゼとイグルに何かあるわけないんだから、ルルも余計な心配をしなきゃいいのに」
「私とイグル様が二人で、ということが気になったのでしょうね」
本人に聞けば良いことなのだけど、聞く機会もないので、部屋に戻りながらルカ様に尋ねてみる。
「イグル様はとても素敵な方なのに、婚約者がいらっしゃいませんよね。何か理由があるのですか?」
「まあな。表向きの理由は今は学業に専念したいだが、実際は違う」
「本人にお聞きしたほうが良いでしょうか」
「そうだな。あと、聞いてもルルには言うなよ」
「……わかりました」
イグル様は私に話をしてくれるかしら。それに、ルル様に言わないでくれという理由が良いものなのか悪いものなのかわからない。ルル様への秘密を持つことや、どんな気持ちになるのか不安になった私は、しばらくの間は、ブロッディ卿への対処に集中することにした。
なぜなら、ブロッディ卿の私へのアプローチが激しくなっていったからだった。




