79 辺境伯令息の想い ①
「今日も歩き回って疲れたんじゃない?」
「はい。色々とありました」
「良かったら、話を聞かせてくれない?」
パルサ様たちと別れて、ノルテッド辺境伯邸に戻ったその日の夕食後、ダイニングルームを出ようとすると、ライラック様からそう話しかけられたので、談話室で、ライラック様とルル様に今日の話をすることになった。
談話室でお茶を飲んで一息ついてから、今日の出来事を話すと、ルル様は目を輝かせた。
「おにーさまに、ライバルがあらわれたのですか!?」
「……ライバル? パルサ様も同じようなことを言っておられましたが、それってどういうことでしょうか」
「本当は本人の口から聞くのが一番なんでしょうけど、あなたは私の息子の婚約者ですから、息子のライバルに情けはかけないわ」
ライラック様は強い口調でそう言ったあと、笑顔で続ける。
「ブロッディ卿はリゼさんのことを好きになったのかもしれないわね」
「ええっ!?」
ブロッディ卿が私のことを!?
「そ、そんなことはありえません! 私に対して、とても嫌な態度をとってきていたんですから、好きというよりか、どちらかというと私のことを嫌っていると思います」
「でも、今日は大人しかったんでしょう?」
「それは……、そうですね」
マーモットの姿は可愛かったし、今日は嫌なことを言ってこなかったから、今までよりかは嫌な気持ちにはならなかった。
このことをライラック様たちに話せないのが辛いわ。
「ふふっ。これからどうなるのか楽しみね。まあ、勝つのはルカだと信じているけど、どちらを選ぶか決めるのはリゼさんですからね」
「私はルカ様の婚約者ですから、ブロッディ卿を選ぶだなんてありえません」
「あのね、婚約の解消はできないことはないのよ。ブロッディ卿に限らず、リゼさんがルカ以外の人を好きになった時は、正直に話してちょうだいね」
「そんなことはありえないと思いますし、あったとしても言えません」
「もう、リゼさんは私の娘のようなものなんだから遠慮しなくていいの!」
ライラック様はそう言って笑ってくれた。
娘のようなものだと言ってもらえて、とても嬉しい。そんなことを言われたら、余計にノルテッド家に嫁入りしたくなってしまう。
それにしても、ブロッディ卿が私のことを好きだなんて、そんなことってありえるの!?
ない。
ないわ。
あの人は妹至上主義なんだもの。
それに初対面の時もそうだし、次に会った時の印象も悪すぎるわ。
ルカ様と私を離したいがために、私のことを好きになろうと努力しようとしているんじゃないかしら。
そんなことを思っていた次の日、ブロッディ卿から手紙が届いた。
そこには、ルカ様、彼の妹のミノール様と一緒に、四人でカフェでお茶をしないかと書かれていた。
*****
ルカ様の部屋に行って相談してみると、あからさまに嫌そうな顔をした。
「どうして、四人で出かけないといけないんだ」
「……はっきりとしたことはわかりませんが、妹のミノール様がルカ様に会いたがっているのかもしれませんね」
「それなら余計に会いに行くのは駄目だろ。リゼ以外の女性に会いに行くようなもんだからな」
「私も一緒にいますから良いのかもしれませんが、では、どうしますか? お断りしましょうか?」
もし、ブロッディ卿が私を好きだと言うのであれば、行くべきではない。
やっぱり、そのことを伝えるべきか迷っていると、ルカ様が尋ねてくる。
「……もしかして、ブロッディ卿はリゼに興味があるのか?」
「……そうではないかと言われていますが、実際はどうかわかりません。直接、はっきりと気持ちがわかるようなことを言われたわけではありませんので」
「わかった。それなら、ブロッディ卿には俺から連絡を入れるから、リゼは返事をしなくていい」
「……わかりました」
迷惑をかけてしまっているのかも。
そう思って俯くと、ルカ様が頭を撫でてくれる。
「リゼは何も悪くないから気にするな」
「ありがとうございます」
ブロッディ卿がもし、本当に私を好きだったら、ルカ様はどう思うのかしら。
いや、それよりもルカ様がミノール様を好きになる可能性も無きにしも非ずだし、私も頑張らないと!
長らく更新が停まっており申し訳ございません。
コミカライズの連載も始まりましたので、ご興味ある方は活動報告を読んでいただけますと幸いです。




