75 謎の動物の正体②
もしかして、このマーモットという動物はブロッディ卿なのではないかしら。
そんなことを思いながら会計を済ませたあとは、マーモットを騎士に抱っこさせて、ルカ様たちと合流するために武器屋に向かうことにした。
「マーモットのことは、お兄様も知っていますから気づいてくださるでしょう」
イコル様がそう断言できるくらいに、マーモットは目立っていた。
すれ違う人たちは、マーモットを見て驚いた顔をする。
でも、すぐに興味を無くしてしまうようだった。
一瞬だけマーモットに見えて、すぐに犬か猫の姿に記憶が書き換えられてしまっているのかもしれない。
そのスピードに驚きつつも、ブロッディ卿が悪い人間ではないのかもしれないのかと思うと、複雑な気分になった。
悪い人間ではなく良い人間であったほうが良いのは確かだけれど、私にしたことを考えると良い人間のやることとは思えない。
両親の影響で記憶が消されないパルサ様たちのほうが、私にとってはよっぽど良い人なのに、どういう仕組みなのかしら。
ブロッディ卿のお父様も性格は良くないように思えるし、お母様が良い人だったら、力が継続される可能性もあるのか、確認してみないと……、といっても、ルカ様たちに話ができないのでは確認のしようがないわね。
一応、そんな事例があったかどうかだけ確認してみようかしら。
パルサ様たちのことで気になったといえば、おかしくはないわよね。
「イコル!」
「リゼ!」
名前を呼ばれたので声の聞こえてきた方向に視線を向けると、前方からパルサ様とルカ様が歩いてくるのが見えた。
パルサ様は、私たちのほうに駆け寄ってくると、騎士が抱きかかえているマーモットを見て表情を歪めた。
「どうしてここにいるのかな」
「迷い犬のようです。丸々と太っているので飼い犬かもしれませんね」
パルサ様の呟きにマーモットを抱きかかえていた騎士が答えた。
騎士は自分が犬を抱えていると思い込んでいるみたいだ。
丸々と太っているという言葉を聞いて、マーモットは抗議をするように前足で騎士の腕を叩いた。
「犬なんて連れてどうしたんだ」
ルカ様の問いかけに、パルサ様だけでなくイコル様も驚いた顔をした。
そして、イコル様が私に小さな声で問いかけてくる。
「リ、リゼさん。あの、あなたにはあの動物が何に見えるか教えていただけませんか?」
一瞬、犬と答えようか迷った。
でも、せっかく秘密を共有できる相手が見つかったのだし、イコル様に教えていけないのなら私の記憶も消されているはずだと思って正直に答える。
「犬には見えません。なんというか、ずんぐりした可愛らしい動物だなと思います。マーモットという動物を見たことがないので、これがマーモットかと聞かれると答えられませんが」
「そうですわよね。マーモットなんて滅多にお目にかかれる動物ではありませんもの。私もお兄様も本人から聞いて知ったのです」
「本人ということは、やはり、本当は人なんですね」
「ええ」
イコル様は頷くと、顎に手を当てて考える仕草を見せる。
「ルカ様の記憶が操作されるということは、マーモットが何をしに来たかは、ルカ様がいないところで聞いたほうが良さそうですわね」
「はい。あとはお任せしてよろしいでしょうか」
私が頷いた時だった。
マーモットが突然、大きな口を開けて鳴き始めた。
耳に響く高音で「キャー」と小さな女の子が叫ぶような声にも似ている。
「一体、なんなんですの?」
イコル様が耳を押さえてマーモットに尋ねた時、パルサ様が私とイコル様の間に立って小声で言う。
「たぶん、何か言いたいことがあるんだろう。人間の言葉で話すにはここは人が多すぎるから鳴いたんだと思うよ」
「リゼさんがお任せしますと言ってから鳴いたということは、マーモットはリゼさんとお話したいということでしょうか」
イコル様の問いかけにパルサ様は頷いたあと、どうするのかと言わんばかりに私のほうを見てきた。




