73 辺境伯令息の心配事
次期ノルテッド辺境伯夫人になることと、ルカ様の妻になることは同じことなのに、私の中ではなぜか別物になってしまっていた。
こんなことを今更誰かに相談できるはずもなくモヤモヤしていると、パルサ様たちから連絡が来たとルカ様が教えに来てくれた。
ルカ様を部屋の中に通すと、ルカ様は心配そうな顔をして聞いてくる。
「リゼ、長旅で疲れたのか?」
「そんな風に見えますか?」
「ああ。疲れた顔してる」
「申し訳ございません。もっと明るい顔をするようにします」
「別に謝らなくていいって」
ルカ様はそう言うと、私をソファに座らせて、自分はその横に座った。
「なんか様子が変じゃないか。母上たちも心配してたぞ」
「本当に大したことではありませんので気にしないでください」
「気になるから聞いてるんだ」
ルカ様が私に顔を近づけてきた。
恥ずかしくなって目を逸らして首を横に振る。
「本当に大したことじゃないんです! あの、パルサ様からはなんと連絡が来たのでしょう?」
「フローゼル卿が今、どうなっているかを見せてくれるそうだ。だから、都合の良い日を教えてくれって、日にちと大体の時間を教えれば検問所まで迎えに来てくれるって」
ルカ様は無理に聞いても無駄だと諦めてくれてたのか、私の質問に答えてくれた。
「わざわざ来てくださるのですね。申し訳ない気もしますが、他国に行くのは初めてなので楽しみだったりします」
「……リゼはそういうことは嫌がると思ってた」
「嫌ではなくて知らない所に行くのが怖いんです」
「じゃあ、ここに来るのも本当は嫌だったのか?」
ルカ様が悲しそうな顔をして聞いてくるので、慌てて否定する。
「そんなことはありません! ノルテッド辺境伯領に来られて本当に嬉しいです。それに、ここはいつかは私の住む場所になるわけですから」
最後のほうは声を小さくして言うと、ルカ様の耳には届いていたようで嬉しそうな表情に変わった。
そうだわ。
ルカ様の耳は良いんだった。
「そう言ってもらえると嬉しい」
そう言ったあと、ルカ様は私の左頬に自分の右手を当てた。
「リゼ、伝えたいことがあるんだけど」
「な、何でしょうか」
心臓が破裂するんじゃないかと思うくらいにドキドキする。
「辺境伯夫人の仕事については母上がちゃんと教えてくれるから心配ない。あと、リゼはあまり縛られて生きたくはないだろうし仕事も減らすから」
「駄目ですよ。やらなければならないことはやります」
「駄目だ」
ルカ様は今度は左手を私の右頬に当てたから、私は両頬を掴まれている状態になった。
「リゼに無理させて嫌われたくないんだよ」
「……どうかしたのですか? 仕事をしろと言われたからと言って、ルカ様を嫌ったりなんかしません」
今日のルカ様はいつもと違う気がした。
「……いや、リゼはパルサ様と仲が良いだろ」
「そうでしょうか。でも、そう見えるのなら嬉しいです。お友達ができたことになりますし」
「だろ? それにパルサ様に言い寄られたら、ちょっと悩むんじゃないか?」
「そ、それは、悩むかもしれませんけど、私は絶対にルカ様を選びます」
悩むとまではいかないでしょうけれど、ドキドキはしてしまいそうなので、素直に言ってみた。
すると、ルカ様は嬉しそうに微笑む。
「そうだとしたら嬉しい」
「絶対にそうです」
「ありがとう」
ルカ様の顔がさっきよりも近づいてきて、私の鼻にルカ様の鼻が触れた。
ルカ様が目を閉じると、私の目も驚くくらい自然に閉じていく。
でも、唇と唇が重なる前に扉がノックされたため、私とルカ様は慌てて身を離したのだった。




