68 謎の美少女からの敵意
ブロッディ卿には、ルカ様がミノール様と会っても良いと言っているということ。
それから、その時には私も立ち会いたいということ。
もう出発するから、返事を出されても見ることができないと書いた手紙を送った。
そして、手紙を送った次の日の朝から、私たちはノルテッド辺境伯領に向かうことになった。
日帰りで着くような距離ではないため、途中で何度か宿に泊まり、ライラック様とルル様と同じ部屋で過ごした。
別邸以外で誰かと一緒に寝泊まりすることが初めてだったので、最初は緊張したけれど、とても楽しかった。
そして、長いようで短くも感じられた旅も終わり、私たちはノルテッド辺境伯領に辿り着いた。
辺境伯家に向かう馬車の中で、ライラック様が私に話しかけてくる。
「久しぶりに近くの繁華街に寄ってから、家に向かっても良いかしら?」
「もちろんです。あの、ご一緒してもよろしいですか?」
「もちろんよ! でも、ルカと二人で行かなくてもいいの?」
隣に座っているルカ様を見ると、ルカ様はライラック様に顔を向けて大きく頷く。
「俺じゃ案内できないから、二人で行くのは良くないでしょう。だから、俺も付いていきますよ」
「そう言われてみればそうね。あなたはこっちに帰ってきても、部屋でゴロゴロしているか、剣の鍛練をするくらいで繁華街には行かなかったものね」
ライラック様が苦笑すると、ルカ様は眉間に皺を寄せた。
「こっちに戻ってきても友達がいないんですから、仕方がないでしょう」
「あら。おにーさまには、イグルさましかともだちはいない、とおききしましたわよ?」
「うるせぇな。作る必要がなかったから作ってねぇんだよ」
「でも、これから、しゃこうかいにでていくとなりますと、おともだちはひつようですわ」
「大丈夫ですよ、ルル様。ルカ様にはパルサ様というお友達ができたんです」
ライラック様の隣で不安そうな顔をしていたルル様にそう伝えると、ルル様はとても嬉しそうに笑う。
「まあ! そうなんですのね!? パルサさまは、あまりよいひとではないかとおもいましたが、おにーさまとおともだちになってくださるのなら、とってもよいひとですわね」
「そうね。ルカは人付き合いが下手くそだから、よっぽど年齢が上の人か精神年齢が上の人しか、お友達になってもらえなさそうだもの。パルサ様はよっぽどの人格者なんでしょう。良かったわね、ルカ」
ルル様とライラック様に拍手されたルカ様は、無言で二人を睨みつけた。
「ルカ様が羨ましいです。私にはお友達がいませんから」
フォローしたつもりだったけれど、ルカ様は不機嫌そうな顔で言う。
「イコル様とパルサ様は友達だろ。それにイグルだってそうだ」
「……そうですね!」
笑顔で頷くと、ルカ様は表情を和らげて頷いた。
「最近の二人は仲良しで羨ましいわあ」
見つめ合っていた状態になっていた私たちは、ライラック様にからかわれて、お互いに視線を逸らした。
しばらくすると、繁華街のすぐ近くにある、大きな広場の中の乗降場で馬車は停まった。
広場には家族連れなどの人がたくさんいて、広場の中に馬車の乗降場がなければ、かなり離れた場所に停めないといけなかった。
ラビ様とルフラン様は別の馬車で先に帰っていかれたので、広場に降り立ったのは、私とルカ様、ライラック様とルル様だ。
「さあ、買い物に行きましょう! はぐれないように付いてきて! ルカ、悪いけれどルルを抱っこしてあげて」
「父さんじゃあるまいし、ルルを長時間抱っこはきつい」
「レディにむかって、しつれいですわ!」
ライラック様に頼まれたルカ様が首を横に振り、ルル様が頬を膨らませた時だった。
ふと、強い視線を感じて、そちらに顔を向けた。
人の邪魔になることを考えていないのか、道の真ん中に、無表情の美少女が立っていた。
その美少女は私と目が合うと、歯をむき出しにして睨みつけてきたのだった。




