66 ルカの気持ちとリゼの気持ち
私の苦手教科は一つだけ。
だから、ルフラン様にはその教科だけ重点的に教えてもらうことになった。
「ルカ、お前は別にこの科目は苦手じゃないんだから、他の教科を勉強しろ」
「いや、その、じいちゃんに教えてもらいたいっていうか、その、リゼと一緒に勉強したほうが良いかなって」
「駄目だ。お前は邪魔だ」
なぜか、ルカ様が私と一緒に勉強しようと何度も部屋に訪ねてきた。
でも、その度にルフラン様から追い返されている。
ルカ様がいると私の集中力が削がれるからなのだけれど、ルフラン様はルカ様のせいにした。
「申し訳ございません、ルフラン様」
「気にするな。ルカの視線が気になって勉強に集中できないんだろう?」
「……そうです。ルカ様にしてみれば、この問題を必死に考えている私が頭が悪すぎて呆れてるんでしょうね」
一度だけ一緒に勉強してみたら、ルカ様が私を見ている事に気が付いた。
その後は視線が気になって、全く集中できなかったのだ。
「……リゼ」
ルフラン様は大きくため息を吐くと、私が座っている勉強机の椅子の横に立って話をしてくれる。
「祖父の俺が言うのもなんだが、ルカはそんな人間じゃない。あいつは良い意味でも悪い意味でも真っ直ぐなんだよ」
「は、はい。それはわかります」
数式を解く手を止めて、ルフラン様を見上げて頷いた。
すると、ルフラン様が苦笑する。
「ということは、リゼを見てるのは、ただ、リゼのことが気になって見てるだけってことだろ?」
「えっ? あの、私のことを見てしまうということですか?」
「そうだ。だから、ルカはリゼの頭が悪いだなんて思ってもいないし、呆れてもいない。はっきりしないルカも悪いが、リゼもあいつの気持ちを否定するのはやめてやってくれないか?」
ルフラン様はそう言った後に、慌てて言葉を続ける。
「もちろん、リゼがルカのことを好きではないなら気づかないふりをしてもかまわない。ただ、君にはルカの嫁にはなってもらわないといけないから申し訳ないが」
「どういうことでしょう?」
「ノルテッド家の人間は一途なんだ。この人と決めたら、簡単に諦める人間じゃないんだよ」
そう言われて、ライラック様やルル様のことを思い浮かべた。
ライラック様もジョシュ様を口説き落としたと言っていたし、ルル様だってイグル様に全力でアタックしている。
ルカ様も私が気づいていないだけで、私にアピールしてくれているの?
……冷静に考えてみれば、そうかもしれない。だけど、口にしてもらわなければわかりにくいわ。
「私はどうしたら良いのでしょうか」
「ルカは一番大切なことを口に出すのが恥ずかしいみたいだ。でも、必ず言うだろうから、信じて待ってやってくれ」
「わかりました」
すんなりとルフラン様の言葉を受け入れてしまったのは、ルカ様と見た目が似ているからかもしれない。
私から言ってもいいのでしょうけど、ルカ様の口からも聞いてみたい。
ルカ様が口にしたくなるくらい、私は自分磨きを頑張ろう。
それから、私は勉強を続け、無事に赤点を取ることもなく、学園の長期休みに入ったのだった。




