65 ルカの祖父の出迎え
ルカ様との初めてのデートは、あっという間に時間が過ぎた。
二人でデートスポットの庭園に行って花を見たり、ウインドウショッピングをしながら話をすることは本当に楽しかった。
ただ、気になったのは何が原因かはわからないけれど、ルカ様の豹の耳が出てしまうことだった。
機嫌が悪いわけじゃなさそうだし、手を繋いでいるのが駄目なのかと思って、手を離そうとすると嫌がられた。
だから、手を繋いでいたほうが良いのかと思ってそのままでいると、何かのきっかけで耳が出る時がある。
私としては、黒い三角耳が出てるルカ様は可愛いので見ていたい。
でも、周りの目のことを考えると、ハラハラしてしまってデートに集中できなかった。
無事にデートを終えてノルテッド邸に戻ると、エントランスホールでルカ様のお祖父様がメイド達と一緒に出迎えてくれた。
「怖がらせて悪かったな」
人間の姿になったルカ様のお祖父様であるルフラン様は、ルカ様が年をとったら、こんな感じになるのかと思ってしまうくらいに、顔立ちがそっくりだった。
大人の貫禄があって、お祖父様というより、素敵なオジサマで、少しドキドキしてしまう。
「助けていただきありがとうございました。リゼ・フローゼルと申します」
「ルカの祖父のルフランだ。ルカが君にメロメロらし」
「じいちゃん! 久しぶり! 元気だったか!?」
「……自分の父や母には敬語を使えるのに、俺には使えないのか」
話の途中に割って入ってきたルカ様を、呆れた顔でルフラン様は見つめた。
「じいちゃんとばあちゃんには、身内だけの時は敬語がなくていいって言ったじゃねえか」
「まあな」
ルフラン様が笑いながらルカ様の頭を撫でた。
ルカ様は決して背が低いわけではない。
でも、ルカ様のお父様のジョシュ様や、祖父であるルフラン様はかなり高身長なので、ルカ様が軽く見上げる感じになっている。
二人を微笑ましく見守っていると、ルカ様が尋ねてくる。
「リゼは背の高い男が好きなのか?」
「どうしてです?」
「父上のことも素敵だと言ってたから」
以前、ルカ様の前でジョシュ様のことを褒めたことがあり、その時のことを言っているのだと理解した。
「もちろん、素敵だと思っていますけど、背が高いからという理由ではありません」
「じゃあ、父上のような男が好きなのか?」
ルカ様が真剣な顔で聞いてくる。
どうして、そんなことを聞いてくるのかしら。
「あの、いまいちルカ様が何を聞こうとしていらっしゃるのか掴めないのですが?」
首を傾げると、ルフラン様が笑い始める。
「リゼは恋愛には鈍いみたいだな。それとも、ルカのアピールが足りないのか」
「……リゼが鈍いんだよ」
「気持ちは伝えたのか?」
「はっきりとは伝えられてない」
「じゃあ、ルカが悪い」
お2人は私のことを話しているみたい。
しかも、私は鈍いらしい。
もしかして、ルカ様に迷惑をかけていることに気付けていないのかしら?
自分が嫌になるわ。
「リゼ、そんなに悲しい顔はしなくて良い。君は鈍いのかもしれないが、それがわかっていて、はっきり口にしないルカが悪い」
ルフラン様はそう言うと、私にお願いしてくる。
「俺は猫が好きなんだが、この家に住んでる猫たちに嫌われているんだ。だから、仲を取り持ってくれないか?」
「承知しました。ただ、この家にいる猫たちは元野良猫なので、犬などには警戒心が強いかもしれません。野犬に襲われた子もいますから」
「そうか。それなら、狼の俺なんかは特に怖いよな」
話をしながら、屋敷の奥に向かって歩き出すルフラン様に、私たちも慌てて付いていく。
「じいちゃん、どうしてこっちに来たんだよ」
ルカ様がルフラン様に尋ねると、笑顔で答える。
「もうすぐ長期休みだろ? だからお前たちを迎えに来たんだ。そのついでに、王都での買い物を頼まれた」
「絶対に王都での買い物がメインだろ」
ルカ様の言葉に対して、ルフラン様は否定もせずに笑ったあと、私を見て言葉を続ける。
「長期休暇の前のテストは赤点を一つでも取ったら補習だろう? リゼに苦手な科目があると聞いたから教えに来た」
「あ、ありがとうございます!」
デートのことで頭からすっかり抜け落ちていたけれど、テストの日が近付いていることを思い出して、憂鬱な気分になった。




