57 デートの約束
見つめ合ったまま何も言えずにいると、その沈黙に耐えられなくなったのか、パルサ様が口を開く。
「ルカ」
名前を呼ばれただけなのに、理解したのかルカ様が照れくさそうな顔をして口を開く。
「あの、リゼ、良かったら一緒に出かけないか。いや、その、俺とデートしてくれませんか」
ルカ様は動揺しているのか敬語になっている。
尻尾や耳が出ていないか心配になって確認してみると、今のところそちらは大丈夫そうだった。
デフェルのことを聞きにきたはずなのに、予想もしていなかった展開になってしまった。
私としてはルカ様とデートすることは嫌ではない。でも、ルカ様は本当は気が乗らないわよね?
前に二人で買い物に出かけたことはあったけれど、あれはデートとは違うもの。
この場では頷いておいて、あとから無理をしなくても良いと伝えることにしましょう。
そう思った私はルカ様のお誘いに笑顔で首を縦に振る。
「よろしくお願いします」
「ありがとう。じゃあ、改めて日にちを決めるか」
「そうですね」
「二人共、ちゃんとデートしてくださいよ。それから、簡単で良いんで僕に報告してください。報告はどちらからでもかまいません」
そう言ったパルサ様の笑顔は「忘れてたなんて言わせませんよ」と言っているようにも見えた。
その後はイグル様と合流して、パルサ様以外の他校の人と交流した。
話をしてみると、学校によって規則が違っていたりすることで会話が弾み、久しぶりに同年代の女性と楽しい時間を過ごすことが出来た。
パーティーの終了間際にブロッディ卿が私のところへ近付いてこようとしたことに気が付いて身構えた。
でも、私と話をしていた人たちに睨まれたせいか、ブロッディ卿は声を掛けてくることもなく、逃げるように去っていった。
「あの方は野蛮で有名ですのよ。言葉遣いも悪いですし、気に食わないことがあれば、誰にでも乱暴なことをするんですの」
「なんでも力で解決しようとなさる方は嫌ですわ!」
私が話をしている女子生徒は、元々はイグル様やパルサ様を取り巻いていた女性たちだった。
私にはルカ様がいるとわかっているから、ライバル認定もされず、とても優しくしてくれた。
あわよくば私にイグル様たちを紹介してほしいという気持ちがあったのかもしれないけれど、その思惑には気付かないふりをした。
パルサ様は別れ際に、イグル様に話しかける。
「イグルさんに頼みがあるのですが」
「なんでしょう?」
「ルカが変なところにリゼさんを連れて行かないように、アドバイスをお願いいたします」
「え? どういうことですか? 変なところ?」
デートの話を聞いていなかったイグル様は困惑した様子でパルサ様に聞き返した。
パルサ様が先程の話を伝えると、私たちのほうを見て、とても嬉しそうな顔になる。
「うん、いいと思う! 初めてのデートなら、二人っきりだと緊張してしまうかもしれないし、人は多いけれど、カップルばかりのところとかいいかもしれないね!」
イグル様はそこまで言うと、口をへの字に曲げているルカ様の両肩を掴んで言葉を続ける。
「それにルカ! お友達が出来て良かった! このまま友達ができないんじゃないかって、お兄さん、ちょっと心配してたんだよ!」
「お前がいつから俺の兄になったんだ」
ルカ様が眉根を寄せて言っても、イグル様は満面の笑みのままだった。
その様子を微笑ましく思っていると、イグル様が私のほうに顔を向ける。
「リゼちゃんに出会えて本当に良かった。ルカと出会ってくれてありがとう。それにパルサ様もありがとうございます」
「礼を言われることではありませんよ」
「そうです。私はルカ様たちに助けてもらったんですから、お礼を言わないといけないのは私のほうです」
パルサ様と私が首を横に振ると、ルカ様が口を開く。
「会えて良かったと思うのは確かですから。ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます」
パルサ様が爽やかな笑顔を見せると、照れくさそうにしていたルカ様も柔らかい笑みを浮かべた。
その笑顔にドキドキしてしまったけれど、何とか気持ちを落ち着かせて、私もルカ様に気持ちを伝える。
「私もルカ様に会えて本当に良かったです。ありがとうございます」
「リゼ、これからもよろしく」
「こちらこそ!」
ルカ様と微笑み合っていると、イグル様が笑顔で聞いてくる。
「で、デートはいつにする? 早いうちのほうがいいよね? 今決めたら? はい! 話し合って!」
イグル様の強引とも言える提案により、私とルカ様は7日後にデートすることが決まったのだった。




