53 リゼの勘違い
黒いソファーに二人で並んで座り、ルカ様に相談してみると、近い内に学園の行事で他校との交流パーティーがあると教えてくれた。
それに私とルカ様とパルサ様が出席すれば、その時に話ができるんじゃないかと言うので聞いてみる。
「ルカ様も一緒に来てくださるんですか?」
「婚約者が行くのに行かないわけにはいかないだろ」
「学生同士の交流パーティーでしたら、婚約者のことは気にしなくて良いと思いますよ」
ルカ様はパーティーが好きではなさそうなので、気を遣って言ったつもりだった。
でも、ルカ様はなんだか不満そうな顔をして私を見てくる。
「俺が行くと迷惑か?」
「迷惑? どうしてですか? 一緒に行ってくださるのなら、私としてはとても心強いです」
「相手はパルサ様なのに不安なのか?」
「……ルカ様?」
ルカ様が何を言おうとしているのかわからなくて首を傾げると、ルカ様は両手で自分の顔を覆って叫ぶ。
「ああ! 本当に俺は心が狭いな! 気をつける。あとそれから、リゼを信じる」
「ルカ様の心が狭いだなんて思ったことありませんよ! それに、何を言ってらっしゃるのかわからないんですが!?」
ルカ様はかなり動揺しているみたいで、耳と長い髭が出てしまっている。
気になってお尻のほうを見てみると、尻尾は出ていないみたいだった。
もしかしたら、尻尾を出さないことに集中して、顔と頭には気が回っていないのかもしれない。
「あの、ルカ様」
「……なんだよ」
ルカ様は指の隙間から私を見て聞いてくる。
その姿が可愛くて笑みがこぼれた。
そういえば、手にあたっているヒゲは気にならないのかしらと思いながら口を開く。
「可愛いお耳とおヒゲが出ています」
「くっそ」
ルカ様は前屈みになると、頭に出ている耳を手で押さえるようにして引っ込め、頬も同じようにされた。
「人前でこんな状態になったら本当にやばいよな」
「ルカ様が動物のコスプレをしていると思われる可能性が高いですね」
「嫌すぎる」
「可愛いと思いますよ」
「可愛いかどうかはわからねぇけど、俺はそんなのやるタイプじゃないだろ」
ルカ様が吐き捨てるように言うので、笑いながら答える。
「ルカ様はそういうタイプじゃないかもしれませんが、そんな姿を見たら、今の私のように他の人も癒やされると思います」
「……可愛いのは……だろ」
「……何かおっしゃいましたか?」
「何でもない。俺のへたれ、って言ったんだ」
そんなことを言っているようには聞こえなかったけれど、言いたくなさそうだったので深くは聞かないことにした。
でもこれだけは言っておこう。
「ルカ様はへたれではないと思います」
伝えなければいけないことは伝えておいてから、話題を戻す。
「では、イコル様へのお返事に、パーティーのことを書いても良いでしょうか?」
「ああ。俺からもパルサ様に連絡をいれておく」
「ありがとうございます」
お礼を言ってから、気になっていた、もう一つのことを聞いてみる。
「パーティーの時に、ルカ様たちの変身の話についても聞いてみたい気がするんですが、誰かに聞かれたりする危険性もありますしやめておいたほうが良いでしょうか?」
「そうだな。記憶操作をされるにしても、出来れば人に聞かれてしまうかもしれない場所で、そういう話はやめてほしい」
「承知しました」
そんなこと聞かなくても当たり前よね。
私ったら本当に馬鹿なことを聞いてしまったわ。
「あと、リゼがどんな動物になるのかも気になるし、パーティー以外でも俺が一緒で良いなら、パルサ様に会うのは良いと思う」
「ルカ様が一緒だと嬉しいですし、心強いです」
「そ、そうか、それならいい」
ルカ様はなぜか照れているみたいだけれど、どうしてなのかしら。
「ルカ様、今日は何だか様子がおかしくないですか?」
「……普通だよ」
ルカ様は呟くように答えたあと苦笑する。
「リゼはそういうの普通に言えるからいいよな。……いや、俺みたいに意識してないから言えるのか」
「意識してない? どういうことですか?」
「答えは今は言えないけど、俺は意識していて、リゼは意識してない」
どういう意味なのかしら?
もしかして、私がルカ様を男性として意識していないという話をされていたりする?
疑問がいっぱいだわ。
正解が導き出せるかはわからないけれど、とりあえず気持ちを伝えることにする。
「……ルカ様、あの、本当に信じていただきたいんですけど!」
いつもよりも大きな声を出して、ルカ様に向かって言葉を続ける。
「自意識過剰かもしれませんが、もし、ルカ様が私のことを意識しているという話をされているのであれば、その、私もルカ様のことを男性として意識していますから!」
「えっ!?」
ルカ様が目を見開いて聞き返してきたので、顔が一気に熱くなって立ち上がる。
これに近いことを前にも伝えた気がするわ!
恥ずかしい!
「きょ、今日は帰ります! 一人で勘違いして申し訳ございません! お話を聞いていただき、ありがとうございました!」
立ち上がって扉に向かって歩き出すと、ルカ様が呼び止めてくる。
「違うってリゼ!」
違ったんだわ。
あんなに驚いてるんだもの。
私のことを意識してなんかなかったんだわ!
「リゼ、待て」
ルカ様の言葉と同時にゴツンという音が聞こえた。
立ち止まって振り返ると、ルカ様がテーブルとソファーの間にしゃがみ込んでいた。
どうやらローテーブルに膝をぶつけられたようで、涙目で私を見ている。
「大丈夫ですか、ルカ様!? 人を呼んできますね!」
「リゼ! 大丈夫だから、それよりもさっきの話の」
ゴツン!
また、同じところをぶつけてしまったらしく、ルカ様が今度は床に倒れ込んでしまう。
「大丈夫ですか、ルカ様!?」
「何やってんだよ、俺は……」
ルカ様の悲痛な声が耳に届き、私は一度廊下に出て、人を呼んでからルカ様を助けに戻った。




