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【書籍発売中・コミカライズ連載中】こんなはずじゃなかった? それは残念でしたね〜私は自由きままに暮らしたい〜  作者: 風見ゆうみ
第六章

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50 ルカの嫉妬

「な、なんなの!? 生温かさを感じるんだけど!」


 カウアー男爵令嬢は自分の頭の上がどうなっているかわからないからか、わあわあと騒ぎ立てる。


 柔らかそうな鳥のふんが髪の毛についてしまっているし、すぐに頭を洗わないと固まってしまって取れにくくなりそうね。


 呑気にそんなことを考えていると、カウアー男爵令嬢の頭に停まっていた鳥は葉の生い茂った近くの木の枝に飛んでいったかと思うと、またすぐに飛び立ち姿が見えなくなってしまった。

 カウアー男爵令嬢は恐る恐るといった感じで、自分の髪を触る。


「な、なんなの、これ! 鳥のふんじゃないの! ひどい! 気持ち悪いわ! 髪を洗ってくる!」


 人を呼びつけておいてそれはないでしょう。


「ちょっと待って! 髪を洗いたくなる気持ちはわかるけれど、呼び出しておいて放置なんておかしいでしょう! あなたを待っていられないから帰るわよ!」

「そんなわけないだろ! 来い、リゼ!」


 屋敷の奥に行こうとしたカウアー男爵令嬢に言うと、彼女の代わりにデフェルが叫び、私の手を掴もうとした。


 すると、今度は地面に下りていたルル様が片手でデフェルのズボンの裾を器用にめくりあげて、素肌に深く引っ掻き傷をつけた。


「痛いっ! なんなんだよ、この猫!? リゼ! お前が訓練したのか!?」

「私じゃないわ」

「でも、お前の猫なんだろう!?」

「私の猫じゃないって言ってるの。ノルテッド家の猫よ。一緒に来てもらったの。その子に怪我をさせたら、どうなるかわかっているんでしょうね」


 ルル様に怪我をさせたくないので牽制の意味を込めて言ってから、デフェルを睨みつけた。

 彼は少し焦った顔をした後に、なんとか虚勢を張って口を開く。


「何だよ、いきなり強気になりやがって! 今までは猫を被ってたのか!?」

「そうじゃないわ。今まではあなたたちしか頼れる人間がいなかったから申し訳ないと思って我慢していたのよ。でも、今は違う」

「何だと!?」


 デフェルが叫び、私に掴みかかろうとしてきた時だった。


 ルル様が飛びかかる前に黒い大きな影が目の前に現れたかと思うと、デフェルを押し倒した。


「うわあっ!?」


 デフェルは叫び声と共に後ろに大きく倒れ、背中と頭を打ち付けて気を失ってしまった。

 それと同時に、私たちの会話を呆然とした顔で聞いていたカウアー男爵令嬢の悲鳴が上がる。


「きゃあああっ! ど、どうして、こんなところに豹がいるのよ!?」


 デフェルを押し倒しているのはルカ様だった。


 私もどうしてルカ様がいるのかわからなくてオロオロしていると、私の背後から白い何かがニョキッと出てきた。

 ……まじまじと確認すると、アルパカの顔だった。


「……ど、どうして」


 パルサ様までいるの?


 名前を出すわけにはいかないのでパルサ様を無言で見つめると、彼はまるで笑顔を見せるかのように両目を閉じた。


 ルル様も知らなかったのか目を大きく見開いて、パルサ様とルカ様を交互に見つめていたけれど、デフェルを押し倒したままのルカ様に近づいていく。


 ……と思ったら、ルカ様に近づいたわけではなかった。

 ルル様は気を失っているデフェルの顔を前足で何度も踏みつけはじめたのだ。


 パルサ様もゆっくりと近づいていったので、何かを察したのかルル様が横に避けると、パルサ様はデフェルの顔に唾を吐きかけた。


 一瞬にして悪臭が辺りに漂う。


 私の位置からでも臭うのに、鼻の良いルカ様達は余計に辛かったようで、ルカ様もデフェルから飛び退くようにして離れた。


「ど、どういうことなの? なんなの、この白い生き物!?」


 カウアー男爵令嬢がぶるぶると震えながら叫ぶ。


 アルパカはこの国では特に動物が好きだという人間が知っているくらいのものなので、カウアー男爵令嬢が知らないのも無理はなかった。

 

 パルサ様はカウアー男爵令嬢を見て、モゴモゴと口を動かす。


「いやあぁぁっ!」


 唾を吐かれると思ったのか、カウアー男爵令嬢は悲鳴を上げて屋敷の奥に逃げていった。


「……大丈夫か?」


 唖然としていると、ルカ様が近づいてきて私を見上げた。


 黒豹のルカ様は毛並みもとても綺麗でツヤツヤしていて、つい抱きしめたくなってしまう。

 けれど、今はそれどころではないことを思い出す。


「大丈夫です。助けていただきありがとうございます。でも、どうして、ルカ様たちがここに? それに、私に話しかけたりしたら!」


 パルサ様たちにバレてしまいます、と言おうとすると、パルサ様が話しかけてくる。


「ルカ様は大人しく待っていられなかったんですよ。……とにかく帰りましょうか」

「は、はい!」


 パルサ様はルカ様のことを知っているの? ルカ様が自分から話をしたのかしら。

 

 疑問が浮かんだけれど、ここで話す話題でもない。私が頷くと、黄色い鳥が飛んできて私の肩に停まった。


「助けてあげたんですから感謝していただきたいわね!」

「はい。あの、助けていただきありがとうございます」


 黄色い鳥の正体はパルサ様の妹のイコル様だったみたい。

 助けを求めていないのにルカ様が来てくれたこともそうだし、パルサ様たちがルカ様たちの変身のことをどうして知っているのか、パルサ様のたちがそもそもどうしてここにいるのかなど、聞きたいことが一杯ある。

 ここから離れて話を聞こうとした時、屋敷の奥から男性の叫び声が聞こえてきた。


「ひっ! ひいぃぃっ!! どうして、豹がこんなところに!? しかも、なんだ、あの白い生き物!?」


 開かれたままの扉の奥から見えたのは、騒ぎを聞きつけた使用人だった。

 この国の男爵家は平民よりもお金持ちというくらいのものだから、騎士もおらず使用人が数人いるだけだ。騒がしいなと思って駆けつけてみたら、動物がたくさんいたって感じかしら。


 ルカ様が使用人が近づいて来ないように威嚇すると、男性は「――っ!」と声にならない声を上げて床に尻餅をついた。

 もう、撤収したほうが良いと思い、毛を逆立てているルル様に話しかける。


「待ってください。デフェルもこんな状態ですし、改めて学園でカウアー男爵令嬢に話を聞こうと思います。長居をする必要はありませんからもう帰りましょう?」

「しょうちいたしました」


 今ここで猫が言葉を話すのはまずいと思うけれど、どうせ記憶が書き換わるのなら良いわよね。


 苦笑していると、ルカ様がデフェルを指さして尋ねてくる。

 

「で、こいつ、どうする?」

「出来れば、カウアー男爵家を脅した上に、私に乱暴しようとしたということで警察に連れていきたいのですが」

「しょうがねぇな。このまま放っておいても自首なんてしないだろうし、顔のほうに近づきたくないから足を引きずって連れて行くか」

「僕も手伝いますよ」


 そう言ってパルサ様は門のほうに走っていったかと思うと、すぐに姿を消した。

 

「別に人間に戻らなくてもいいのに……」


 屋敷の人間に見られないように扉を閉めて、ルカ様が人間の姿に戻って呟いた。


「そうですね。運ぶだけでしたら私がお手伝いしますのに」

「そういう問題じゃなくてだな」

「どういうことです?」


 聞き返したところで、パルサ様らしき爽やかそうな少年が笑顔でこちらに駆け寄ってきた。


「お待たせしました!」

「公爵令息に手伝わせるなんて申し訳ないんですが、本当に良いんですか?」

「いや、こんな異臭になってるのは僕のせいですからね」


 申し訳無さそうに眉尻を下げるルカ様に、パルサ様は苦笑して答えた。


 パルサ様は噂に聞いていたとおり、いや、想像以上の美少年だった。温和そうだし彼に憧れる女の子が本当に多そうだわ。

 学園ではかなり人気があるんでしょうね。


 失礼だとわかっていながらも、パルサ様をまじまじと見つめていると、彼の隣に立っているルカ様の眉間に皺が寄ったのが見えた。


 見すぎてしまったかしら。慌ててパルサ様から視線を逸らすと、ルカ様に話しかけられる。


「リゼ」

「は、はい!」

「見なくていいから」


 ルカ様の言っている意味が分からなくて聞き返す。


「ど、どういう意味でしょう?」

「すみません、リゼさん。僕を見ないほうが良いみたいです。……そんなに僕って嫌な顔してるかな」


 パルサ様が悲しそうな顔になって私に背を向けると、私の肩に停まったままのイコル様が叫ぶ。


「あら、お兄様は素敵よ! ノルテッド卿! あなた、ちょっと失礼じゃなくって!?」

「いや、違うんです! 俺はそういう意味で言ったわけじゃ!」

「パルサさま、わたくしのあにのふところがせまいだけでございます。まことにもうしわけございません」


 ルル様が猫の姿で頭を下げると、ルカ様も「嫌な顔とかじゃないんです。誤解させて申し訳ございません」とパルサ様に頭を下げたのだった。


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