48 元友人からの誘い
「リゼさんは僕がパルサだと信じてくれるんですね」
もふもふを堪能したあと、バルサ様からアルパカ姿で喋る彼に私がまったく動揺していないことについて尋ねられた。
「あー、えっと、はい。だってアルパカが話すこと自体珍しいことではないですか。ですから、元々は人ではないとおかしいかなと思いまして……」
「……そうなんですね」
苦しい言い訳だったが、パルサ様はすんなり信じてくれたので助かった。これはルカ様達に対する加護の力が働いているのかもしれない。
パルサ様達が頻繁に動物になっても、特に問題になっていないようだし、きっとパルサ様たちにも加護の力が働いているのでしょうね。
目的は達成したのでお暇すると言う彼を玄関のポーチまで出て見送った後、なぜかずっと複雑そうな顔をしているルカ様に話しかける。
「ルカ様、どうかされたんですか?」
「別に」
普段よりも不機嫌そうな気がするのはどうしてかしら。
「あ、ルカ様はもしかして、アルパカが苦手だったりしますか?」
「いや、そういうわけじゃない」
「それとも私、気づかない内に何か嫌なことをしてしまいました?」
「してない」
小首を傾げてルカ様を見ると、視線を逸らして仏頂面になってしまったので話題を変える。
「でも、少しだけ残念です」
「何が?」
「パルサ様の人間の姿を見てみたかったんです。素敵だと聞いてますので、どんな容姿をされているのか気になっていたんです」
「……見なくていいと思う」
「どうしてですか? あ! ルカ様の前でこんな話はいけませんよね! あの、もちろん、私の中ではルカ様が一番です! ただ、どんな人か見てみたかっただけなんです!」
言い訳にしかならないかもしれないけれど、邪な気持ちがなかったことだけは伝えようと必死になって言うと、ルカ様は頬を染めて答える。
「いや、リゼを疑ってるわけじゃなくて、なんつーか、その俺の勝手な感情であって……」
ルカ様は動揺しているのか、耳は出ていないけれど尻尾が出てしまっていた。ピーンと立った尻尾の先がふらりふらりと揺れているのが、とても気になる。尻尾は出ているのにズボンなどが破けるわけではないのが、これも加護の一つなんでしょうね。
ライラック様は本物の豹はどうかわからないけれど、ルカ様の尻尾や耳の動きは猫と同じだと教えてくれた。だから、尻尾の動きを勉強しようと思うのだけれど、なぜか、ルカ様に止められているのよね。
この尻尾の動きはどういう感情なのかしら?
それにしても近くに使用人達の姿がないから良かったわ。
でも、早く尻尾のことを伝えないと駄目よね。
……と思うのだけど、この姿のルカ様はとても可愛いから、もう少しだけ見ていたい。
ニコニコしてルカ様を見つめていると「中に入ろう」と誘われたので、一緒に屋敷の中に入ると、エントランスホールの正面にある階段を下りてきたライラック様と出くわした。
「あら、ルカったらご機嫌そうね」
「何でそう思うんですか」
「あなた、尻尾が出ているわよ」
「あっ!」
ルカ様は今初めて気付いたようで、慌てて尻尾を引っ込めた。
ライラック様はルカ様の感情が尻尾や耳の動きでわかるみたいなので聞いてみる。
「あの、ライラック様、今のルカ様の尻尾の動きはご機嫌な動きなんですか?」
「そう! むぐっ!」
私の質問に答えようとしてくれたライラック様の口をルカ様が手で塞いだため、ライラック様は次の言葉を紡げなくなってしまった。
「何するのよ!?」
人間の姿では力で勝てないと思ったのか、ホワイトタイガー姿になって叫ぶライラック様を見て、誰か来たらどうしようと思って焦った。すると、後から階段を下りてきたルル様が教えてくれる。
「ちかくにしようにんは、おりませんわ。あんしんなさって」
「なら良いのですけど……」
ホワイトタイガーと黒豹って、どちらが強いのかしら?
雰囲気的にはホワイトタイガーね。
動物の姿で親子喧嘩をはじめた二人を見ながら、私は呑気にそんなことを思った。
*****
次の日、ルカ様と一緒に教室に入ると、以前は友人だったカウアー男爵令嬢が近付いてきた。
私がいじめられるようになってから、友人ではなくなった子なんだけれど、いじめがおさまったからか最近はまた私に話しかけてくるようになっていた。
「おはよう、リゼ。あの良かったら、私の家に遊びに来ない? あなたに謝りたいことがあるのよ」
ウェーブのかかった腰まである赤い髪を揺らし、カウアー男爵令嬢は申し訳無さげに話しかけてきた。
小柄で可愛らしい顔立ちだけれど、声が小さめで聞こえづらいという理由で、彼女も昔はいじめられていた。
今は自分をいじめていた人達のグループにいて、一時期はその人達と私を一緒にいじめていたのだから、話しかけてきた時は驚いたものだ。
「別に謝ってもらわなくてもいいわ」
「あのね、リゼ、私は仲直りしたいのよ!」
「……仲直りしたら、今度はあなたがいじめられるかもしれないわよ」
仲直りするつもりはないがそう言うと、カウアー男爵令嬢は微笑む。
「もう大丈夫よ。ノルテッド辺境伯令息を敵に回したくないはずだから」
本当に悪いと思っているのかしら。
「別に謝罪なら今ここでもいいでしょう?」
「お願い! 家に来てほしいのよ!」
今にも泣き出しそうな彼女を見て、ここで泣かれても困るので首を縦に振る。
「……わかったわ。でも、行ける日にちを調整しないといけないから時間をくれない?」
「もちろん。都合の良い日がわかったら教えてもらえる?」
「しょうがないものね」
私が頷くと、カウアー男爵令嬢はホッとした顔になってグループの輪に戻っていった。
「何か裏がありそうだな」
話が聞こえていたらしく、ルカ様が話しかけてきた。
「そうですね」
カウアー男爵令嬢が何を考えているのかわからなかったけれど、私はもう一人じゃないと思うと嫌な気分にはなっても、不安な気持ちにはならなかった。
家に帰り、カウアー男爵令嬢からこんな話があったとラビ様に相談したところ、ラビ様がカウアー男爵家を探ってくれることになった。
そして数日後、あの男とカウアー男爵令嬢が一緒にいるところを目撃していた人がいたということをラビ様は教えてくれたのだった。




