40 レンジロ家の挨拶
数日後、レンジロ家についてわかったことを教えてもらえることになった。
調べてくれたのは、ラビ様だった。
隣国に渡ってレンジロ家に潜入して調べてくれたのだ。
「どうやら、彼らは記憶は操作されないタイプのようだね。あと、長男はアルパカに変化できて、しかも、その姿を気に入っているみたいで、屋敷の中ではアルパカでいることが多い」
「アルパカ、可愛いですものね」
私が頷くと、今日は人間の姿のラビ様は頷く。
「屋敷内の使用人は二人が変身できることを知っていた。しかも、アルパカも妹の小動物も可愛がられていたよ。アルパカはデレデレしていた」
「デレデレしてるアルパカってどんなだよ」
私の隣に座っているルカ様が突っ込むと、ラビ様はうーんと唸ってから答える。
「なんか、顔がニヤニヤしてるというか、何かあるだろう。雰囲気的に」
「わかりますわ! ふだんのアルパカはニコニコしているようにみえますもの!」
ラビ様の隣でルル様がこくこくと頷いて、両手に拳を作る。
「さわりたいですわ! アルパカはこのくにではめずらしいですもの!」
「本物のアルパカじゃねぇんだぞ?」
「ほんものじゃなければかわいくないとおっしゃるのですか? おにーさま、それはまちがっていますわ」
そう言って、ルル様は猫の姿に変身して、つぶらな瞳をルカ様に向ける。
「わたくしはほんもののネコではありませんが、おにーさまは、なかみがわたくしだから、かわいくないとおもわれるのですか?」
「いや、別にルルだから可愛いだろ」
「では、私がウサギになろう」
ラビ様はそう言うと、ウサギの姿に変身した。
大きめの猫とウサギがソファーの上に並んで座っていて、とても可愛らしくて癒やされる。
私は、中身がラビ様でもとても可愛いと思う。
「叔父上だとわかってるけど、見た目が可愛いのは確かだな」
ルカ様が言うと、ルル様は人間の姿に戻り、ラビ様を抱きしめて言う。
「でしょう? ですから、アルパカのすがたをみたら、おにーさまもかわいいとおもわれるはずですわ」
「こんなことを言うのも不謹慎ですが、会ってみたいですね」
アルパカというものを生で見たことがないので、動物好きな私としては一度くらいは見てみたかった。
「その件だけど、妹の次は兄が訪ねてくるという話をしていたよ」
ラビ様の言葉を聞いた、ライラック様が眉を寄せる。
「何をしにくるつもりなのかしら?」
「挨拶に来ると言っていた。ミカナ嬢がアルパカに唾をかけられて、毎回、絶叫しているから、私達に唾をかけてやれば良いと妹は言っていたけれど、兄はそんなつもりはなさそうだよ。ミカナ嬢には素直にむかつくから唾をかけてるみたいだけど」
「考え方が幼稚すぎるでしょう」
ライラック様が呆れた顔で尋ねる。
「長男は何歳なの?」
「十六歳だから、ルカ達より年下だね」
「まだ子供なのね。それにしてもレンジロ公爵は子供を使って何がしたいのかしら。子供達だけで隣国に来させるだなんて考えられないわ」
「さすがに子供達だけで隣国には来ないだろう。本人も来ているんじゃないかな。少なくとも、あと十日後にはやって来ると思うよ」
ラビ様が確信を持った言い方をするので聞いてみる。
「何かあるのですか?」
「この国の公爵家との交流会があるみたいだよ。派閥が違うから詳しいことはわからないんだけどね」
「思った以上に、伯父には味方がいるということでしょうか?」
「かもしれないけれど、フローゼル伯爵は賢くない。だから、何かあれば切られてしまう可能性は高いと思うよ」
「……そうなんですね」
悪事を働いている伯父様だから、切り捨てられてもしょうがない気もするけれど、少し複雑ね。
「甘い蜜を吸うだけ吸って、油断したところに痛い目にあうパターンね」
ライラック様は呟いたあと、少し考えてから言葉を続ける。
「今のところ、フローゼル家は大人しくしているみたいだし、心配なのはレンジロ家のほうかしら?」
「そうだね。長男の名前はパルサというのだけれど、大人しい性格だが女性が好きでね。リゼのことも気になっているようだった」
「リゼのことを?」
ルカ様が聞き返すと、ラビ様はウサギの状態なので、顔を縦に振る。
「ミカナ嬢が何かと口に出すのと、フローゼル卿が君のことを気に入っていることを知ったようだ」
「迷惑だわ……」
こんなことを話していた数日後、私とルカ様は繁華街に買い物に出かけることになった。
イグル様のお誕生日が近いので、その誕生日プレゼントを買いに行くためだった。
最初はルル様も来る予定だったのだけれど「おじゃまはいたしませんわ」とニコニコして辞退されてしまった。
これってもしかして、デートになるのかしら?
私はそう思うと意識してドキドキしてしまうのに、ルカ様は気にしておられないようで、予定していた店に入って、必死に品物を選んでいる。
そんなルカ様の横顔を眺めていた時だった。
店の外が騒がしくなり、気になってガラスの向こうの通りを見てみると、アルパカがいた。
アルパカは私と目が合うと、喜んでいるかのように口を大きく開けた。




