39 ミカナの新しい家?(ミカナside)
お父様達に裏切られて、わたしが連れて行かれたのは警察署の留置所というところだった。
どれだけ嫌な思いをさせられるのかと思ったけれど、実際は簡単な取り調べしかされなかった。
嫌なことをされていたなら、お父様やお兄様のしたことを全部話してやるつもりだった。
だって、わたしを裏切ったんだから!
そう思っていた。
だけど、実際は違うみたいで、お父様はわたしを国外に逃がそうとしてくれていたみたいだった。
警察の人間は買収されているみたいで、わたしに優しかったし、美味しいご飯もくれた。
それに、数日後には、レンジロ公爵家の遣いだという人間がわたしを迎えに来たの。
ということは、わたしを助けてくれるということでしょう?
捕まってから三日以上経ってるし、早く体を洗いたい。
そう思っていたのに、騎士しかいなくて、侍女やメイドがいないの!
しかも、移動中は有名な宿じゃなくて、平民が泊まるような宿に泊まれと言うのよ!
本当に酷い扱いだわ。
食べる料理も留置所で食べていた料理のほうが美味しかった。
移動ばかりで疲れはじめてきた時に、やっと、目的地に着いた。
馬車を降りると、まず一番に見えたのはわたしが住んでいた家なんて比べ物にならないくらい大きな屋敷だったわ。
こんな大きなお屋敷に住めるだなんて!
お父様はわたしにご褒美をくれたのね!?
あの時はショックだったし、かなり腹が立ったけれど、お父様とは仲直りしてあげても良いかもしれない。
「ねえ、私に侍女か専属メイドは付くのよね?」
御者に尋ねると苦笑するだけで、何も答えてくれない。
本当に役に立たない奴ばっかりね!
すると、屋敷の入り口が開かれ、中から執事服を着た年配の男性が出てきた。
わたしを出迎えてくれるのかと思ったら、男性のあとに、白い大きな生き物が出てきた。
あまり見たことのない動物だった。
ラマだったかしら?
その動物に似ているような気もしたけれど、それよりももっとモコモコで可愛らしい。
「あれ、何ていう動物なの?」
御者に尋ねると「アルパカという生き物だそうです」と答えてくれた。
アルパカは執事と一緒に私の目の前にやって来た。
すると、執事がわたしに向かって恭しくお辞儀をする。
「ようこそ、レンジロ家においでくださいました。わたくしの名はバファロと申します。そして、ここにおられる方は、レンジロ家の嫡男であらせられる、パルサ様でございます」
「レンジロ家の嫡男って! これ、アルパカでしょ!? わたしを馬鹿にしているの!? それとも、レンジロ家が馬鹿なの!?」
冗談を言うようなタイプには見えなさそうなのに、執事が真面目な顔をして言うものだから、馬鹿にされているのだと思って文句を言うと、アルパカが突然、私に向かって唾を吐き出した。
「きゃあっ!」
アルパカの唾が私の顔にべっとりとついた。
しかも、すごい匂いがする。
「な、なんなの、臭い! 臭いわ!!」
御者や執事も顔を歪め、少し遠ざかってわたしを見ている。
「ちょっと、呑気に見ている場合じゃないでしょ! とっとと、わたしの顔を洗わせてよ! 何なの、このアルパカ! ふざけないでよ!」
「この方が、ミカナ様の主人となりますので、よろしくお願い致します。とにかく、お顔を洗ってお召し物を着替えられたほうが良さそうですね」
執事がそう言うと、アルパカはまた唾を吐きかけてこようとする仕草を見せたので、慌てて後ずさる。
「ほんと、何なのよ、この馬鹿! ちゃんと躾されときなさいよ!」
人間の言葉なんて通じない。
そう思ったのだけれど、私の罵声を浴びたアルパカは、またわたしに唾を吐きかけてきたのだった。
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