34 ミカナの言い訳②
「ミカナ、あなた、自分が何を言っているかわかってるの?」
「は? 馬鹿にしないでよ。わかってるに決まってるでしょ」
「そのわりにはあなた、自分の言っている話の辻褄が合っていないことには気付いてないのね?」
呆れてしまい、大きくため息を吐くと、ミカナが食ってかかってくる。
「何よ! 言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ! もったいぶらないで!」
「じゃあ聞くけれど、ミカナ、問題になっている砂糖をシーニャのお父様が仕入れたのはいつなの?」
「え?」
「あの砂糖、いつ仕入れたのかわかるの?」
「わからないわ。そんなの調べてないもの!」
それに関しては、ミカナがわかるはずないのは理解できる。
だから、彼女が答えられる範囲内で尋ねてみる。
「でも、今日ではないのよね?」
「そ、そうよ。昨日にはあったわ。だから、料理長が注文したんだわ!」
少なくとも毒入りの砂糖をシュガーポットに入れるには、今日の朝までには手に入れておかないといけない。
砂糖を入手したのが、今日ではないという事を確認するために、そんな質問をしてみたら、ミカナは私にとっては都合の良い答えを返してくれた。
「ありがとう、ミカナ」
「何なのよ、何が言いたいのよ!?」
「あなたは、シーニャのお父様が、シーニャをクビにしたあなたに対して逆恨みをして毒を仕入れたと言ったわよね?」
「そうよ!」
「なら聞くけれど、あなたがシーニャをクビにしたのはいつ?」
「今日だけど」
「……おかしいわよね?」
「は?」
ミカナは眉間にシワを寄せて聞き返してくる。
「別におかしくないでしょ。恨みがあるから毒入りの砂糖を手配したのよ」
「まだ、私の言いたいことがわからないの? シーニャのお父様があなたを逆恨みするきっかけは、昨日までの段階では起こっていなかったのよ?」
「あ……」
「それなのに、どうして毒を手配するの? それに、シーニャのお父様は平民よ? どうやって毒を入手したの?」
「そ……、それは……!」
ミカナは焦って周りを見回し、誰かに助けを求めようとした。
でも、この場に彼女の味方がいるはずもなかった。
パニック状態になったミカナは、とんでもないことを言い始める。
「そうだわ、そうよ! 拾ったのよ! 拾って、捨てるのは勿体ないから使おうと思ったんだわ!」
「……誰が砂糖を拾ったの?」
「このメイドの父親よ!」
ミカナはシーニャを指差して叫んだ。
ライラック様は、見ているだけでも辛くなると言いたげな顔をしているし、ラビ様もミカナを見つめて、キョトンとしている。
呆れ返ってしまう気持ちはわかるわ。
私だって理解できないもの。
シーニャと彼女のお母様は、ミカナに怒られないようにか、俯いて何も言わない。
「フローゼル家って、使用人が拾ってきた砂糖を使わないといけないほどにお金に困っているの?」
「そ……、そういうわけじゃないわ!」
「じゃあ、真面目に話をしてちょうだい」
「私は真面目よ!」
「そうじゃないから言ってるのよ! あなたが答えられないなら、料理長に確認するわ」
「待って!」
ミカナが慌てた表情で叫んだ。
料理長に確認されるのは困るみたい。
料理長が何か知っているのかもしれないわ。
だから、私を止めようとしているんでしょうね。
わかってはいるけれど、一応、聞いておく。
「どうして料理長に質問しては駄目なの?」
「料理長は忙しいからよ!」
「じゃあ、休憩時間まで待っていても良いかしら?」
「駄目に決まってんでしょう! 料理長の休憩時間なんて一生ないわ!」
ミカナはヒステリックに叫ぶと、私に向かって「帰れ!」と叫んだ。
料理長の休憩時間が一生ないなんておかしいでしょう。
「……どういうこと? 殺意を認めるの?」
「違うわよ! 言いがかりをつけてくるから帰れって言ってるの! もう! 楽しくないからとっとと帰んなさいよ! メイドだろうがなんだろうが、好きなだけ連れて帰ればいいわ!」
「……そうね。シーニャさんのお父様が帰ってこられたら説明をして、了承が出たら連れて帰らせていただくわね」
ライラック様に言われ、ミカナはさすがに暴言を吐くことは出来ずに、モゴモゴと口を動かすだけだった。




