32 リゼの企み(ミカナside)
どうしてこんな事になっちゃったのよ!
大きな声で叫びたかったけれど、この場にいるのはリゼだけじゃなくて、ノルテッド辺境伯夫人もいる。
本当に邪魔だわ。
というか、なんだか足が痛いわ。
って、そうよ!
あの大きなウサギに蹴られたんだったわ。
見てみると、ウサギはリゼに抱っこされて無の顔をしている。
リゼが飼ってるだけあって、本当にふてぶてしい性格をしてるわね。
人を蹴っておいて、悪気なさそうにしてるなんて信じられないわ。
部屋の中に案内して、好きな席に座ってもらってから、まったく役に立たないメイドを睨みつける。
「あ……」
メイドは泣きそうな顔をしてわたしを見たあと、しゅんとなって俯いた。
平民のくせに出しゃばろうとするからよ!
視線を感じて、リゼのほうに目をやると、リゼは呑気にノルテッド辺境伯夫人と話をしていて、わたしを見ていなかった。
わたしを見ていたのは、巨大ウサギだった。
巨大ウサギはリゼに抱っこされた状態でテーブルに前足を置き、いかにも自分もお茶を飲むといった感じに見える。
ああ。
どうせなら、このウサギにも毒入りのお茶を飲ませてあげたい!
本当ならリゼに毒入りのお茶を飲ませて、彼女を殺してしまうつもりだった。
わたしが疑われても、お茶を淹れたのはわたしではなくて、学のない子供だと言えば、皆、あのメイドを犯人にすると思ったのに!
「ミカナ、毒見役の人は必要かしら? 今日は私はあなたからのお茶を飲む気はなかったから、毒見役の人は中まで連れてきていないの。フローゼル家には毒見役がいなさそうだし、呼んできたほうが良い?」
「え、えーっと、そうね」
リゼに聞かれて考える。
毒見役を連れてきてもらえば、毒見役が死ぬから、わたしは死ななくてもいいわよね?
「何を言っているのよ、リゼさん。まさか、ミカナさんが毒の入ったものなんて用意するわけがないじゃない」
「そうですね! だって、ミカナと私は一応、姉妹なわけですし、仲直りしたいと言うくらいなんですから、まさか、そんなバカな事はしませんよね?」
ノルテッド辺境伯夫人の言葉に頷くと、リゼは笑顔で言う。
「ミカナ、遠慮せずに飲んでね? 私達はあなたが飲んだのを確認してから帰るから」
「ちょっ、ちょっと待ってよ! わたしだけ飲むなんておかしいでしょう!」
「ライラック様も飲まれるお茶なら、毒見は必要でしょう? あなたが主催者なんだから、何もないというのなら、あなたが証明してくれればいいじゃない」
リゼが偉そうに言ってきた。
リゼも腹が立つけれど、こっちをジッと見てくるウサギにもイライラする。
あの鼻をヒクヒクさせてるのは何なのよ!
そうだわ。
良いことを思いついた。
「ねえ! そのウサギにも飲ませてあげない?」
「駄目よ。ウサギはお茶は飲まないわ」
「で、でも、ウサギなら万が一死んでも」
「いいわけないでしょう」
リゼとノルテッド辺境伯夫人の否定の声が重なると同時に、ウサギは前足をバンとテーブルに叩きつけた。
何なのよ。
わたしに毒入りのお茶を飲めって言うの!?
絶対に嫌よ!
リゼを殺すつもりが、自分で自分を殺すなんて間抜けすぎるじゃないの!
「ど……、どうぞ……」
わたしがどうにか逃げる方法を考えている間に、メイドはお茶を淹れ終え、ご丁寧に、あのシュガーポットの砂糖を入れて、わたしの目の前に置いた。
「あ、ありがとう。でも、今は飲みたくないわ」
「……申し訳ございません」
メイドがしょんぼりして謝ってくる。
謝るくらいなら、お茶をさげなさいよ。
――そうだわ!
「ねえ、リゼ。あなたのメイドなんでしょう? あなたが責任を持って飲みなさいよ」
「どうしてよ」
「わたしはあなたのメイドなんて信用できないの」
「……わかったわ」
「ほ、本当に!?」
危ない。
喜んでしまったら疑われちゃうわ。
「リゼさん、やめておいたほうがいいんじゃない? 毒見役を連れてくるわ」
ノルテッド辺境伯夫人が席を立つ。
「ちょっと、あんたメイドなんだからご案内して」
メイドに言うと、こくりと首を縦に振って、ノルテッド辺境伯夫人を案内していった。
「リゼ、私を信用して飲んでくれない?」
「……そこまで言うのなら」
やったわ!
さよなら、リゼ!
「じゃあ、もったいないから飲むわね」
そう言って、リゼはわたしの目の前に置かれていたお茶を飲んだ。
すると、リゼはソーサーにカップを置いて首を傾げる。
「何だか、変な味が……」
リゼは慌てたようにウサギを床におろすと、椅子から落ちて床に倒れる。
ウサギは心配しているのか、リゼの顔を覗き込んでいる。
ゲホゲホと咳き込むリゼ。
「やった、やったわ、リゼ! やっぱり、あんたはバカね! こんな罠にひっかかるなんて! あんたはここで死ぬのよ!」
「ミカナ……、ど……うして」
リゼは苦しそうな声を出して床に倒れ込んだまま、顔を上げずに聞いてきた。
「どうして? あんたが嫌いだからよ! 早く死になさいよ!」
「恐ろしいことを言うわね」
ノルテッド辺境伯夫人の声が聞こえて振り返ると、入り口にノルテッド辺境伯夫人とメイドの母子が立っていた。
嘘でしょ。
何でいるのよ!?
帰って来るのが早すぎるでしょ!?
「ミカナ、あなたって本当に最低な人ね」
そう言って、リゼが顔を上げて、私を睨んできた。
嘘、どういうこと!?
リゼは毒を飲んだんでしょ!?
どうして死んでないのよ!?




