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【書籍発売中・コミカライズ連載中】こんなはずじゃなかった? それは残念でしたね〜私は自由きままに暮らしたい〜  作者: 風見ゆうみ
第三章

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28 巨大ウサギの攻撃

 その日の内に、ミカナにはお茶会に出席するという内容だけの返信を送った。

 大勢連れていくわけではないのと、フローゼル家よりもノルテッド家の方が格が上なのだから、何も言わずにライラック様達と一緒に行ったとしても、フローゼル家としては責められない。

 それに、そんな噂が流されたとしても、他の高位貴族も事情がわかっているから何も言わないはずだし、悪い噂を払拭してくれるはずだった。


 問題なのは、全ての高位貴族が王家に協力している派閥というわけではないということなのだけれど、今は考えないでおく。


 私が考えないといけないのは、ミカナが何かを仕掛けてくるだろうから、その罠にはまらないこと。


 そして、そのチャンスを生かすこと。


 エセロとミカナは表向きには上手くいっていたから、ルカ様がエセロから情報を仕入れてくれている。

 でも、お茶会で何を企んでいるかまではわからないみたいだった。


 ミカナだけが考えた計画なら、くだらないものだろうから良いとしても、他の誰かが介入しているなら、何を考えているのかわからないだけに楽観視できなかった。


*****


 そして、その日がやって来た。

 お茶会での意地悪でよく聞くのは、お茶をかけられることだと聞いたことがある。

 ミカナのことだから、それを知っていたら、あからさまに私にお茶をかけてくる可能性はある。


 というわけで、ラビ様を私が抱きかかえてお茶会に出席することになった。


 ラビ様は巨大ウサギなので、お顔も体も普通のウサギに比べたらかなり大きい。

 抱きかかえると、私の顎のあたりに、ラビ様の顔があるという感じで、まるで子供を抱きかかえている感じだった。

 

 この状態だと、ミカナから頭からお茶をかけられない限りは、ほとんどラビ様にかかってしまうことになる。

 これに関してはライラック様の命令であることと、ラビ様が自分から申し出てくださったので、素直に抱かせてもらうことになった。

 鼻をひくひくさせて耳を動かしている仕草が可愛いから、こんな時だというのに癒やされてしまう。


 久しぶりにフローゼル家に着くと、庭の手入れがされておらず、小道やポーチの階段付近には雑草が生えていた。


 庭師もノルテッド家の別邸に来ているから、新たな人を雇っていないのかもしれない。

 

 出迎えてくれた使用人も見たことのない人で、やって来たのが私だけじゃないと知って、ティールームに案内するわけでもなく、ミカナの指示を確認するために屋敷の奥に行ってしまった。


「お客様をエントランスホールに立ちっぱなしにさせるだなんて」


 ライラック様が大きく息を吐き、おろしている髪をかきあげた。


「申し訳ございません、ちゃんと教育ができていないようで……」

「リゼさんのせいじゃないわよ。きっと、この家に来たがる人間がいないから、メイドの仕事をしたことがない人を雇っているのかもしれないわ」

 「教育する人もいないということですね」


 話をしていると、バタバタという足音が聞こえてきて、ミカナかと思ったら現れたのはデフェルだった。


「よお、リゼ。……おっと、失礼しました。ノルテッド辺境伯夫人もおいででしたか。ようこそ、フローゼル家へ。歓迎いたします」


 デフェルはライラック様に向かって恭しくお辞儀をした。


「フローゼル卿ね。歓迎していただけて光栄だけれど、私達はいつまでこうしていればいいのかしら?」

「夫人を茶会の会場へメイドにご案内させましょう。リゼ、お前はこっちへ。っていうか、そのでかいウサギはなんなんだよ。お茶会に連れてくんなよ」

「私はミカナに呼ばれてここに来たの。あなたに用事もないし、ウサギを受け入れてもらえないというのなら、私は帰るわ。別にミカナにも会いたいわけじゃないし、あなたとも一緒にいたくないもの」


 デフェルの魂胆なんてわかっているから冷たく突っぱねると、彼は一瞬、表情を歪めた。でも、すぐに平静を装って話し掛けてくる。


「そんなにイライラしないでくれよ。俺もお前に悪いことをしたと思ってるよ。ほら、ノルテッド辺境伯夫人も困ってるだろう」


 そう言って、デフェルはライラック様のほうに視線を向ける。

 見つめられたライラック様は小首を傾げた。


「私にしてみれば、リゼさんを連れて行こうとしている、あなたの存在に困っているのだけれど?」

「え!? あ、いえ、その、リゼに少し、用事がありまして。ほら、リゼ、とにかく来い」


 焦りながら、デフェルが私に向かって手を伸ばしてきた時、私の肩に顔をのせて、デフェルに後頭部を見せていたラビ様が、デフェルに向き合うような体勢になった。


「あ、何だよ、このウサギ。いっちょまえにボディガードか何かかよ。それにしてもでかいな」


 一瞬、躊躇したデフェルだったけれど、ラビ様に触れようとでもしているのか、今度はラビ様のほうに手を伸ばした。

 

 ガブリ。


 そんな擬音語が聞こえてきそうな勢いで、ラビ様が躊躇なくデフェルの指を噛んだ。


「ぎゃああああっ! いってぇっ! なんだっ! この力っ! ウサギのくせに。うわあっ! 血がっ 血が出たああぁっ!」


 デフェルはぎゃあぎゃあわめきながら、手を洗いにでも行くのか、それとも誰かに手当てをしてもらうつもりなのかはわからないけれど、屋敷の奥に向かって走っていく。


「ウサギのくせにと言うが、ウサギの噛む力は強いのだよ。ふむ。口をゆすぎたいので、あとで水をもらえるかな?」

「今すぐのほうが良いのであれば、馬車で待たせているライラック様の侍女が水を持っているはずです」

「そうだね。今すぐのほうが良いかな。馬鹿が感染してはいけないからね。それにしばらく待たされそうだ」

「わかりました」


 ラビ様を連れて、一度、屋敷の外に出て、ラビ様が口をゆすがれたあとに屋敷の中に戻った。

 すると、エントランスホールでミカナが待ち構えていた。


「な、何なのよ、そのでかいウサギ! 前にも見たような気がするけど、そんなに大きかった!?」

「ガゼボにいたウサギじゃないわ」


 本当は一緒なのだけれど、ミカナの記憶の中では小さなウサギになっているみたいだから、そう答えた。 

 

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