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【書籍発売中・コミカライズ連載中】こんなはずじゃなかった? それは残念でしたね〜私は自由きままに暮らしたい〜  作者: 風見ゆうみ
第三章

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23 エセロの理由②(エセロside)


 放課後、僕はミカナの体が心配だったのと、彼女の考えが変わっているか確かめたかったということもあり、ミカナの家に向かった。


 すると、エントランスホールで、彼女の兄であるフローゼル卿が出迎えてくれた。


「ミカナは今は昼寝中だよ。俺が話を聞こう」

「……いえ。ミカナが心配で来たんです。それなら、今日は帰らせてもらいます」

「そんな暗い顔するなよ。ミカナは君のことを嫌ってないからさ」

「……おかしくないですか? 自分だけ助かろうとした男ですよ? しかも、リゼを責めるだなんて……」


 普通、兄であるなら、妹を助けずに自分だけ助かろうとした婚約者を責めてもおかしくないはずなのに、目の前のフローゼル卿はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべているだけだった。


 嫌な気持ちになり、僕は彼の返事を待たずに「失礼します」と一言言ってから踵を返した。


「おい、ちょっと待てよ」


 フローゼル卿が僕の肩をつかもうとしたので、咄嗟によけると、彼は不満そうな顔をした。


「なんだよ、そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいだろ。俺は未来の兄なんだぞ?」

「そうなるかはわかりません。僕は最低な男ですから、ミカナ嬢にはふさわしくないんです」

「なんだよ、クヨクヨすんなって。大きな犬に襲われそうになって怖くて逃げ出したなんて、そりゃあ恥ずかしいよな。でも、お前みたいな奴は他にもいると思うぜ?」

「婚約者を置いて逃げる男がそうたくさんいるとは思えませんが」


 僕が言い返すとは思わなかったのか、フローゼル卿は不機嫌そうな顔になって言う。


「おいおい、お前、やっぱり、リゼが良くなったとか言うんじゃないだろうなぁ! ふざけやがって!」

「何も言っていません! どうして、そんなことを思うんですか!」


 どうしてそんなことを言い出すのか、わからず、声を荒らげて聞き返した時だった。


「ああ! エセロ! やっぱり、エセロの声だったのね!」


 エントランスホールの真正面にある階段の上から、真っ白なレースがふんだんに使われた、ネグリジェ姿のミカナが現れた。

 彼女の姿をみて、僕は慌てて彼女から視線をそらす。

 彼女のネグリジェが透けて、下着が見えていたからだ。


「おい、ミカナ。下着が見えてるぞ」

「嘘っ!? お兄様、見ないでください!」


 叱ったのかと思ったけれど、フローゼル卿はミカナの姿を見てニヤニヤしている。

 彼がいたら、まともな話は出来そうにない。

 そう思った僕は今日はミカナと話すことを諦めることにした。


「ミカナ、今日は僕は帰ろうと思う。明日、改めて来ても良いかな?」

「かまわないけど、もっとゆっくりしていったらいいのに」

「……いや。君はそんな格好だし、着替えて、お兄さんとゆっくりすればいい」

「ミカナ。ソファロ卿は、リゼのことが諦められないみたいだぞ」


 突然、フローゼル卿がそんなことを言い出したので、慌てて、彼の言葉を否定する。


「僕は何も言っていません!」

「いやいや。わかってるよ。リゼに誘惑されたんだろ? 俺もそうだった」

「……俺も?」


 僕が聞き返すと、フローゼル卿はヤニで汚れたみたいに黒に近い茶色の歯を見せて、にたりと笑う。


「ああ、そうだ。俺もリゼに誘惑されたんだ。誘惑してきたくせに抵抗してくるんだから、困った女だよ」

「エセロ、リゼに騙されちゃ駄目よ! リゼは悪い女なんだから!」


 そう言って、ミカナは僕に抱きついてきた。


 リゼが、フローゼル卿を誘惑?

 そんなことがあるわけがない。

 だって、その頃は僕と婚約していたんだから。


 その話を聞いた僕は、二人が何か他にも言っていたけれど、ショックでほとんど聞き取れなかった。


 まさか、リゼが浮気していただなんて。


 人のことを言える立場じゃないってことはわかってる。

 だけど、もし、リゼが浮気をしていたなら、僕と同じだ。

 それなら、僕にもリゼと幸せになる権利はあるんじゃないか?


 馬車の中でそんなことを考えている間に、家にたどり着き、屋敷の中に足を踏み入れた。


 一度、部屋に戻ってから着替えを済ませて、夕食をとるためにダイニングルームに向かう。

 何だか、屋敷内がいつもよりも静かな気がした。


 出迎えてくれたメイド達の表情もどこか暗かったし、何かあったのかもしれないと不安になってきた。


 ダイニングルームには両親が揃って向かい合って座っていた。

 二人共、暗い顔で俯いている。

 ここ最近、笑顔が少なくなってきたのは知っていたけれど、そんなものの比じゃなかった。


 まるで、誰かが死んだみたいだ。


「どうかなさったんですか?」


 恐る恐る尋ねると、父上はゆっくりと顔を上げて、生気のない瞳を僕に向けて答える。


「このままだとソファロ家は終わりだ。店のスタッフが皆、退職願を出していった。求人願いを出してはいるけれど、そう簡単に集まるはずがない」

「ど、どういうことですか!?」

「ノルテッド辺境伯家が手を回したそうよ……。このままじゃ、店は潰れるわ!」


 聞き返した僕に、母上は声を震わせて答えた。


「このままじゃ、お金も入ってこないし、リゼへの慰謝料を払ったから店の売上金以外の現金はもうないんだ。家財を売らなければいけなくなる。最終的には……」


 父上の言葉の続きを聞きたくなかったから、思わず耳を塞いだ。


 嘘だ。

 どうして、リゼと婚約破棄しただけで、どうしてこんなことになるんだよ!?

 

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