無実の罪でなんて……
処刑台が設置された広場に、一人の罪人が引き出された。
「これより、オリアーヌ・デ・フォル侯爵令嬢の処刑を執り行う!」
数週間前まで、彼女は、王太子ピエロの婚約者だった。
しかし、今現在彼の傍らに立つペラジー・デ・ゴーモン侯爵令嬢に篭絡されたピエロは、オリアーヌがペラジーを殺害しようとしたと言う話を信じて、彼女を罪人として捕縛させた。
ペラジーは、偽の目撃者も用意しており、ピエロは微塵も疑わなかった。
そして、オリアーヌのアリバイを証言した自身の親友を、オリアーヌの共犯者と決め付けた。
更に、ピエロは、ゴーモン侯爵がでっち上げたフォル侯爵の反逆計画を信じた。
王国建国時代からの忠臣であったフォル侯爵の一族は、こうして、滅びる事となった。
断頭台に固定される直前、オリアーヌは、広場に設けられた高位貴族用の観覧席を見上げた。
王太子であるピエロと左隣に立つペラジーが、楽し気に処刑の瞬間を待っているのが見える。
彼女の斜め後方に、ゴーモン侯爵の姿もあった。
「私は、無実の罪でなんて……」
刃の下、板に首を挟まれたオリアーヌの呟きは死刑執行人にだけ届いたが、彼は、下を向くオリアーヌの口元に浮かんだ笑みを見る事は出来なかった。
仮に見えたとしても、何も出来なかっただろう。
「キャアアアア!!」
観衆から悲鳴が上がったのと、刃が落下したのは同時だった。
「殿下っ!」
「早く消火しろ!」
悲鳴が上がったのは、ゴーモン侯爵親子が、一瞬で炎に包まれたのが見えたからだった。
炎は、ペラジーの直ぐ側に居たピエロにも、燃え移った。
魔導師隊の消火が間に合い、ピエロだけは助かった。
しかし、彼が負った火傷は、回復魔法でも完全に治せなかったので、大きく痕が残った。
「一体、誰が……?」
「犯人を捜せ!」
ピエロは命じたが、結局、犯人は見付からなかった。
オリアーヌが魔法を使える事を隠していた為、彼女の仕業だとは思わなかったのである。
市井では、初代国王──通称、炎王──の怒りとの噂が流れた。
どうせ処刑されるのならば、ペラジー様の望み通りに、殺害して差し上げましょう。
彼女の嘘と違って、私は、失敗なんて致しません。
それに、私は、忠臣フォル侯爵の娘。
このままでは、ピエロ様は、嘘に騙された愚かな王太子。
ですから、嘘を本当にする為に、反逆も致しましょう。
「私は、無実の罪でなんて、死にません」
それでは、お三方。
地獄でお会い致しましょう。